高校生最後の学園祭
体育祭も終わり、すぐに学園祭の時期がやってくる。
そして今日は、その学園祭の出し物についての話し合いをHRの時間に執り行う事となったのだ。
「え~今年の学園祭の出し物についてですが、何か希望はありますか?もし無ければ・・・」
今回も委員長の司会の元、話し合いが始まった。
「今年も、早崎兄妹メインの出し物にしたいと考えているのですがどうでしょうか?」
そう委員長が言うと、クラス中から拍手が巻き起こる。
私はその状況に頭を抱え、ガックリとうなだれた。
そして暫し思案すると私は意を決した表情で顔を上げ、すっかり私達兄妹に何をして貰うか話し合っている所に手を上げてハッキリと自分の意見を言ったのだ。
「すみません!今年はもう、私何もやるつもりはありませんので!」
そうキッパリと言い切ると、クラス中から悲観の声が上がった。
さすがに、三年連続でやらされてたまるもんですか!!
私はそう心の中で思い、なんとか説得して来ようとする委員長に一切首を縦に降らなかったのだ。
「う~ん・・・詩音が辞退するなら僕もしようかな~」
そう私の隣に座っている響が言った事で、さらに委員長は焦りクラスの皆は動揺してしまう。
しかし、響も私と同じように委員長やクラスの皆の説得に一切応じず、私達兄妹はキッパリと参加を辞退したのだった。
結局その後の話し合いで、私のクラスは何も出し物をやらないと言う事で話がまとまったのだ。
ちなみに三年生に関しては、出し物の参加は自由と見做されているので、特に参加しなくても問題無いのである。
そうして今年は、特に学園祭準備の必要が無いまま学園祭当日を迎える事となったのだ。
学園祭が始まり学園内が活気に満ち溢れる中、私は上機嫌で一人出店を回っていた。
「ん~!やっぱりお祭り気分の時に食べる出店の食べ物は格別~!!」
そう私は一人呟き、手に持っていたフランクフルトにパクリと齧り付く。
そうして沢山の食べ物が入った袋を手に持ち、ホクホクとした表情で廊下を歩いていると、その廊下の向こうから見知った二人組がこっちに歩いてきている事に気が付いた。
「お~い!三浦君!カル!!」
「あ、詩音さん!」
「おお!詩音!」
私は手を振り、駆け足で二人の下に向かったのだ。
「・・・相変わらず、本当に食べる事が好きだね」
三浦はそう言って、私が手に持っている沢山の袋を見て苦笑する。
「だって、この時でしか食べられない物が沢山あるから!」
「・・・本当昔っから詩音は、食べてる時が一番幸せそうだったよね」
「・・・そんなにあからさまだったかな?」
カルが昔を思い出しながら、クスクス笑って私を見てきた。
「ふふ、ある意味分かりやすかったよ」
「む~・・・さすがに少し控えよう。じゃあ、この買った食べ物三浦君達に上げる!」
「え!?いや、それは詩音さんが買った物だし遠慮するよ!」
「ううん、受け取って!だって・・・すでに同じ物一通り食べ終わってて、ちょっと食べ切れなかたから持ってただけだからさ」
「・・・多分その一通りの量は、普通の量じゃ無いんだろうな~」
「三浦君・・・多分その考え正解だと思う」
何故か私の目の前で、二人はチラチラ私を見ながらコソコソと呆れた表情で話し合ってしまったのだ。
「・・・私が何か?」
「あ、ううん!何でもないよ!え~と、その食べ物が入った袋をくれるんだったよね?良いよ、せっかくだし頂くよ。ありがとう。カルロス君もそれで良い?」
「ああうん。良いよ。詩音、ありがとうね」
そう苦笑しながら言ってくる二人に、私は怪訝な表情になりながらも、持っていた食べ物が入った袋を二人に手渡したのだった。
「そう言えば、二人はどこかに向かってる途中だったの?」
「ああ、これからリハーサルをしに行く所なんだ」
「リハーサル?」
「あれ?詩音さん知らなかったのかな?僕達のクラスの出し物が、カルロス君のヴァイオリン生演奏による合唱だって事・・・」
「え?そうなの!?ごめん!知らなかった・・・。でも聞いただけでも凄く良さそう!絶対見に行くよ!いつ公演なの?」
「今日の午後からだよ」
「分かった!必ず行くね!・・・それはそうと、三浦君達のクラスは出し物やるんだね」
「うん。今回早崎兄妹が出ないと聞いて、僕達のクラス俄然やる気になったんだよ」
「・・・何で?」
