第4話 砂漠の王 2

「さァ、出番だ。出ておいで」

丸い月が照らす砂漠に、アラフメィの声が響き、それと同時にアラフメィの後ろに広がる砂漠が山のように盛り上がった。

「な、何だっ!?」

地響きを鳴らしながら山はぐんぐんと大きくなり、二階建ての家程まで大きくなったかと思うと、ドッパァンと砂を飛び散らせた。

「ぶはっ!げほっげほっ、な、なにが起きた!?」

手を振り回して砂を払い、涙でぼやけるヒロトの視界に、先程まではなかった黒い山が映りこんだ。

その山は、月明かりで仄かに明るい夜空よりも黒く、硬い鎧に包まれていて、真ん中には宝石のように真っ赤な眼が八つ爛々と煌めいていた。

その眼の真下には、まるで鋸のように鋭く、斧の様に大きな牙が一対、ギラギラと月明かりを乱反射している。

そんな化け物が口を開けると、小さなナイフ位ありそうな歯がぞろりと覗いていた。

「ゴシャァァァァァァ!!!」

「うおっ!」

そんな化け物が、口から透明な涎を飛び散らせ、まるで自分の力を誇示するように咆哮をあげる。

「クフフフフ、こいつがアタシの霊獣、どうだい?カッコイイだろ?」

いつの間にか化け物の真横まで来ていたアラフメィが、そっと手を触れると、まるでそれが合図だったかのように化け物が飛び上がった。

「あの化け物は…いったい…」

愕然としながら呟くヒロトに、まるでアラフメィはなんでもないように答えた。

「何だ、お前サンは知らんのか?」

いや、ヒロトも知ってはいるのだ、ただ、大きさのスケールが違うから思わずそう口にしてしまっただけだった。

「いや、違う…だって、俺の知ってるやつは…もっと小さくて…」

「弱いハズッてかァ?こんな時代に常識なんぞ通用しねェぞ」

「でも、だってそんなことをいったらアイツは!」

「なァんだ、おめェも知ってんじゃねぇか。」

ズズゥン…と、轟音を放ちながら化け物が着地する、ぐんっと体の横の脚が八本展開され、一気に見た目が大きくなる。

「やっぱり…こいつは!」

「アァ、おめーも分かってるだろうが、コイツは、」

「ギシャァァァァァ!!」

化け蜘蛛の咆哮が響き渡る中でも、キッチリと聞こえた、ヒロトがうすうす気づいていながらも気づきたくなかった正体、あまりに巨大なそれは、戦意を削ぐのには充分すぎた。

「あァ、待たせて悪ィな、さっさと武装をするからヨ」

大きさと不気味さに圧倒されるヒロトを他所に、アラフメィはニヤリと口元に笑みを浮かべながら化け蜘蛛に手をかざした。

「霊獣武装」

静かに告げられた言葉とは裏腹に、再びとてつもない砂煙が巻き起こり、ヒロトの視界を奪った。

「げほっげほっ、またかよぉ…」

ゴウゴウと砂嵐が吹き荒れ、竜巻のような渦になる。

視界が全て砂に覆われ、為す術なく掌で顔を覆うヒロト、瞬間、腹部に重い痛みがはしったと思った時には、ヒロトの体は数メートルふっとばされていた。

「_____っっはぁッ!」

げぼりと唾液が飛び散り、すかさず口へと砂がなだれ込む。

「ッげぼっげほっげほっ」

口から砂を吐き出しながら、涙で滲む目で自分がいた場所を見ると、蹴り抜いた体勢でピタリと立っている少女、アラフメィがいた。

しかしその格好は、先程とは全く違っていた。

いつの間に着替えたのか、薄い色をしていた服は黒混じりの赤へと変わり、白い刺繍が張り巡らされている。

赤くボサボサだった髪は、頭の左右にまとめられていた。

「おめェさァ、その状態で武装、とかいッてんの?」

黒い宝石のような意匠が施された足を降ろし、威圧的な表情のまま、アラフメィはヒロトを睨みながら威圧する。

「おめェのソレはただ魔力で膜を作っただけ、魔力の質も低いし何より薄っぺらい。」

ゆっくりと黒い宝石のグローブを向けながらアラフメィは告げる。

「本当の武装ッてェのはこんなふうに霊獣を鎧に変化させるコト。その方が消耗も少ないし、何より攻撃に集中出来る。」

開かれていた手が徐々に握られていき、同時にヒロトの背筋に冷たい汗が流れる。

ぎちり、と音が鳴る程に強く握りしめられた拳がアラフメィの肩で構えられ、力が込められてゆく。

「分かッたか?それじゃあ」

ヒロトが立ち上がり、ピタリ、とアラフメィの動きが止まり、一瞬の静寂が訪れる。

そして

「死ね」

ボッッ!!という轟音と共に、アラフメィの拳が撃ち出された。

咄嗟に両腕を交差させ胸部を守るヒロトだったが、メキメキと衝撃が突き抜け、とてつもない速度で吹き飛ばされた。

「ぐっ…ほ…」

数メートル以上吹き飛ばされ、砂の山へと激突する。その寸前にヒロトの身体は何かに捕えられた。

「ぐ…うぅ…」

両腕と胸部の焼けるような痛みを感じつつ、背後を覗くと、細い糸が見えた。

「これは…蜘蛛の…てことはアイツの霊獣の糸…!」

思わず前を見るとゆっくりとアラフメィが歩いてくる姿が見えた。

「くっ…ふっ…ぐ…」

痛みで口から声を漏らしながらも、言うことを聞かない腕を動かし、蜘蛛の糸から逃れようとする。

が、触った端からくっつくので段々身動きが取れなくなっていく。

「くそ…俺は…こんな所で……いやだ…死にたく…ない…」

涙で滲む視界に、歩み寄る赤黒い死神が見えた。

「死にたく…ない!俺は…俺は死ぬ訳には…いかないんだ!」

瞬間、全身の光が散らばり、魔力の膜を纏った状態が解除される。

散らばった光がグルグルと渦をまき、ヒロトの右腕へとまとわりつく。

そして

ボッと炎が巻き起こり、蜘蛛の糸を焼き切った。


「ほォ。死の際で覚醒したか、運のいいヤツだ」

アラフメィの目の前で炎の渦が巻き起こり、月の光を追しのけた。

「あァァァ!」

その渦を切り裂き、1人の少年が姿を現す。 先程まで魔力の膜を纏っていただけのヒロトの身体は、既に限界の1歩手前だったが、右腕のみかなりの変化を遂げていた。

キラキラと輝く黄金の鎧に、赤い意匠が施され、握った拳にはいつの間にか短刀をもっていた。

キラリと透き通るような白い刀は、月の光を反射し、淡く輝いている。

「いいねェ、綺麗なカタナだ」

何が起きたか理解が出来ずに固まるヒロトに、恍惚の表情でアラフメィが話しかける。

「ソイツをへし折ってやったら、テメェはどんな風に死ぬんだァ?」

語りかけながらアラフメィはギリギリと筋肉に力を溜め込む。

「ッッッラァァ!!」

ボッッ!!と砂煙を巻き上げながら目にも止まらぬ速さでヒロトへと突っ込んで行く。

アラフメィの拳がヒロトの顔に当たる瞬間、アラフメィの拳とヒロトの刀が擦れて火花と共に金属音が鳴り響く。

砂煙が舞い上がり、一瞬の静寂が訪れ、


「___ぎッッアァァァァァァ!!!」

アラフメィの絶叫で破られた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アーマーナイツ @thisyuu0403

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