高校三年生編

入学式

 高円寺達が卒業し、すぐに終業式そして短い春休みを経て新学期が始まる事に。


 そして私もとうとう、最高学年である三年生に進級し今日の日を迎えた。


 今私は講堂でこれから始まる入学式に参加する為、三年生の席である椅子に座り、新一年生が入場してくるのを静かに待っていたのだ。




「ねえねえ詩音・・・」


「・・・何、響?もうすぐ式が始まるから、静かにしてないといけないんだけど?」




 私はそう言って、隣の席に座りながら私の方に顔を寄せてくる響をジロリと睨み付ける。


 その響とは今年も同じクラスになったので、今私の隣に座っておりそして生徒会長の任期を終えた事で、今は私の制服と同じ色である紺色の制服を着ている。


 ちなみに今年の生徒会長は、多くの投票を得て選ばれた藤堂弟の藤堂 健斗である。


 私はチラリと壁際に視線をやると、他の生徒会メンバーと一緒に真剣な表情で打合せしている藤堂弟の姿を見付けた。


 しかしその藤堂弟の姿に、私は密かに少し残念に思っている事がある。




・・・あ~あ、また背が伸びたみたい。




 そう、前まで私より背の低かった小柄な藤堂弟は、今では私と同じ・・・いや、私より少し高いぐらいにグングン背が伸びてしまったのだ。


 そして剣道の鍛練を頑張っているお陰か、体格もどんどん逞しくなってきていて、結構今女生徒の人気が上がってきているらしい。


 しかし私としては、日に日に小柄な藤堂弟じゃ無くなってきている事が少し寂しいと思ってしまっているのだ。


 だけど学園内で顔を会わせると、屈託の無い笑顔で私を『詩音姉様!』と言って慕ってくれるので、やはりその姿は可愛いと思っているのだった。




「・・・ねえ?詩音聞いてる?」


「え?ごめん、全然聞いてなかった。で?何?」


「・・・そんな気はしてたけどね。じゃあもう一度聞くけど・・・あれから高円寺先輩とどうなの?」


「なっ!ど、どうなのって!?」


「詩音、声大きいよ」


「っ!ご、ごめん・・・」




 響の質問に私は動揺して思わず声を大きくしてしまい、その結果周りから視線を集めてしまったので、私は肩を縮ませ恥ずかしがりながら小さな声で謝る。




「・・・それでどうなの?あの卒業式から会ってるの?」


「・・・会ってない」


「え?そうなの?だって二人は、正式に付き合う事になったんだよね?」


「うん・・・」


「だったら、春休み中に会ってると思ってたよ」


「・・・高円寺さんは、実家の事で色々忙しかったの」


「高円寺・・・『さん』?あれ?『先輩』と呼ばなくなったんだ?」


「う、うん・・・高円寺さんがもう学園を卒業したから、出来れば先輩呼びは止めて欲しいと言われたの」


「ふ~ん。だったらついでに、名前で呼べば良かったんじゃ?」


「っ!!な、名前で呼ぶなんて、む、無理!!」




 私はついついそう声を荒げたが、また周りからの視線に気が付き、再び肩を縮ませて椅子に座り直す。




「まあ、そこは詩音らしいね。でもとりあえずそんな会話をしてるなら、一応仲は順調そうだね」


「・・・卒業式の翌日から昨日まで、毎日メールと電話をしている程には」


「・・・訂正。充分仲は良さそうだ」




 そう言って、響は私に向かって苦笑したのだった。




「だけど今日から学校が始まるから、暫くはなかなか連絡取り難くなりそうだね」


「・・・そうなのよね。でもこればかりはしょうがないからな~・・・・・あれ?そう言えば昨日の夜、高円寺さんと電話で話している時何か変な事言ってたような・・・」


「変な事?」


「うん。『明日が楽しみだね』って言われたの」


「明日って事は今日だよね?一体何だろう?」


「さぁ?さっぱりよく分からなかったんだけど、聞いても結局最後まで教えてくれなかったんだよね」




 そうして私と響がお互いに首を傾げている時、突然講堂内に曲が流れ新一年生が入場してくる事に気が付いた私達は、とりあえずその話は一旦そこで終わらせ、拍手をしながら新一年生を迎える事にしたのだ。




やっぱり去年も思ったけど、皆新一年生って感じで初々しくて可愛いな~。




 私はそう思いながら、緊張した面持ちで入場してくる新一年生を微笑ましく見守った。


 するとその時、突然講堂内がざわつき出す。




「ん?どうしたんだろう?」




 そう疑問に思い呟きなから、皆の視線が集まっている講堂入口に視線を向ける。


 するとそこに視線を向けた私も、目を見開いて驚きの表情になってしまった。




「・・・何あれ?」




 私の視線の先には、この場所に全く相応しくない人達が新一年生の後ろに続いて講堂に入ってきていたのだ。


 その人達は、上下黒のスーツに黒いサングラスを掛けており、どう見ても新一年生には見えず、誰が見てもハッキリその人達はSPだと分かる風貌の大人の男の人達だった。


 そんな人達が10人ぐらいで固まり、周りを警戒しながら歩いている姿はとても異質である。


 私は眉を寄せ怪訝な表情でその男の人達を見つめていると、ふとある事に気が付いた。


 どうもその男の人達の中心に、誰かいるように見えたのだ。


 私は目を凝らしその中心にいる人物を伺い見ると、次の瞬間驚きに目を瞠った。




「うわぁ~!凄い美少女!!」




 その中心にいたのは、腰まである艶やかな黒髪が歩く毎に揺れその肌は透き通るような白い肌、そして少し切れ長の目に赤くぷっくりとした愛らしい唇をしている美少女だったのだ。


