第3話 砂漠の王
「アタシの名前はアラフメィ!覚えたんならさっさと逝きナァ!」
月を背景に、両手を広げた薄着の少女が叫ぶ。
赤く長い前髪から、深い赤色の瞳が覗く。
アラフメィと名乗った少女は、そのまま瓦礫の山の上に立ち上がり、ヒロトを一瞥した。
「なァ、アンタは何処から来たんだ?東か?西か?北か?南か?それとも…」
質問の意味が分からず立ち尽くすヒロトに、アラフメィは話しかけ続ける。
「真ん中か?」
アラフメィがその単語を口にした瞬間、ヒロトはアラフメィの目の奥に深い憎悪を垣間見た気がした。
「なんの…話だ?」
恐怖と困惑で硬直する身体をどうにか落ち着かせ、震えた声で質問する。
「俺は…この砂漠を出ようとしてるんだ…今までの15年間、ここから出たことは1度も無い…大体…東だの西だの…意味が」
「そォかい」
苛立ちを隠そうともせず、アラフメィはヒロトの言葉を遮った。
「だったらよォ」
ふわりと、ヒロトの頬を何かが撫でる。
「もういいわ、死ね」
アラフメィがそう言って右手を動かす。
瞬間、ヒロトは左頬に熱さを感じた。
「ッ!」
反射的に左頬に触れる、すると、指先に何かが濡れた。
「ッ…!なんで血が」
「なァ…糸って知ってるか?」
パニックを起こしかけるヒロトに、いつの間にか座り込んでいるアラフメィが頬杖をつきながら質問する。
「…糸くらい知ってるさ…でもそんなの今は」
「関係ないってかァ?」
またもアラフメィはヒロトの言葉を遮り話し続ける。
「糸ってのはなァ、上手く使えば石をも切断するんだよ。」
指先を動かしながら、アラフメィは更に続ける。
「そんな切れ味を秘めてる糸がさァ、人間の肉を切れないとでも思うかァ?」
そういいながらアラフメィは右手を少し上げた、するとその指の延長線上に、きらきらと光る糸が見える、その1部が赤く濡れていた。
「次はどこがいい?お望みの場所を落としてやるよ」
アラフメィが憎しみのこもった赤い眼差しをギロリとヒロトへ向ける、その瞬間、ヒロトは反射的に左側へと飛んでいた。
ズバババン!と鋭い音が鳴り響き、一瞬前までヒロトの後ろにあった瓦礫が小石の山へと変わった。
「…へぇ、初見ではないとはいえ、アタシの攻撃を避けるとはね、なかなかやるじゃん」
目を丸くし、驚いた様子でアラフメィは話し続ける。
「見直したよ。武装する時間くらいは待ってやらァ」
「…ありがとな、でも、その時間をくれた事を後悔するかもしれないぞ?」
「クフ、フハハ、そォかい、後悔させてくれんのかよ!ならはやくさせてくれよ!」
腹を抱えながら笑い転げるアラフメィを見ながら、ヒロトは家にあった本と父親の話を思い出す。
―――7年前
「ヒロト、覚えておきなさい。この世界には不思議な力が存在する。」
「不思議なちから?」
「そうだ、科学では解明出来ない力、その正体こそが霊獣であり、魔法だ」
当時8歳だったヒロトにとって、父親の言っていることは理解が出来なかった。
だが、なにか重要なことを伝えようとしていることは十分に分かった。
「霊獣って、フィルみたいな?」
『きゅ!』
名前を呼ばれたフィルが喜んで鳴き声をあげる。
「そうだ、霊獣というのは、死んだ獣や、魔力エネルギー溜まりから生まれた、もしくは転生したものだ」
「???」
『きゅうう??』
「…今は分からなくてもいいさ、だがヒロト、覚えておけ、心を交わしあった霊獣と共にあれば、人間は更に上へと登れる」
「心を…交わす?」
「そうだ、心を交わし合い、友を超えた霊獣、まさに相棒となれた霊獣とは、本当の意味でひとつとなり、大きな力を手に入れることが出来る。これを霊獣武装と言うんだ」
「霊獣…武装…」
言葉の意味が分からず困惑するヒロトに対し、父親カイトは優しく微笑みかけながら頭を撫でた。
「本当はわかんない方がいいんだがな…でも、きっとヒロトにもわかる時が来るさ。
…よし、飯にするか!」
――そして父親がいなくなったあと、ヒロトは家の本棚の奥に隠されていた1冊の本を見つけた。
先祖が書き綴ったであろうボロボロで手書きの本は、ほとんどが日記と、死にたくないといった内容で埋まっていた。
そんな中、たった数ページだけに霊獣に関する事が記されていた。
その本に従い、数年の努力を積み上げてきた。
その知識と努力の成果を今、解き放つ。
「ッオオオオオオオオオ!」
心の底からの雄叫びをあげ、自分を鼓舞する。
「キュゥアアアアアアアアアアア!」
ヒロトとフィルが雄叫びをあげる、するとフィルの周りからチラチラと小さな火の粉が飛び始めた。
「「アアァァァァァァァァァァァァァ!!」」
肺の中にある空気を全て吐き出し、筋肉を圧縮させる。
ギンッとアラフメィを睨み、魔法を発動させる言葉を叫ぶ。
「霊獣武装!!!」
一瞬にして、フィルの体が赤い光の粒となって空気中に飛び散る。
月の光を薄めさせるような眩い光の粒は、ぐるぐると渦をまき、ヒロトの身体を包み込んだ。
「へぇ…火属性か」
そう呟きながら眺めるアラフメィの眼前で、光は薄い膜となり、ヒロトの体を覆った。
「ハアッ!」
バシュッ!っと火の粉が散り、茶色い髪の毛の一部を赤く染める。
「クッフ、フフハハハハハハ!いいねぇ!気合が入ってるじゃないか!さっさと始めようぜェ!」
「ああ、言われなくてもな!」
ジロリと睨んだヒロトに、まるで挑発するようにアラフメィはにっこりと笑った。
「さァ、よーやくだ。よーやく戦える」
体を震わせながら笑うアラフメィに、何故かヒロトは底知れない恐怖を感じた。
「さァ、出番だ。出ておいで」
アラフメィがそう呟くと、アラフメィの後ろに広がる砂漠が、まるで山のように盛り上がり、大量の砂をぶちまけながら、家1つはあろうかという大きさの真っ黒い蜘蛛が飛び出し、大きく鳴き声を上げた。
「なっ!?で、でかい!」
あまりの大きさに驚くヒロトを尻目に、アラフメィは笑い続ける。
「アッハハハハハ!さぁ!バトル開始と行こうかァ!」
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