ダブルデート?
「・・・貴方達、いつまでいるつもりですの?」
藤之宮が眉を顰めながら、再び私達の下にやって来た。
「麗香、お客様にそれは言っては駄目だよ」
「・・・言いたくもなりますわよ。ほら周りをご覧なさい、すっかり貴方達を目的とする人達で今大変な事になっていますのよ!」
そう藤之宮が眉をつり上げながら言ってきたので、私はチラリと周りに視線を向ける。
すると確かに、入ってきた時よりも多くの客が席に着いていて満席状態だった。
その中を忙しそうに、藤之宮のクラスの人が動き回っている。
さらに入口の方を見ると、入口から廊下にずらりと行列が出来ていたのだ。
そして皆一様に、チラチラとこちらを伺い見ていた。
「あ~麗香さん、なんかごめんね」
「べ、べつに詩音さんが悪い訳ではありませんわ!詩音さんは、この状況に気が付いていないようでしたもの。むしろこの状態に気付きながらも、黙って平然と居座っているそこの男二人に言ってるのですわ!」
藤之宮はそう言って、響と高円寺をジロリと睨み付けるが、当の二人は悪びれた様子も見せずニコニコと楽しそうに微笑んでいたのだ。
「ねえねえ、それよりも麗香ちゃん・・・」
「それよりもですって!?」
「まあまあそんなに怒らないで。僕達もうそろそろ行くからさ」
「そ、そうですの・・・漸くいなくなって下さって清々致しますわ!」
「ふふそれでさ、麗香ちゃんの休憩時間ってもうすぐだよね?」
「・・・何で貴方が、それを知ってらっしゃるの?」
「ふふふ、内緒だよ。それよりも休憩だよね?」
「・・・ええ、予定通りでしたらね」
私は響が何を言おうとしているのかさっぱり見当が付かないでいたのだが、高円寺の方は何か分かっている様子で、楽しそうに黙って二人の様子を見守っていた。
「じゃあ、その休憩時間に僕達と学園祭見て回ろうよ!」
「え?」
「ああなるほど、響はそれが言いたかったのね。私はそれ良いと思うよ!」
「私も響君に賛成だよ」
響の提案に驚いている藤之宮を他所に、私と高円寺は響のその提案に同意する。
「じゃあ決まりだね!僕と詩音は外に出て麗香ちゃんが休憩入るの待ってるから、高円寺先輩は麗香ちゃんと一緒に来てね」
「ああ分かった」
「ちょっ!勝手に決めな・・・」
「麗香ちゃん、ごちそうさま!詩音出ようか」
「うん!麗香さん、美味しかったよ。ごちそうさま。じゃあ雅也さん、外で待ってますね」
「ああ、すぐ行くよ」
藤之宮が何か言う前に響は席を立ったので、私はそれを見て苦笑しつつ高円寺に声を掛けてから席を立ち、響に付いて教室を出ていったのだった。
暫く教室の近くで響と話ながら待っていると、高円寺と一緒に制服に着替えた藤之宮がやって来たのだ。
「あれ~?麗香ちゃん、服着替えちゃったんだ」
「当たり前ですわ!あんな仮装みたいな格好で、校内を歩ける訳ありませんわ!」
「え~結構似合ってたのにな~」
その響と藤之宮の言い合いを聞きながら、私は複雑な顔をする。
「仮装姿で校内を歩く・・・」
「ふふ、懐かしいね」
私が一年生の時に、高円寺とお姫様の格好で学園祭を回った事を思い出し思わず呟くと、それを私の横で聞いていた高円寺が含み笑いを溢しながら私と同じ事を思い出した様子で言ってきたのだった。
「まあ、僕はどんな麗香ちゃんも可愛いと思ってるけどね!」
「っ!・・・正直、男の格好で貴方の横を歩きたく無いからですわ・・・」
「え?麗香ちゃん何か言った?」
「な、何も言ってませんわ!!」
藤之宮が恥ずかしそうに小声で何か呟いていたのだが、響にはその内容が聞こえ無かったようで不思議そうな顔で聞き返す。