 絶世の美男美女である両親を見慣れていたせいか、他の人が美しいと言われている人を見ても特に驚く事は無かったのだが、今回はさすがの私も驚いてしまった。


 しかしよく見ると、その美少女は機嫌が悪いのか切れ長の目をさらに細めながら、無表情で前を見据えたまま周りのSPや在校生のざわつきを完全無視して歩き続けている。




「お、おい。あの子もしかして・・・皇族の藤之宮 麗香様じゃないか!?」




 そう私の近くに座っていた男子が、驚きながら後ろに座っている男子に話している声が聞こえてきたのだ。




・・・皇族の藤之宮 麗香様?あ、そう言えば・・・いつだったかテレビで見た事あったような・・・。




 テレビのニュースか何かで少しだけ見たような気はしたのだが、ハッキリとは思い出せず、腕を組んでうんうん唸りながら思い出そうとしていたその時、今度は黄色い声が講堂内に響渡った。


 私は若干その黄色い声に懐かしさを感じながらも、その黄色い声を上げ興奮した面持ちで、ある一点を見つめている女生徒達の視線を追って私もその方向に視線を向ける。




「・・・え?」




 その視線の先にいた人物を見て、私は唖然としたのだった。




「あれ・・・どう見ても高円寺先輩だよね?」




 響が不思議そうな顔をしながら私に話し掛けてきたが、私はそんな響の言葉など耳に入らず、ひたすらSP集団の後ろを歩くグレーのスーツを着た高円寺を凝視し続けたのだ。


 すると私の視線に気が付いたのか、高円寺が私の方に視線を向けそして視線が合うとニッコリと微笑んできた。


 その瞬間、さらに大きな黄色い声が辺りから沸き上がったのだ。


 しかし微笑まれた私はと言うと、久しぶりに高円寺と会えた事と好きな人の微笑みを見た事で、すっかり顔が熱くなってしまった。


 そんな事をしている内に新一年生は全員席に着き、入学式が始まろうとしていたのだ。


 ちなみに藤之宮も一番後ろの席に着いているが、その回りを相変わらずSP集団が囲んで警護している。


 そして高円寺はその近くの壁際に立ち、微笑みながら黙って式が始まるのを待っていたのだ。


 私は何故卒業した高円寺がここにいるのか訳が分からず戸惑っている内に、今年の生徒会長である藤堂弟が壇上に上りそして入学式が始まったのだった。






 そうしてその後特に問題も無く無事に入学式も終わり、私達は講堂からクラス毎に並んで出ていく。


 しかし講堂を出た所で私は高円寺の姿を見付け、そっと教室に向かう列から抜け出してその高円寺の下に向かったのだ。




「高円寺さん!」


「やあ詩音さん、卒業式以来だね。・・・会いたかった」


「わ、私も会いたかったです・・・」




 高円寺が嬉しそうに微笑んできたので、私は頬を熱くさせながらはにかみ会えた事を喜ぶ。


 するとそんな私を見て、突然高円寺が私を抱きしめてきたのだ。




「こ、高円寺さん!?」


「相変わらず詩音さん可愛い!」


「ちょっ、こ、ここでは他の人に見られるので恥ずかしいから離して下さい・・・」


「私は、人に見られても気にならないけどね」


「わ、私は気になります!」


「でも・・・もう少し君を感じさせて」


「っ!!」




 高円寺は優しく言い、さらに私を抱きしめる力を強めてきた。


 結局私も久しぶりに高円寺と会えた事が嬉しかった為、そのまま高円寺の胸に身を任せ温もりを感じていたのだ。


 そうして暫くお互いの温もりを感じ合った私達は、名残惜しいがさすがに学園内なので離れる事にした。




「それにしても、高円寺さんはどうしてここに?」


「・・・詩音さんは、藤之宮 麗香の事知ってる?」


「え?え~と・・・テレビで少しだけ見た事があるような・・・」


「そっか・・・まあ麗香は、皇族だけどあまり表に出るの好きじゃ無いからな」


「・・・麗香?え?呼び捨て?」


「ん?ああそれはね・・・」


「雅也!」




 高円寺が藤之宮を名前で、それも呼び捨てで呼んだ事に少しムッとしていると、高円寺がそんな私に苦笑しながら説明をしようとした。


 だがその時、とても澄んだ声だが鋭い声で高円寺の名前を呼び捨てで呼ぶ女性の声が聞こえてきて、私はその声がした方に驚きながら振り向く。


 するとそこには、先程見た時よりもさらに不機嫌そうに見える顔でこちらに近付いてくる藤之宮がいたのだ。




「・・・藤之宮さんも、高円寺さんを名前で呼び捨て?」




 私は呆然とそう呟きながら、私達の下に歩いてくる藤之宮を見つめていたのだった。

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