生目古墳より価値があるんじゃね!?

 有村雄治は一冊の本をテーブルの上に置く。

「史上最大級の遺跡 ~日向神話再発見の日録~」

 というタイトルである。


「『神々の指紋』っち本、知っちょる? 超古代文明ネタの本やっちゃけど」

「おう。オレ達がガキの頃に流行った本やろ」

「じゃっど~。著者はグラハム・ハンコックちゅうて、世界中を旅しながら超古代文明を研究しっせ、本書いちょる人。そン『神々の指紋』の翻訳者のサイトを見っけたとよ。そこにこン本の著者が紹介されちょった」


 雄治が借りた本の著者は、日高しょう氏という、アマチュアの研究家である。


 雄治の説明によると、大淀川を挟み生目古墳群の対岸にあたる「瓜生野うりゅうの」という場所に、かつて全長一二〇m超の前方後円墳があったらしい。

 非常に古い墳丘墓であることは大正時代より判明していたが、道路工事のため、調査もしないまま破壊された、というのである。


 著者日高氏は工事着手に驚き、作業関係者の理解や協力を得つつ独自に調査を行い、それが極めて重要な墳丘墓であることを知る。そこで慌てて行政に掛け合い、工事の中断と調査依頼をするのである。


 氏の測量によると、瓜生野墳丘墓は生目古墳一号墳と相似形で、魏志倭人伝に記述されている卑弥呼の墓と同サイズ。しかも、出土品の一部を専門家に観てもらうと、

「古墳時代前期か、ことによると弥生時代後期の可能性あり」

 という回答を得るのである。

 まさに邪馬台国が絡んでくるかもしれない。氏は必死で各方面に掛け合う。が、しかし行政の理解を得られず、工事は強行され前方後円墳は破壊されてしまうのである。


「ではせめて、自分が出来ることだけでも……」

 氏の涙ぐましい努力により、アマチュアとして可能な限りの調査が為され、貴重な事実が次々と判明する。


「こン本な、そげな貴重な調査の記録じゃっげなど~」

 と、雄治は言う。

「凄いな……。もしかすると、生目古墳より価値があるんじゃね!?」

「そげな可能性もあっじゃろね」


「どうして調査しないんだろう……」

 と、智ちゃんが首を傾げる。

「それも敬太郎君がさっき言ってた、『政治的な事情』なのかな」

「なんとも言えんね……。まあ、それはそうと、続きはいつも通り、次の火曜日にやろう。今日はこれから、雄治の引越の加勢……っちゅ~口実で、新居見物やな」

「あははは。それ、いいね」

 四人は立ち上がると、会計を済ませファミレスを出た。


 雄治いわく、引越シーズンを過ぎた今、賃貸家賃が大きく下がっているらしい。

「契約キャンセルで売れ残った優良物件を、格安でおさえた」

 と先日来、度々嬉しそうに語るのである。あたしも智ちゃんも敬太郎君も実家住まいなので、雄治の優良物件とやらが気になって仕方がない。

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