しかし藤之宮は、その不思議そうに見てくる響の顔を見ながら、何故か顔を赤く染めてそっぽを向いてしまったのだった。
そうして私達は、四人で学園祭を見て回る事になったのだ。
いくつかの展示物や出店を見て回り、次にどこへ行こうかと廊下に立ち止まってパンフレットを開きながら話し合う事になった。
「う~ん、どこが良いかな?麗香さんはどこか希望ある?」
「・・・私はどこでもよろしいですわよ」
「雅也さんは?」
「詩音達が行きたい所なら、どこでも付き合うよ」
「う~ん、どうしよう・・・」
どうにも決まりそうに無かったので、私はどうしたものかと唸り声を上げていたのだ。
するとその時、突然響が指を指しながら発言した。
「ねえねえ、次決まらないなら今度はあそこに行こうよ!」
「え?・・・・・っ!!」
私は響の指差す先を見て、頬を引きつらせながらピシッと固まる。
何故ならその視線の先には『ホラーハウス』と言う看板と、明らかに怖そうな飾りつけがされている入口があったのだ。
わ、私・・・ああ言うお化け屋敷系大の苦手なのにーーーー!!!
そう心の中で叫び、凄く嫌そうな顔でぎこちなく響の方を見ると、その響はニヤニヤと楽しそうな顔で私達の方を見ていたのだった。
・・・絶対分かってて言ってるよ。
私はそんな響をジロリと睨み付け、そして藤之宮の様子を確認する為視線を移す。
すると藤之宮はいつもの毅然とした様子で、あのホラーハウスの入口をじっと見つめていた。
ああ、麗香さんは平気なんだ・・・あれ?
そこで私は、藤之宮の様子がおかしい事に気が付く。
一見平気そうに見えたのだが、よく見ると若干顔色が悪く頬が僅かにピクピクと動いていた。
そして手を強く握りしめている様子から、どうやら藤之宮も得意では無いのではと思ったのだ。
「麗香さ・・・」
「あれ?もしかして麗香ちゃん、ああ言うの怖いの?」
「なっ!あ、あんなの怖くなんてありませんわ!良いですわよ!行きますわ!!」
私が藤之宮に声を掛けるよりも早く、響が悪戯っ子のような顔で藤之宮に声を掛けてしまったので、すっかり藤之宮は強がって行くと言い張ってしまった。
ああ~響のあれは、絶対わざとだ・・・。
その二人の様子を見ながら、私はまんまと響の口車に乗せられてしまった藤之宮に同情の目を向ける。
「本当に響君は、麗香の事をよく分かっているね」
「雅也さん・・・」
「多分、詩音も響君も気が付いていると思うけど、麗香は昔っからああ言う怖いもの系が全く駄目なんだ。麗香がまだ小さい時に、私の実家でたまたま怖いテレビを見てしまった時なんて、その日一日私から離れなかったんだよ」
そう思い出して苦笑している高円寺を見て、私は曖昧に笑い返す事しか出来なかったのだ。
何故なら私も小さい時に同じ状況になって、ずっと響から離れられなかったのである。
そんな藤之宮が、いつもの感じで入ると言い張ってしまったので、多分心の中で相当後悔をしているんだろうなと思ったのだった。
そうして明らかに行きたくないと言う顔を見せてる私を響は無視して、私達はその『ホラーハウス』と書かれた看板が置いてある教室の入口まで向かったのだ。
「いらっしゃいませ~こちら二人一組で、順番に入って行くシステムです」
そう入口の前で死神の格好をしながら案内をしている男子生徒に言われ、私達はお互いに顔を見合わせる。
「それじゃあ僕は、麗香ちゃんと一緒に入るね」
「え?い、いえ!私は詩音さんと入りますわ!」
「え?」
「え~!それじゃあ僕は、高円寺先輩と男同士で入らないといけなくなるじゃん!」
「・・・それはさすがに遠慮したいな。当然私は詩音さんと一緒に入るよ」
そう言って高円寺は、ガッチリと私の腰を掴んできたのだ。
