実は『プロレス』だったの!?

 有村雄治はドリンクバーでコーラを二杯注ぎ、グラスをいっぺんに二つかかえて席に戻った。

「敬太郎の言う『三つの可能性』やけどな……」

 そう切り出しつつ、グラスの半分程を一気に飲み干す。

「徹底追求せんにゃいかん、と思うちょるとよ。日本の学会ちゅうのは、争点をアバウトにすっとが好きンごたる。じゃかい、議論が進展せんし事実の解明に繋がらん」


 雄治の話は、方言のせいもあって解り辛い。

 要するに彼に言わせると、歴史学会には、学術的議論を活発に交わし「事実を解明しようという意思」が見られないらしい。逆に争点をぼかし、それぞれの意見を丸くまとめ上げようとする「仲良し小好し」風潮があるのだとか。


「本を色々読んじょっと、そげな雰囲気を感じるとよ。じゃかイ邪馬台国問題も、いつまで経ってん解決せんごたる」

 だからこそ敬太郎の言う、「三つの可能性」という論点の追求が重要である、と雄治は力説するのである。


 なにそれ!?――

 日本の学会って、「ムラ」なの? 学者って要するに「村人ムラびと」なの!?

 学問の場、探求の場の住人でありながら、

「議論を興し、諍(いさか)いが起きて場が乱れるのを忌避する」

 ってこと?

「事実を解明しようと活発に議論するより、上手いこと話をまとめて玉虫色の解決を目指す」

 ってこと!? なんじゃそりゃ。


 雄治の言う通りなら、学会ってとんでもない「タダ飯食らい」じゃん。学者先生方は国民の血税で食わせて貰ってる筈だぞ。――


「魏志倭人伝の謎が解ければ、自ずと『三つの可能性』の答えが出っとよ。じゃろ!?」

「うん」

「しかし学会の古代史観っちゅ~のは、ある種の思惑があって、上手いことコンセンサスが出来上がっちょる状況やっとよね」

「へぇ~~」


「じゃっどん今、魏志倭人伝の謎が解けっしもたら、敬太郎の言う『三つの可能性』の答えが出る。そイはある種の思惑的にマズいし、コンセンサスも崩れる。下手すっと学会自体が崩壊しかねん」

「なるほど。だから歴史学者は、魏志倭人伝の謎を真剣に解こうとしていないんじゃないか……ってこと?」

「じゃっど~」

 有村雄治は頷く。


 おいおいおい。――

 邪馬台国論争って、実は「プロレス」だったの!?

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