いい加減な話だよなあ

 地図を眺める智ちゃんのナビで、園内をクルマで走る。向かった先は九州最大規模の古墳、男狭穂塚・女狭穂塚である。

 その一角だけ、金網の柵に囲われていた。少し先に男狭穂塚と女狭穂塚が見えるが、柵に阻まれ近付くことは出来ない。


「ここも不思議なんだよ~」

 全体像が掴めず、智ちゃんガッカリ顔。――

「男狭穂塚は帆立貝型で、女狭穂塚はフツーの中期型前方後円墳なの。だからそれぞれ築造年代が異なる筈なんだけどさぁ、何故かどっちも五世紀前半の築造って言われてるの。ニニギとコノハナサクヤの墓だってさ」


「そりゃおかしいよね。どっちも多分、紀元前の人じゃん」

「だよね~。そこもヘンだよ。しかも男狭穂塚って、実は元々柄鏡式っぽいの。女狭穂塚を築造する時に、男狭穂塚の前方部を一部壊しちゃって、それで帆立貝型っぽくなっちゃったみたいなんだよね、実測図を見る限りでは。それなのに双方同時期の築造だろう……ってさ」


「どうやって築造時期を推定したのかな?」

「どちらも御陵墓参考地に指定されているから、発掘調査は出来ないわけ。ただし古墳上に円筒埴輪や形象埴輪が幾つもあって、それらの製作技法で時期を推定してるみたいね。でもさあ、埴輪なんて壊れるわけじゃん。古墳築造から五〇年とか一〇〇年経って、埴輪だけ作り直した可能性もあるよね」


「うんうん。偉い人の墓なら、後々絶対修復とかやってそうだよね」

「でしょ!? つまり古墳本体の築造時期と、埴輪の製作時期が一致する、って保証はないよね。だから古墳上の埴輪で築造時期を推定するなんて、間違ってるとあたしは思うの。で、さっき博物館の人にもそう尋ねてみたんだけど、曖昧な回答しか返って来なかったよ……。『いや、エラい学者先生がそうおっしゃってるから』みたいな」


「なるほどね」

 と、敬太郎君が頷く。

「な~んかさ、そういう年代特定の手法って、全然科学的じゃないよなあ。そのくせあちこちの資料だとか書籍に、堂々と『五世紀前半』ち書かれちょる。これこれこういう理由でそう推定している……っちゅう注記は全然無い。いい加減な話だよな」


 あたし達はクルマに乗り込み、移動する。智ちゃんのナビで向かった先は、一〇〇m弱の初期型柄鏡式古墳が多数存在するエリアである。

 クルマを降りると、しばらく智ちゃんを先頭に歩き回り、それらの古墳をひと通り眺めた。雄治が少し後ろから、あたし達と古墳のツーショットを撮り続けている。何をやってるんだか。……

 あ、ちょっとオシャレな格好して来いって指示があったのは、写真を撮るためなのか。


 一通り古墳を見て回ったところで、智ちゃんが、

「もう良いよ。ありがとう。そろそろ戻ろうか」

 と促した。あたし達はクルマに乗り込み、帰路についた。

「詳しくは文章にまとめて、数日中に掲示板にアップするけどさあ……」

 と、智ちゃん。

「古墳って、結局発掘してみないと築造年代の特定は出来ないみたいだよ」


「そうやろなあ」

「こういう、古墳が沢山ある場所なら、あっちの方が古くてこっちのは新しい……みたいな推測は出来るみたいだけどね。何世紀に築造されたのかって事は、ちゃんと掘ってみて、それこそ被葬者を年代測定にかけてみないと確実な事は言えないみたいなの」

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