「え?あ、あの・・・入らないと言う選択肢は・・・」
「「それは無い!」」
私が恐る恐る言うが、響と高円寺に速攻却下されてしまった。
「と言う訳だから、麗香ちゃんは僕と入る事で決定ね!」
「っ!・・・わ、分かりましたわ!そ、それならさっさと行きますわよ!」
そう言って藤之宮は一人で黒いカーテンが引かれた入口から入って行ってしまい、それを面白そうにクスクス笑いながら見ていた響が後を追って中に入って行ったのだ。
「・・・麗香さん、大丈夫かな?」
「まあ、響君がいるから大丈夫だと思うよ」
「・・・その響が、何をするか予想出来ないから心配なんですけどね」
私はそう言って、高円寺に複雑な表情を向けたのだった。
そうして響と藤之宮が入って行って少し経ったので、次入って良いと案内の男子生徒に言われ、私と高円寺は入口の前に立つ。
「・・・はぁ~やっぱり入るんですね」
「ここまで来てしまったからね。大丈夫、私が付いているからさ」
「うう・・・」
それでも私が中に入るのを渋っていると、高円寺は優しく私の手を握ってきた。
「気休めかもしれないけど、これで少しは良くなるかと思ってね」
「雅也さん・・・」
「さあ、入ろうか」
「・・・はい」
そうして私は高円寺に手を引かれ、真っ暗な教室の中に入って行ったのだ。
その教室に入ると怖い雰囲気を演出している音楽が流れており、所々に蝋燭が置かれそれが真っ暗な中でぼんやり光っているので、余計怖さが増していた。
私は古い西洋の置物が置かれ西洋風の壁を設置して道を細くしてある教室中を、高円寺の手を強く握りしめながら進む。
そして激しい動悸で多分手に汗をかいている状態になりながらも、その事を気にしている余裕も無いままキョロキョロと辺りに視線を彷徨わせていたのだ。
するとその時、私の後で大きな音を立てて何か倒れた音が聞こえ、私は体をビクッと震わせながらゆっくりとその音の鳴った方に顔を向ける。
「な、なんだ、花瓶が倒れただけか・・・」
「結構演出凝ってるね」
私と高円寺は二人でその倒れている花瓶を見て、私はホッと息を吐く。
そして再び前を向いて、私は目を大きく見開いて驚愕する。
「き、きゃぁーーーーー!!」
私の目の前にはいつの間に来ていたのか、顔に血がべっとり付いたお化けが立っていたのだ。
それを見た私は、大きな悲鳴を上げ隣にいる高円寺に抱き着く。
すると高円寺は、私の予想よりも大きな反応に最初驚いていたが、すぐに優しく私を抱きしめてくれたのだ。
「ふふ、本当に詩音は苦手なんだね。でも安心して良いよ。もうさっきのお化けはいないからさ」
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だよ」
その高円寺の言葉に、私は涙目になりながらも恐る恐る顔をさっきまでお化けがいた所に向けると、高円寺の言う通りもうそこには誰もいなかった。
私はそれにホッとし高円寺の体から離れようとしたが、高円寺は私をしっかり掴んで離してくれなかったのだ。
「ま、雅也さん!?」
「私に抱き着いたままの方が、詩音は安心するんじゃ無いかと思ってね」
「そ、それはそうかもしれませんけど・・・さすがにこの体勢は・・・」
「あ、詩音の後ろに・・・」
「いやぁーーーー!!」
高円寺の言葉に、私は再び高円寺に強く抱き着く。
「ふふごめんね。私の見間違いだったようだ」
「ふぇ?」
「・・・ああどうしよう。涙目の詩音の可愛さが半端無いのだが!」
そう言って涙で滲む目で高円寺を見上げた私に、高円寺は困った顔をしながら軽く私にキスを落としていったのだ。
「っ!!ま、雅也さん!!!」
