第2話 旅路
パラパラと瓦礫に積もった砂が落ちる。
ある程度収まった砂嵐の中を、深い緑のローブを着たヒロトが歩いてゆく。
ヒロトがシェルターを出てから、すでに4日間が経過していた
(本で読んだ砂漠は寒暖差が激しいって書いてあったけど・・・)
頭上に渦巻く砂嵐を見上げる。
(割とそんなに・・・)
そんなことを考えていると、細かい砂が目に入った。
「いててて・・・」
軽く目頭を押さえながら下を向くと、痛みで少し涙が出てきて視界をぼやけさせた。
『きゅああ?』
「ああ・・・大丈夫だよフィル、ちょっと砂が目に入っただけだから」
心配したフィルがローブのフード部分から声をかけてくる。
___ちなみにフィルはヒロトのローブの中で、肩に乗っかっている。
(それにしても・・・)
ヒロトは砂が目に入らないようにゆっくりと辺りを見回す。
見渡す限り砂漠が広がり、かつて住居だった石塊が音を立てて崩れ落ちる。
(ホントにこの先に街なんてあるのか?)
そんな疑問を抱えながらも、一人と一匹はゆっくりと歩いて行く。
砂粒が顔に当たり、汗のせいでへばり付くが気にせずに足を動かした。
___そのまま30分くらい進んだ頃だろうか
(・・・ん)
不意に顔に何かが触れた。
(なんだ・・・これ・・・)
顔に付いたソレを指でつまむと、わずかに差した日の光に反射してソレはキラキラと光った。
(これは・・・糸?なんでこんなところに・・・ってか糸ってもっと白かったような・・・)
「フィル、これ、わかるか?」
指の先でつまんだ糸を首の辺りまで持って行く、するとフィルが顔を出してふんふんと匂いを嗅ぎ、左右に顔を振る。
「そうか・・・」
少し顔を上げて辺りを見回したが、砂嵐がひどくなってきており数メートル先しか見えない。
「今日はここまでかな・・・」
そうつぶやいて、ヒロトは寝床の準備にとりかかることにした。
近場にあった瓦礫を鋼鉄製のワイヤーで固定し、風と砂をある程度よけれるようにカマクラ状に整形する。
「よ、いしょっと」
うまいこと高さを調節しながら、背負っているリュックの中から折りたたまれて小さくなったテントセットを取り出す。
かちりとロックを外すと、ばさりと音を立てながら布地が広がり、からからと鉄製の支柱が地面へと落下した。
「ふんふんふ~ん」
軽く鼻歌を口ずさみながら手慣れた様子で折りたたんであった支柱を伸ばし、地面へと突き刺す。
「フィルー、手伝ってー」
そう言いながらヒロトが差し出したテントの布地の端っこをフィルがくわえる。
『きゅううい』
「せー、の!」
一人と一匹で同時に布地を引っ張あげ、支柱に固定する。
約10分で瓦礫の山に守られたテントが完成した。
荷物を整理し、携帯保存食で夕食を済ます。
「そろそろ寝るか」
『きゅい』
濡らした布で体を拭き、着替えを済ませた頃には辺りは暗くなり始めていた。
テントの入り口を閉め、眠りにつく。
ものの数秒で深い眠りに落ちていった。
「・・・・・・ん、」
ふと真夜中にヒロトは目を覚ました。
『きゅうう?』
気配で気付いたのか、フィルが声をかけてきた。
「なんでもないよ、ただ目が覚めただけ。」
そう話しかけながら、テントの入り口を少し開けると、冷たい風がゆっくりとヒロトの頬を撫でた。
「おお・・・寒いな・・・」
そのままのそのそと外に這い出す。
「うお・・・こいつはすごいな。」
空を見上げると、真っ暗な闇の夜空の中に、無数の星が煌めいていた。
「普段星とか見ないからな・・・」
そのまましばらく眺めていると、風で雲が動いたのか、辺りがより一層明るくなった。
「あれは・・・あれが・・・月・・・」
これまでの人生のほとんどを砂漠のシェルターの中で過ごしてきたヒロトにとって、月というものは父親が残した本の中でしか見たことが無かった。
「こんなにも・・・大きいのか・・・」
それは本でみた画像よりも大きく、強く輝いていた。
___ゆえに、気付いた。
砂嵐の収まった砂漠に、キラキラと輝く細い糸が張り巡らされていることに。
「これは、一体・・・」
「あーあ、気付いちゃったのかぁ」
「ッ!」
夜の砂漠に女の声が響く。
後ろから聞こえた声に勢いよく振り向くと、満天の星空を背景に、瓦礫の山に座る10歳ほどの少女が見えた。
「せっかく人が苦痛をあんまり与えないように殺してあげようとおもったのにさぁ、気付いちゃったら、ねぇ?」
「アンタは・・・一体・・・?」
「アンタァ?口の利き方ってもんを知らないの?」
そのまま少女は慣れた様子で瓦礫の上に立ち上がると、両腕を広げる。
「これからテメェを殺すんだ、冥土の土産に教えてやるよ。」
少女が伸ばした指先からきらきらと糸が伸びる。
「アタシの名前はアラフメィ、覚えたんならさっさと逝きナァ!」
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