ノーマークやっちゃね?

「卑弥呼とどんな話をしたと?」

「それは勿論、邪馬台国ってどこにあったんですか……って話」

「だよな。やっぱそこを知りたいよね……」

 古代史に詳しい黒木敬太郎が頷く。


 お笑い芸人「インターバルタイム」のボケの人っぽい、ゆるゆるの顔。しかし見た目とは裏腹に穏やかな優等生タイプで、高校時代の成績は常に学内五本指だった。センター試験本番で高熱を出し、一〇〇点ロスして泣く泣くこの大学に入ったらしい。入学式で敬太郎君の顔を見かけた時はスゴく驚いた。だって、あたしと同じ大学だなんて想像すらしてなかったもん。

 そんな敬太郎君が、あたし達歴史研究会の部長。ひょろガリながら、ドカ弁日の丸弁当をぺろりと平らげる。脳の炭水化物消費量が特異的に多い人なのか。――


「咄嗟にそれを質問出来たってのは、お手柄じゃね? 邪馬台国の場所、判った?」

「うん。それがさあ、驚愕の事実発覚……って感じなんだよね」

「どこどこ?」

「ここだってさ」


「ん? ここ!? 宮崎っちこと?」

「そう」

「え~っ!? マジかよ」

 三人は驚きの声を上げた。


「邪馬台国が宮崎だって!? ノーマークやっちゃね?」

「そうそう。あ、『やまたい』じゃなくて『ぃやぅまとぅ』らしい」

「へぇ~~~っ!! まさかの『やまと』かよ」

「しかも、『本家』とか言ってた」


「なるほどなあ。オレ去年、邪馬台国について色々調べたっちゃけどね……」

 と、黒木敬太郎。

「地名とか人名の読み方についても、結構意味不明やっとよね」


「どういうこと?」

「つまりさ、大陸の魏朝と付き合っちょったから、魏志倭人伝の記述って『漢音』で発音すべき筈やっとよね。魏朝って漢朝のエリアを継承しちょっから」

「ほう」

「ところが今の歴史学会って、なぜか『呉音』を採用しちょるらしいとよ」

「へ?」


「な~んか南九州っち、大昔から大陸の東側付近の人々との交流が深かったっちゃげな。だから倭国……つまり古代日本人も『呉音』を使っていた筈だ、と」

「なんじゃそりゃ!? 間違うちょりゃせん?」

 と、有村雄治が突っ込む。


 有村雄治は隣の都城みやこのじょう市出身なので、薩摩弁の亜種「みやこんじょ弁」が交じる。短髪ずんぐりむっくり。以前居酒屋チェーン店のTVCMに出ていた、モノマネ芸人のあの人に雰囲気が似ている。


 ちなみにここ宮崎県は、面積が広い上に歴史的にも複雑である。つまり江戸時代、複数の藩が混在したため訛りがバラバラで、いわゆる「宮崎弁」という単一の方言は存在しない。


「まあ、紗耶香の言う『やまと』が正しいとすれば、漢音呉音の問題だけじゃないね。しかも『本家』とはねえ……」

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