アーマーナイツ
@thisyuu0403
第1話 300年後のセカイ
パラパラと砂が舞い、風によって着ているローブの裾がバサバサとはためく。
目に見える範囲には、かつて民家だったのであろう瓦礫がいくつか見える程度で、これといった建物はない。
そんな砂漠に一人の少年が立っている。
身長は160センチ程度、歳は15歳くらいだろうか。
口元までのマスクとフードの間から黒色の瞳が覗いている。
…かつてはこの地にも緑があふれ、人々が笑って暮らしていたのだろうとその少年、ヒロトは思う。
しかし、今のこの地には、緑の影もない。
あるのは、毎日舞い上がる砂、触るだけで崩れるような住宅後、そしてヒロトが住む地下シェルターのみ。
そして何より、この地には、人間がヒロトしかいない。
その事についてヒロトは特に考えた事もなかった。5年前に唯一の家族である父親が死んでしまったが、もはやただの過去として処理することが出来ていた。
強風が吹き、近くの瓦礫を崩していく、これからは砂嵐もふいてくるだろう。
(…帰るかな)
誰か通らないかとここ最近は自宅付近を見張っていたが、もう食料が限界に近づいていた。
(今日も収穫どころか人すら通らないとは…)
砂漠で口を開けると砂が入るため、独り言を話したくなるのを抑えながら舞い上がる砂をかきわけて地下シェルターへと入る。
「ただいまぁ〜。」
ばさばさとローブに乗った砂を落としながらシェルターへと入る。
「おーい…寝てるのー?」
少し大きめに声を出しながら奥へと入る。
すると。
『キュ〜』
と返事が返って来た。
そう、ほぼ全ての生物は隕石によって絶滅した。しかし、宇宙から飛来した未知なる物質は、とある変化を地球にもたらした。
その変化は、たった300年でこの世界へと馴染んだのだ。
「おー。今日もおとなしくしてたかー?」
ヒロトがばさりとフードを脱ぐ。と同時に、頭に乗っていた砂がとさりと軽い音を立てて床に落ち、くらい緑色をしたフードの中から薄く茶色がかった肩甲骨あたりまで伸びた長い髪が飛び出した。
ヒロトがローブを衣装掛けに掛けると、
『キュイ〜』
まるで主に返事をするように鳴き声をあげ、とてとてとシェルターの奥から1匹の獣が歩いてくる。
それはまるで、狐と犬を足して2で割ったような薄いクリーム色をした小型の獣だった。
「頼むよ、フィル。」
フィルと呼ばれた獣はくぅーんと一声鳴く。
すると、薄暗かったシェルター内にポツポツと温かい光が溢れた。
「ふぃー、今日も酷い砂嵐だ。こりゃ出てくのは明日になるかなぁ…」
ヒロトはフィルを撫でながら、ベッドへと仰向けに寝っ転がる。
「それにしても・・・」
軽く軋むベッドの音を聞きながら、枕元に置いてあるボロボロの本を持ち上げ、手慣れた様子でパラパラとめくり、とある1ページで止める。
「トウキョウ、ねぇ・・・」
そのままパタリと本を閉じ、目の前に座りゆっくりとしっぽをふるフィルへと目を向ける。
「お前はいいのか?」
優しく問いかけたヒロトに対して、フィルは青い瞳でヒロトを見つめると、元気にきゅうんと鳴いた。
そんなフィルに呼応して、部屋の明かりが仄かに増し、室内の温度が少し上がる。
そう、隕石がもたらしたのは、破壊だけではなかった。
隕石は、世界の破壊と共に新たなる現象を作り出した。
それこそが、《霊獣》と呼ばれるエネルギー体。
かつてこの地球で暮らしていた生物たちは絶滅してしまったが、かつて生きていた生物、はたまた幻想上の生物までもが、霊獣として地球上に多数現れていた。
そして、霊獣はただの獣ではなかった。
五大幻素と呼ばれる魔法エネルギー、それぞれ、火、水、土、光、そして闇の五つを基本として宿し、この数百年のうちにかなりの進化を遂げていた。
__らしい。
というものの、このヒロトの一族は、その昔、未だ世界が暗かった頃に問題を起こし、今現在ヒロトが住んでいる地下シェルターへと逃げ込んできたとヒロトは父から聞いていた。
(・・・つってもその父さんも5年前にいなくなっちまったがな。)
「原因は恐らく・・・」
____暗黒病。
ヒロトの祖先達は、隕石の影響が色濃く残る真っ暗な空の下を何年も歩き、このシェルターを見つけた。
しかし、そんな環境において体に何の害も無いわけがなかった。
そうやって祖先達の体に表れた黒い斑点。
その正体こそ不明であるものの、その病は確実に祖先達の体を蝕んだ。
そして恐ろしいことに、この病は遺伝するという性質があった。
その結果、ヒロト達の一族は、短くして17、長くても30歳になるかならないかという短命な一族になってしまった。
ヒロトの父親でもあるカイトも、3年前に暗黒病が原因と思われる症状を発症しており、息子には情けない所を見せたく無かったのか、5年前の夏の夜に姿を消していた。
当時10歳の子供にとって、目を覚ましたら唯一の家族が消えていた事、そしてどれだけ待っても帰ってこない事に気付いた時の絶望感はとてつもないものだった。
今でこそ過去として割り切ってはいるものの、当時のヒロトは目も当てられないような状況だった。
食事は喉を通らず、悲しみと寂しさで眠れない、そんな状態が一週間以上続いた。
そんな時にそばにいてくれたのが今現在唯一の家族であり、当時はまだ小さかったフィルだった。
ヒロトは寂しさを紛らわすために毎晩フィルを抱きながら眠ろうとしたが、まだ幼いヒロトは父親を失った悲しみに耐えられず、一度死にかけた。
その時、偶々フィルと[契約]を結ぶ事が出来た。
そのおかげで体力を回復したヒロトは、その後成長を続け、今にいたる。
__が、
「遂に出たか。」
そうつぶやきながら左腕の袖をめくる、そこには、日に当たらないせいでかなり白い肌に、まるでカビが生えたように黒点が二つ浮き上がっていた。
こうなってしまってはもう治らないと、先祖の残した本に書いてあった。
「でも」
『きゅうん』
「俺たちは諦めない。」
『きゅうううん!』
ヒロトは力を込めてフィルへと語りかけた。
それに応えるようにフィルが力強く声を上げる。
ボボボボッとフィルの背中から火花が上がった。
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