むしろ宮崎こそ古墳先進地帯だったんじゃないか

 既に夕方の五時を過ぎていた。しかし陽はまだ高い。

 クルマは西都市の市街地を抜け、県道を宮崎市へと走る。


「古墳を実際に掘ってみて、副葬品が見つかるでしょ!? ところがそれだって年代測定は出来ないから、築造時期の特定は難しいのよ」

「あ、智ちゃんが掲示板にカキコしてた話か……。動植物じゃないと年代測定出来ないんだっけ?」

「そうそう。大陸製の銅鏡みたいに、何年製造って書かれた物でも出土すれば、割とあっさり推測が付くんだけど」

「なるほどねえ」


「それ以外だと、埼玉県の稲荷山古墳から出てきた鉄剣かな。ワカタケルって彫られてるから雄略天皇の時代だろう……みたいな。あの鉄剣が、古墳編年の取っ掛かりになっているんだってさ」

「あははは。受験勉強でさんざん見たヤツだね」


「そうだね。でも、あれだってアヤシいっぽいよ。ホントにワカタケルが雄略天皇だか判らないし、それ以前の問題としてワカタケルと読むのが正しいのかも、ビミョーらしいね」

「へぇ~~、そうなんだ……。てっきり雄略天皇で確定なんだと思ってたよ」

「いやいや違うみたいだよ」

「そうなんだ……。受験勉強ってコワいなあ」


「そもそも年代測定技術自体が、誤差も結構大きいし、あんましアテにならんっちゅう話やったっけ?」

「うんうん。測定機関の技術者の人達は、条件付きで『あくまで参考値ですからね~』ってことで数字を出すのね。でもそれを、考古学者達はほぼ鵜呑みにして報告書や論文を書くわけ。古墳編年ってのは結局、そういうアヤシい推測を積み上げて構築されたものらしいね」

「なるほど。そういうもんなんやろなあ、考古学歴史学の実情ってのは……」


「というわけで、あたしなりの結論。畿内の古墳は、やっぱ研究者が多くて調査機会も多いせいか、築造時期がどんどん遡ってるの。今言ったような、アヤシい情報を根拠に『定説より築造時期が遡る可能性がある』って新説がバンバン登場するわけ。一方で宮崎なんかは、研究者も少ないしあんまし調査をやってないせいか、そういうトレンドから完全に取り残されたままなのね。結果、『古墳時代は畿内から始まった』って意見が定説化してるっぽいの」

「ふ~ん……。だけど智ちゃん的には、違うんじゃないか……と」


「そういうこと。むしろ宮崎こそ古墳先進地帯だった……って感じがするんだよね。最初期型っぽい大型の前方後円墳があちこちに残っているし」

オイも同感やな。特に日高祥氏ン、瓜生野の墳丘墓が気になっちょる。弥生時代の墳丘墓で、しかも一〇〇mオーバーの前方後円型やっど。瓜生野墳丘墓→生目一号墳→箸墓古墳じゃらせんどかい。そもそも古墳以前の問題として、太古の宮崎は経済的軍事的先進地帯やろ!?」

「でしょでしょ!? あたしもそういう気がするの。畿内大和勢力が後々瓜生野墳丘墓や生目一号墳を真似て、その二倍サイズで箸墓古墳を築造したんじゃないか、と」


 宮崎市に入り、国道が渋滞し始めた。

 そんな中四人共、議論が良い感じに盛り上がり、このまま到着後解散……は惜しいって雰囲気。なので雄治のアパートに行き、クールダウンしようという話になった。


「雄治は大きなホットプレートを持ってたよ」

 とあたしが言い出したため、夕食メニューは焼きうどんに決まった。途中で国道沿いのスーパーに寄ると、食材やお酒を沢山買い込み、それから雄治のアパートを目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る