三浦の言葉に、私は首を捻って不思議そうに三浦に問い掛ける。
「何でって、ね~」
「・・・詩音、去年と一昨年の優勝クラスに一番貢献してたの誰だい?」
「え?・・・え~と・・・」
何故か呆れた表情でカルの方に顔を向けた三浦に、カルも同じような表情で私に問い掛けてきたのだ。
「・・・『早崎 響』じゃ無いのかい?」
「あ!!」
「まあそう言う事で、今年は優勝候補のクラスが辞退したから、オレ達のクラス以外もすっかりやる気を出しているらしいよ」
「あ~そう言われれば、どこのクラスの出し物も去年より凝ってるように見えるね」
私は先程までいた出店や、各教室の展示品を思い出し一人納得したのだった。
「あ!ごめん詩音さん、さすがにそろそろ行かないとリハーサルに間に合わなくなるんだ」
「ああ引き止めちゃってごめん!二人共頑張ってね!」
「うん!頑張ってくるよ!」
「詩音、必ず見に来てな!」
そうして駆け足で走り去っていく三浦とカルを見送った私は、再び学園内を見て回る事にしたのだ。
暫くぷらぷらと歩いていると、中庭の一角で明らかに外部の人だと思われる、大勢の女性が囲むように群がっているのに気が付いた。
私はそれを怪訝な表情でじっと見つめると、その中心に見慣れた顔を発見する。
「響!?」
「あ、詩音!・・・ごめんね、妹に呼ばれたからもう僕行くね」
そう響は笑顔でその女性達に断りを入れると、その女性達からとても残念そうな声が上がった。
しかし響はなんとかその女性達を言い包め、そしてそこから抜け出し私の下にやって来たのだ。
「いや~詩音が現れてくれて助かったよ!どうしても彼女達が僕の事離してくれなかったからさ~」
「・・・相変わらずよくモテるね」
困っていたと口で言いながら、本当に困ったように見えない響を、私は呆れた表情で見ながら二人でその場を離れていく。
「だけど僕がモテるって言うけど、詩音もモテてるよね?今日は外部の人が沢山来てるからさ」
「私が?そんな事ある訳無いじゃない!」
「本当に?誰にも声掛けられなかった?」
「そんな人いなかったよ!・・・ああでも、何人かの外部の男の人に道を訪ねられたけどね」
「・・・本当に道を訪ねられただけだった?」
「う~ん・・・何故だか皆、そのまま一緒に学園祭を回らないかと言われたぐらいかな?まあこの学園、結構広いから迷いやすいもんね」
「・・・結局、その人達はどうしたの?」
「え?私、一人で気楽に回りたかったから、近くにあった学園祭のパンフレットと地図渡しておいたよ」
「・・・まあある意味、詩音らしいちゃ詩音らしいか。でも高円寺先輩は色々苦労しそうだな~」
「ん?雅也さんがどうかしたの?」
「ううん。何でもないよ」
何故か響は私を見ながら苦笑してきたので、私はそんな響を不思議そうに見返す。
「そう言えば、詩音はこの後どこか行く予定なの?」
「ううん、特にこれと言って決めてないよ。ただぷらぷらしてただけ」
「そうなんだ。あ!それじゃ詩音は、麗香ちゃんのクラスの出し物ってもう見に行った?」
「麗香さんの?まだ行って無いよ。ああそっか、麗香さんのクラスはまだ一年生だから、何か出し物やってるんだったね」
「うん、そうだよ。ならこのまま、麗香ちゃんのクラスの出し物見に行かない?」
「良いよ!・・・あれ?そう言えば、麗香さんのクラスの出し物って何やってるんだろう?」
「ふふふ、それは行ってみてからのお楽しみだよ」
「その様子だと、響は何やってるのか知ってるみたいだね」
「知ってるよ!でも、今は教えな~い!」
「・・・まあ良いよ。行ってみれば分かる事だからさ」
なんだか面白そうにしている響に呆れながらも、私達は藤之宮のクラスに向かったのだった。
藤之宮のクラスに到着した私は、その教室の入口から中を見て驚愕に目を見開く。
そしてすぐに、入口に設置してある看板を確認した。
「・・・『男装女装喫茶』」
私はそう呆然と呟き、再び教室内に目をやる。
その私の目に映っているのは、女子がウエイターの格好をしそして男子が・・・フリフリのウエイトレスの格好をして接客している姿だったのだ。
ハッキリ言って、女子は基本的に皆よく似合っていて良い!だがしかし、男子の方が凄かった。
一部は本当に女の子かと見間違うような可愛い男子もいて、その可愛らしいウエイトレス姿がよく似合っているのだが、ほとんどの男子は剥き出しの腕や太股が筋肉質だったので、その可愛らしいウエイトレスの服とその肉体が凄くアンバランスだったのだ。
