第3話 冒険者

「冒険者!?」


考えもしなかったことにソーマは素っ頓狂な声を上げた。

宮廷魔術師などの高給職が安定な職業なのに対して、冒険者は完全に成果主義である。

主に人類未開の地の探索をし、モンスターを倒して素材などを得たり、ダンジョンで得た道具を換金したりして生計を立てる。

当たれば大金持ちになれる一方、人によっては食べていくだけでやっとという職業である。命の危険もあり、命知らずの博打職と揶揄されることもある。


「ソーマ、使い魔は残念だったけど、ソーマ自身の実力はあるからきっと冒険者でもやっていけると思うんだ。私も一緒に冒険者になるから。ね?」


「でも、アリサ、王立騎士団に入りたかったんじゃ…どうして急に冒険者なんて?」


「それは…ソーマが宮廷魔術師になるっていうから…一緒の職場で働きたいなぁなんて思ったから王立騎士団を志望してたわけで...」


なんだかごにょごにょ言っていてソーマには聞き取れなかった。


「とにかく、宮廷魔術師に匹敵するお金をゲットできるのは冒険者だけだと思うんだ。カレンちゃんのためにも一緒にやろうよ」


冒険者、それもありかもしれないな。ソーマは家で妹と相談してみることに決めた。


「それより、アリサ、両親は賛成してくれたのか?」


博打職なんて言われる冒険者になることを果たして認めてくれるだろうか?


「それがね、冒険者になりたいって言ったら…


アリサ母『いいじゃないの冒険者。国の言いなりになるよりも、ロマンに満ちた職業じゃない。広い世界を見てらっしゃい』


アリサ父『パパはアリサをそんな危険な職に就かせることには反対だ、でもどうしても就きたいのならパパも応援しよう』


って言ってくれたんだ」


じつは続きがあって


アリサ母『それに、好きな男の子と思いを遂げたいものね、ママ応援しちゃう』


アリサ父『それに関してパパは断固反対だ。許さん。許さんぞぉぉぉぉ』


と言われたことはソーマには内緒である。

若干顔を赤らめるアリサを不思議に思いながら二人は別れる。

別れぎわ、


「いい返事、待ってるよ」


とアリサが期待に満ちた目を向けてきた。


家に帰るとカレンが食事の準備を済ませていた。


「ありがとう!いつもホントに嬉しいよ!」


ソーマは心からの感謝を述べる。


「やだなぁ、お兄ちゃん。そんなに言われるほどのことはしてないよ」


「いつも、家で迎えてくれる。それだけでうれしいよ」


そこまで言うと若干カレンの表情が曇る。少しの静寂が訪れた。


「実はカレン」

「あのねお兄ちゃん」


ソーマとカレンは同時に口を開いた。


「先いいよ!!お兄ちゃん!」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


こういう時は訳もなくあわててしまうものである。


ソーマは真剣なまなざしで言う。


「冒険者になりたいって言ったらどうする?」


「冒険者?」


「ああ、冒険者になれば、たくさんお金を稼いでいい暮らしをさせられると思うんだ。でも、冒険に出ている間カレン一人になっちゃうのが心配で仕方なくて」


ソーマは冒険者になること自体は抵抗がなかったが、その間、妹を一人にしてしまうことが心配だったのだ。


「それに関してお兄ちゃん、私も言いたいことがあるの」


カレンが口を開く。


「前、アリサちゃんのところの食堂で働くって言ったよね。で、おじさんとおばさんに住み込みで働かないかって言われて…お兄ちゃんを一人っきりにすると悲しむんじゃないかと思ったけどちょうどよかった!だから安心して冒険者になっていいよ!」


