外交に関する考察メモ

(じゃっどん、そィにしても邪馬台国の貢物が少ねぇ……)

 と、有村雄治は不思議に思うのである。不自然だと感じるのである。

 彼はテキストエディターを開き、キーボードをタイプし始めた。


 [外交に関する考察メモ]

 魏朝とのファーストコンタクトにおける、邪馬台国の貢物が少な過ぎる。

 そのくせ魏朝がやたら喜んでいる。お返しが凄い。

 これには何か、事情があるのではないか?


 つまり帯方太守劉夏の側が、半島の邪馬台国大夫に頭を下げてきたのではないか?

 「私の顔を立てて、魏朝に遣使してくれ」

 と。

 

 帯方太守としては、近隣国たる邪馬台国と、友好関係を結んでおきたい。

 しかし大国の体面上、自ら貢物を邪馬台国に差し出して国交を申し込むことが出来ない。

 そこで帯方太守劉夏はコソっと裏から手を回し、それを邪馬台国に要請して来たのではないか?


 邪馬台国側も、渋々それを了承。

 貢物をちょちょっと申し訳程度に、現地調達。そして使者難升米と都市牛利が、劉夏と共に洛陽の魏朝に顔を出す。

 劉夏は、

 「邪馬台国は遠方だから、貢物が少ないんですよ~」

 と魏朝の天子に弁解する。


 それでも天子は思いのほか喜び、かつ外交上の利害も計算し、女王卑弥呼や使者達に沢山の贈り物をしたのではないか?


 そのため卑弥呼邪馬台国の側も、改めて使者を派遣し、相応の返礼(贈り物)と共に友好関係を追認或いは承認したのではないか?


 彼はそこまでタイプすると、ファイル保存しノートPCを閉じた。


 電車は、青井岳駅に近付き速度を落とし始めたようである。――

 周囲はちょっとした観光スポットとして整備されているが、大変な山の中である。初めて大学に登校した日、車窓から野生のサルを数匹見かけ、驚いた。


 外は既に暗い。雨が、窓に強く打ちつける。


 渓谷を横切るように、大きな鉄橋が走っている。橋脚が、前時代的な石造りである。調べてみると、日豊本線が難工事の末大正時代に開通した、その当時のままらしい。

「趣がある」

 と鉄道マニアには好評らしいが、雄治にしてみれば、耐久性は大丈夫なのかと通過の度に背筋が寒くなるだけである。


「雨が本降りになってきた。駅まで車で迎えに来て欲しい。一九時三五分到着予定」

 父親宛にメールを送ると、雄治は腕を組みつつ目を瞑り、帰宅後の引越荷造りの段取りを考え始めた。

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