古今東西、後継者選びは常に揉め事のタネ

「さすが、天才天野紗耶香様やな……。じゃろなあ、卑弥呼の同世代が崇神天皇、垂仁天皇なら、そン二人をまず先に調べるべきやったな」

「そうそう」


 あたしはさらに、崇神天皇の前代にあたる、第九代開化天皇のページを開いた。


「ほら、この人」

「どれどれ」

「開化天皇と皇后の間に生まれたのが、ミマキイリヒコ崇神天皇でしょ。で、他に皇女がいるじゃん。御真津比売ミマツヒメ命って人」

「ほう。それが卑弥呼か」

「う~ん。どうだろう。妹っぽいけど……。でも第一候補じゃない?」


 雄治は暫く歴代天皇の記述を読み漁っていたが、そのうち、

「う~む……」

 と唸り声を上げ、

「確かにミマツヒメは、ミマキイリヒコ崇神天皇の『姉』かもしれん」

 と言った。


「今、初代神武天皇から順に、子供を調べてみた。ほしたら皇子だけ名前が記されちょるか、そイか必ず『皇子―皇女』の順に列記されちょる。一四代仲哀天皇まで、全部そげんなっちょる」

「ん!? どういうこと?」


「つまり第一子が、何故か必ず男っちゅうことや。そげなこつ、確率的に有り得んやろ!?」

「あ、そうか。実際は第一子が女子のケースもあるけど、後々順番入れ替え偽装が為されたのかもしれない……ってこと?」

「じゃっどじゃっど」


 なるほどね。――

 じゃあやっぱり、ミマツヒメがお姉さんで、ミマキイリヒコ崇神天皇は弟だった可能性があるのかも。


「古今東西、後継者選びっちゅうのは常に揉め事のタネやっとよ。長子相続にしたり末子相続にしたり、兄弟が上から順繰りに相続したり、その都度話し合いで優秀な子供をチョイスしたり、長い歴史ン中で色々なルールが試されちょる。時には有力者ン都合で、暗殺やら抗争やらも起きちょるやろ?」

「うん」


「記紀に載っちょる皇室ン系図も、そげな事情で多少の改変が為されちょりゃせんどかい……っちゅう説がある。ミマツヒメと崇神天皇も、そげなケースかもしれん」

「ふ~ん。ってことはつまり……後々の有力者が第一子男子の相続を主張して、それを正当化するために系図を改変したのかな? ほら、古代の歴代天皇も全部第一子男子が相続しているだろ……って周囲を納得させるために」


「じゃっどじゃっど~。さすが紗耶香や。理解が早いな」

 雄治に褒められ、あたしはちょっとテレる。


「ミマキイリヒコ崇神天皇は『傾きかけた大和朝廷の、中興の祖』っちゅうイメージがある。全国に四道将軍を派遣しっせ支配領域を広げ、課税を始めて国家体制を整えたらしい。卑弥呼ン指示で動き回り、倭国大乱を平定した男……ではないかじゃらせんか!?」

「う~ん……。そんな感じがするね」

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