カレンは笑顔で言う。そして、真顔になりこう付け加えた。


「でもお兄ちゃん。これだけは約束して。絶対に死んだり、大きなけがしちゃダメだよ。悲しみで後を追っちゃうよ」


その言葉にソーマも一層真剣な表情になる。


「かわいい妹に誓って、約束する」


こうして、ソーマは冒険者になる決意をするのであった。


「それにしてもお兄ちゃん。どうして急に冒険者になろうなんて思ったの?」


「それがアリサに誘われてな。一緒に冒険者にならないかって」


「アリサちゃんに!?ははぁん…」


なぜかカレンがニヤついている


「わけぇもんはええのう」


「ん?どうしたカレン?」


(今度アリサちゃん会ったら私が説得したってことにしておいしいモノを奢ってもらちゃお♪)そんなことを考えるカレンと急にオヤジになったカレンに戸惑うソーマなのだった。


時は流れ、遂にソーマもシャングリラ魔法学園を卒業する時が来た。冒険者になりたいといったときの周りの反応は様々であった。


教師陣からは


「よりによってなんで冒険者なんて」


と言われた。エリート志向の強い教師陣は冒険者についてあまり快く思っていないようだ。


「ふーん。実に君らしいじゃないか。精々泥臭く生きるといいよ」


と言ったのはリヒトである。最後の最後までソーマを煽り、レオンがブチギレる日常が続いていた。もはやシャングリラ魔法学園の名物とまで言われていた。


そんな中、レオンは冒険者に対して特別な感情を抱いていたようだ。レオンの父は、冒険者であった。しかし、あるダンジョンで下位層にあらわれた上位のドラゴンの攻撃により右腕を失った。

辺境警備隊を目指したのも、モンスターによる被害で悲しむ人を減らしたかったからである。

彼は、冒険者になることで親友が父と同じ運命をたどるのではないかと心配だったのだ。

最初は冒険者に反対した。しかし、親友の判断を尊重し、今では賛成ではないながらも理解を示している。


卒業式では、リヒトが卒業生の代表となった。本来、そこにソーマもいたはずだった。

ソーマとしては学費と進路のための成績だったのでそこまで思うこともなかったのだが、相変わらず、レオンは不満を漏らしていた。


そんなこんなで卒業式が終わり、魔法学園を出るとそこにはアリサが待っていた。彼女も今日卒業し、これから冒険者登録に行こうというのである。


あらかじめ内定のある職業もあるが、冒険者は冒険者連合に登録することで成立する。


レオンに別れを告げ、二人は冒険者連合王都支部へと向かった。

冒険者にはSからDまでのランクがある冒険者は、冒険で新天地を開拓するだけでなく、一般の依頼も引き受けることがある。

その際に、自分の技量にあった依頼をこなし、無理なリスクを負わないために作られたシステムである。

新人はDランクからである。


建物に入ると、そこには整備されたロビーと受付が並んでいた。博打職と揶揄されるイメージとは裏腹に整った空間である。


先にアリサが登録を済ませる。


ソーマの番になり金髪メガネの綺麗なお姉さんが受付をした。


「お名前は」


「ソーマ・ディアスです」


「登録職は」


「魔術師です」


淡々と登録を進めていく


「魔術師ですね、では使い魔も登録していただきます」


「こいつです」


ソーマは足元に居たスライムを持ち上げて見せた。

無表情だった受付のお姉さんの表情が曇る。明らかにそんな使い魔の冒険者なんて死ぬかどん底貧乏になるだけだという目である。


「本当に登録なさるのですか?」


「はい」


「こちらでは一切責任を負えませんよ」


「覚悟の上です」


お姉さんはため息をつきながらも登録を続けた。


「そちらのスライムお名前は何というですか」


「え?」


「お名前があれば登録いたします。なければ『スライム』にしておきますが」


名前か、そういえばスライムを呼ぶときこいつとかスライムとかしか言ってなかったな。

そこでふと思い出す。


『この子、青くてぽよぽよしてるからラムネってよぶね!』


カレンがそんなことを言っていた。

とっさにソーマは


「じゃあ『ラムネ』でお願いします」


といった


「かしこまりました」


こうして登録が終了した。


「パーティーなどはどうしますか」


「先ほどの女の子と一緒にパーティーを組ませてください」


「かしこまりました」


こうしてソーマたちの冒険者ライフが幕を開けたのである。

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