そして顔には化粧が施され、頭にリボンやフリルの付いたカチューシャを付けているから、端から見るととても異様な光景だった。
しかしこれが意外に受けてるのか、教室内には結構な客が入っていたのだ。
「す、凄いね・・・」
「でしょ?だから事前に教えなかったんだ。絶対知らずに見た方が驚くと思ったから」
「うん、確かに凄く驚いた。正直引くくらいに・・・」
響がクスクスと笑いながら私を見てくるが、私は頬を引きつらせながらその異様な光景から目が離せないでいたのだった。
「やあ、詩音に響君いらっしゃい」
「っ!」
私はすぐ近くで聞こえた高円寺の声に、凄い勢いでその声のした方に顔を向ける。
「よ、良かった・・・」
「ん?詩音どうかしたの?」
「あはは、詩音は高円寺先輩が、あのウエイトレスの格好をしていないか心配になったんだよ」
「ああ、なるほど」
「正直、僕はちょっとウエイトレス姿の高円寺先輩見たかったですけどね」
「いや、さすがに私は着ないよ。そもそも、私はもうこの学園を卒業しているのだから」
「ああそっか」
そんな事を私の目の前で話す二人を他所に、私は一人ホッと胸を撫で下ろしていた。
ほ、本当に良かった!・・・もし雅也さんがあの格好で出てきたら・・・ってあれ?意外に似合ったりして?
私は頭の中で高円寺のウエイトレス姿を想像し、ちょっと口元がニヤけてしまう。
「・・・詩音、一体何を考えているんだい?」
「ひっ!な、何も考えてません!!」
高円寺がとても良い笑顔で私に問い掛けてきたのだが、その目が笑っていない事に気付き、私は直立不動で必死に首を振って否定したのだった。
「あ!麗香ちゃんみ~け!」
「なっ!貴方達来てしまいましたの!?」
「勿論来るよ!麗香ちゃんの、その格好いいウエイター姿見にね!」
私達が入口付近で話していると、響が突然教室内に顔を向け笑顔で手を振ったのだ。
その響に気が付いた藤之宮が一瞬驚いた表情をした後、すぐに不機嫌そうな顔で私達に近付いてきた。
やはり藤之宮も男装と言う事で、ウエイター姿になっているのだが、正直このクラスで一番よく似合っていると思ったのだ。
藤之宮の長くて綺麗な黒髪は後で一つに束ね、黒いベストと足元まである黒い腰エプロンを身に付けている。
その姿は、まさにイケメンのウエイターだったのだ。
「麗香、お客様だけど案内は良いの?」
「・・・二名様で良いですわね?」
「いや、三名だよ」
「・・・雅也、貴方も客になるつもりですの?」
「せっかく詩音達が来たんだ、一緒にお茶しても良いだろ?」
「・・・はぁ~三名様ですわね。どうぞこちらにいらして」
高円寺に呆れた視線を向けながら、藤之宮は私達を四人掛けの席に案内してくれた。
「飲み物は何になさいますの?」
そう言って藤之宮はメニューを私達に手渡してくれたので、そのメニューを見て私と響は紅茶を頼み高円寺は珈琲を頼む。
そして、お薦めのケーキセットを三人分頼んだのだった。
「お待たせ致しましたわ」
少ししてから藤之宮はそう言って私達の前に、頼んだ飲み物と苺のたっぷり乗ったタルトを置く。
「うわぁ~!美味しそう!」
「私のクラスにいる、パティシェ志望の子が作りましたのよ」
「・・・うん!美味しい!!」
「お口に合いまして良かったわ。では私は仕事に戻りますので、どうぞごゆっくり」
私が感嘆の声を上げると、藤之宮は少し嬉しそうにしながらもそっぽを向き、そしてさっさと他の場所に行ってしまった。
「麗香ちゃん、だいぶクラスに溶け込めてるようで良かった」
「そうね。クラスの子が作った物を誉めたら、なんだか嬉しそうだったもんね」
「ふふ、麗香は入学してきた時よりも、だいぶ表情が顔に出るようになったんだ。これも君達のお陰だよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
高円寺の言葉に私は思い当たる節が無かったのだが、高円寺はそんな私に向かって微笑みながら肯定してきたのだ。
そうして暫く私達は、美味しい飲み物とケーキを堪能しながらお喋りを楽しんだのだった。
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