第2話 ソーマの就活

家路につくソーマの足取りは重かった。


教師陣曰く、ソーマは莫大な魔力を持ちながらも、今回その魔力を欲する者がいなかったのだろうと。残念ながら宮廷魔術師の就職は難しいだろうと。今までの実績から無職にはならなくて済みそうだが、高給は望めない。


妹に不自由なく生活をさせたかったがそれも叶わないだろう。

絶望の底に落とされ、トボトボと歩いていると、ソーマに声をかけるものが現れた。


「ソーマ浮かない顔してどうしたの?」


そこにいたのはソーマの幼馴染、アリサ・ローウェンである。

彼女はセント騎士学校に通い、同じく今日卒業試験があったようだ。


「実は今日の卒業試験で召喚した使い魔がな…」


ソーマはそれだけ言うと自分の足元に居るぷよぷよしたものに目を向ける。それに合わせて、アリサも視線を落とす。


「ウソ?まさかそのスライム?」


「ああ、そのまさかだ…」


「だってソーマ、成績は優秀だったんじゃ…」


「先生曰く、こいつしか俺の召喚には答えてくれなかったらしい」


「そんな...カレンちゃんに幸せな暮らしをさせたいってあんなに頑張ってたのに」


カレンというのはソーマの妹のことである。アリサとカレンは年が近いためソーマを含めて昔から親交が深い。


「残念ながらその夢ももうかなわなくなっちまった。せめて定職について、最低限の生活は送れるようにするよ」


二人の間に気まずい空気が流れる。

ふと、ソーマはアリサの背負う大剣に目を向ける。


「そーか、アリサはなかなかいい剣を抜いたんだな」


セント騎士学校の卒業試験は剣を抜くこと。この剣は職人が一年以上をかけて鍛えたものであり、意識を持って自らの認めたものにしか抜かれないと言われている。


「ツバイヘンダーね。もっと小回りの利くものがよかったんだけど…あ、ごめんソーマ。ソーマのほうがもっと思い通りにならなかったのに」


「いいよ、おじさんとおばさんによろしく」


そういってソーマはそそくさとその場を去っていった。これ以上気まずい空気を作りたくなかった。


暫く行ったところに彼の家はある。ぼろ屋で家賃が非常に安いのが魅力だ。


「お兄ちゃんおかえり!!試験どうだった?」


玄関を開けると妹のカレンが元気に出迎えてくれた。妹と言っても双子なので年の差はない。


「どうしたの?お兄ちゃん?」


ソーマの暗い雰囲気を察したのかカレンが訪ねる。もうカレンに不自由ない生活を送らせることはできない。そう思うと今までしまっていた感情があふれ出した。


「ごめんカレン!!召喚できたのはこのスライムだけなんだ。宮殿魔術師になることはできない。今までこんなに支えてくれたのにその恩に報いることができないんだ!本当にごめん」


そこまで言って涙があふれ出してきた。

 カレンは慌てたように言葉を返す。


「泣かないでお兄ちゃん。私はお兄ちゃんと一緒に居られるだけで幸せだよ。今日アリサちゃんのおじさんとおばさんの経営する食堂で働けることが決まったんだ!私も稼ぐから一緒に幸せに暮らそうよ!それにそのスライムぷよぷよして可愛いとおもうよ!」


「なんてけなげな妹なんだー!本当に本当にごめんよ」


「大丈夫だよお兄ちゃん。夕飯冷や飯だけだけど一緒にたべよっ!」


「ありがと、ぐすん」


こうして兄弟の夜は更けていくのだった。



とはいっても、卒業までには就職先を決めなければならない。

卒業試験以降、学校では主に就活の情報交換が行わる。内定が決まったものは、ほぼ遊びに来ているようなものである。


「俺は辺境警備隊になろうかな」

 

辺境警備隊は人の住む場所と未開拓の地のはざまで、未開の地から襲い来るモンスターを撃退する職業である。

レオンはこの職業を目指すようだ。


「やあ、ソーマ・ディアス君はどこに就職するのかな?僕は宮廷魔術師に決まってるけど君も…あっ、君の使い魔はスライムだったねぇ。これは失敬」


「呼んでもねぇのにいちいちうるせえんだよ」


リヒトが煽る、取り巻きが一緒に煽る、レオンがキレる。一連の流れである。

その間ソーマは終始無言だ。

そんな流れが、卒業試験以降毎日である。


にしてもどこで働こう。決めきれないまま帰宅の路につく。


その時、


「…マ!ソ…マー!ソーマ!!」


遠くからソーマを呼ぶ声が聞こえる。振り返るとそこにはアリサがいた。


「ソーマ!就職先決まった?」


「いや、まだ全然決まってない」


ソーマの答えにアリサは意を決して言う


「じゃあさ、冒険者やらない!?」

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