「ごめんね。詩音があまりにも可愛かったから・・・ついね」
「ついって!ここ学校ですよ!それに、絶対このクラスの人に見られてますよ!!」
私は顔を熱くさせ、さっきとは全く違う意味での動悸で落ち着かなくなった。
「まあまあ、それよりもそろそろ行かないと、次に入ってくるかもしれない他の人に私達の姿見られるよ?私はべつに構わないけど」
「・・・っ!!」
暗がりの中で抱き合っている男女の二人、端から見たら何もしてないとしても確実に勘違いされるシチュエーションだと言う事に気が付く。
「雅也さん!は、早く行きましょう!!」
「ふふ、ああ分かったよ」
そうして私は高円寺に腰を抱かれながらも、なんとか出てくるお化けの恐怖に耐え漸く出口が見える場所まで辿り着いた。
「良かった・・・やっと終わる」
「私はもう少し、この状況を楽しみたかったけどね」
そんな事を言う高円寺を私は敢えて無視し、私は手を繋いだまま高円寺から離れ足早に出口に向かったのだ。
すると突然、私達の後ろから作り物の包丁を両手に持ちお化けの格好をした人が大声を上げて追い掛けてきた。
「き、きゃぁーーーーー!!」
私は大きな悲鳴を上げ、高円寺の手を引っ張りながら出口の外に駆け出して行く。
「わぁ!!」
「きゃぁーーーーー!!」
「あ!詩音!!」
出口から出た私に、出口で隠れていたお化けのお面を付けた人に大きな声で脅かされ、私は再度叫び声を上げながら後ろに仰け反ってしまったのだ。
それを高円寺は、焦った声で慌てて私を抱き止めてくれた。
「詩音、大丈夫か!?」
私を後ろから抱きしめている高円寺が、心配そうに声を掛けてくるが私は目を見開いた状態で、激しく心臓をバクバクさせていたのだ。
その間に私を最後に驚かしていた人が、ペコペコと頭を下げて申し訳なさそうに去っていった。
「あははは!詩音、本当に怖がりだね!」
すると突然響のそんな楽しそうな声が聞こえ、私は目をつり上げながらその声の方を睨み付ける。
「響!!笑う事ないでしょう!!」
私は高円寺に抱き起こされながら響を睨み付けるが、そこである事に気が付いて目を瞠った。
楽しそうに笑ってくる響の腕に、藤之宮が青い顔でしがみつき響の手を握っていたのだ。
どうやら藤之宮も、私と同じように恐怖で大変な目に合っていたようだった。
「麗香さん・・・」
「な、なんですか?わ、私は全然怖く無かったですわよ!」
そう藤之宮が強がって言うが、その姿では全く説得力は無かったのである。
そうしてなんとか、私と藤之宮が落ち着いたのを見計らってから再び学園祭を回り、約束してあったカルの演奏と合唱を皆で聞いてから、藤之宮の休憩時間が終わると言う事でそこで藤之宮と別れる事となったのだ。
「麗香ちゃん、頑張ってね!また時間があったら行くね!」
「・・・もう来なくてよろしいですわ!」
「麗香さん、一緒に学園祭回れて楽しかったよ!また時間が合ったら行こうね!」
「・・・わ、私の気が向いたらよろしいですわよ!」
そう言って藤之宮は顔を赤らめながらもツンと顔を反らし、そして私達の下から去っていこうとしたのだが、すぐに立ち止まりチラリと私達の方に顔を向ける。
「・・・・・今日は誘って下さってありがとう・・・とても楽しかったですわ」
そうボソッと言うと、すぐに顔を前に戻し足早に去っていく。
「ふふ、本当に二人共ありがとう。じゃあまたね」
高円寺はそう楽しそうに言いながら、去っていく藤之宮を追い掛けて行き、私と響は急いで歩いていく藤之宮の後ろ姿を、微笑みを浮かべながら見つめていたのだった。
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