告白
再び校庭に戻った私は、高円寺の姿を探してウロウロ歩き回る。
すると、大勢の男女の生徒に囲まれている高円寺を発見した。
「うわぁ~さすが高円寺先輩、凄い人集り・・・」
そのあまりの人の多さに、私は声を掛けるのを躊躇してしまい、どうしたものかとその人集りの回りを歩き回っていたのだ。
するとその時、皆に笑顔を向けていた高円寺が私の存在に気が付き、嬉しそうに微笑んできた。
私はその微笑みを見て、一気に顔が熱くなってしまう。
なんとかその熱を抑えようと、頬に両手を当てて手の冷たさを感じていると、いつの間にか高円寺があの人集りから抜け出し、私の近くに来ていたのだ。
「やあ、詩音さん」
「こ、高円寺先輩!?」
「ん?私に用があったんだよね?何でそんなに驚いているの?」
「え、えっと・・・まさかこんな近くまで、高円寺先輩が来ていた事に気が付かなかったので・・・」
「そっか、驚かせてごめんね」
「いえ・・・」
「それで何かな?」
「え、え~と・・・」
私はチラリと、さっきまで高円寺を囲っていた人達を見て言い淀む。
「ああ、ここでは言い辛いんだね。なら、場所を変えようか」
「・・・はい」
そうして私と高円寺は、他に人がいないであろう場所まで移動したのだった。
結局私達は、いつもの裏山の湖までやってきたのだ。
「ここなら、まず他に人は来ないだろうね」
「そうですね・・・」
そう高円寺に返事をしながらも、これから高円寺に言おうとしている事を考えると全然落ち着かなくなり、俯きながら手をモジモジとさせていた。
「詩音さん?どうかしたの?」
「い、いえ、何でも無いです!」
私の態度を不思議に思った高円寺が、身を屈め下から覗き込むように見てきたので、私は慌てて顔を上げ少し高円寺から距離を取る。
そんな私の様子に訝しがりながら、身を上げじっと私を見つめてきたのだ。
その高円寺と視線が合った私は、どんどん心臓が早鐘を打ち始め、顔が熱くなってきているのを感じた。
「・・・本当に大丈夫?凄く顔が赤いけど?」
「だ、だ、大丈夫です!!」
心配そうに見てくる高円寺に、私は思わず声が裏返りながら必死に返事をする。
な、何なの私!?これが恋ってものなの!?どうも自分の気持ちを自覚したせいか、高円寺先輩を意識し過ぎて全然ドキドキが治まらない!!こ、こんな状態で告白なんて・・・・・・絶対出来ないよーーーーー!!
そう心の中で絶叫し、正直この場から逃げ出したい衝動に駆られていたのだ。
「え、えっと・・・・・すみません!やっぱり、お話また今度にします!!」
私はそう叫び、この場から逃げようと踵を返し一歩足を踏み出す。
「待って!詩音さん!!」
だが今にも駆け出そうとした私の手を、高円寺が引き止める言葉を発しながら掴んできた。
結局手を掴まれた為、その場から逃げ出す事が出来ず仕方がなくその場に留まるが、私は高円寺の方を向く事が出来ないでいたのだ。
「・・・話って、私の告白に対しての返事だよね?」
「っ!」
高円寺のその言葉に、思わず肩を震わせ反応を見せてしまう。
「詩音さん・・・お願いだ、君の気持ちを聞かせて欲しい」
「・・・・」
「詩音さん!」
「っ・・・わ、分かりました。・・・答えますので、まず手を離して頂けませんか?」
「・・・もう逃げない?」
「・・・はい」
私がそう返事をすると、高円寺は一度強く私の手を握ってからゆっくり離してくれた。
ただ手が離れる瞬間、少し寂しいと感じている自分がいて、やっぱりこの気持ちは確かなものなんだと実感する。
そうしてここまで来たのだから、しっかりと自分の気持ちを伝えなければと思い、落ち着くように何度か深呼吸を繰り返した後、意を決して高円寺の方に体を向けた。
そして高円寺の顔を真剣に見つめ、言葉を発したのだ。
「高円寺先輩!・・・私の気持ちを聞いて下さい!!」
「ああ、聞こう」
「わ、私は・・・高円寺先輩の事・・・」
なんとかここまで言う事が出来たのだが、その後に続く言葉がなかなか言う事が出来ないでいた。
「・・・どんな答えでも、私は全て受け入れるから言って欲しい。まあ、大方断りの言葉だと分かっているけどね」
「ち、違います!!」
「え?」
諦めている表情の高円寺を見て、私は思わず否定の声を上げてしまい、そんな私に高円寺は驚きの表情に変わる。
そして私は今までで一番大きな深呼吸をすると、キッと高円寺の目を見つめ勇気を出して自分の思いを言葉に乗せたのだ。
「私は!高円寺先輩の事が!!・・・・・・好きです!!!」
「・・・っ!!」
高円寺は私の告白に、信じられないものでも見たかのように目を大きく瞠り、驚きで固まってしまった。
しかし私はそんな高円寺の様子を気にする余裕も無く、肩で大きく息をしながら痛いほど動いている心臓を全身で感じていたのだ。
「詩音さん・・・それは本当?」
「こ、こんな事、嘘ついてどうなるんですか!!それに、そんな器用な事私には出来ません!!」
「確かに・・・それじゃ本当に、詩音さんは私の事・・・」
「はい!!好きです!!」
もうここまでくるとすっかり開き直ってしまった私は、高円寺の聞きたい事をキッパリハッキリ言い切ったのだった。
「で、では、私と付き合ってくれるって事?」
「・・・はい。よろしくお願いします」
「っ!!」
私の言葉を聞き再び目を大きく見開くと、次の瞬間今までで見た事が無い破顔の表情を私に向けてきたのだ。
そんな高円寺の表情を見た私は、一気に顔へ熱が集まってしまう。
「詩音さん!!」
「・・・っ!こ、高円寺先輩!!」
高円寺はとても嬉しそうにしながら、私の手を掴んで引っ張りその胸に私を抱き込む。
私はその高円寺の突然の行動に動揺し、もう口から心臓が飛び出して来るんじゃ無いかと思うほど大きく心臓が跳ねたのだ。
「こんな嬉しい事は、生まれて初めてだ」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。私が自ら好きになった初めての人と、こうして思いを通わせられる事が出来るなんて思っていなかったよ!」
そう言いながら、高円寺は愛しそうにさらに私を抱きしめる力を強くしてきた。
しかしさすがに少し苦しくなってきた私は、その腕の中で身動ぎなんとかこの拘束を緩めて貰おうとする。
「・・・高円寺先輩、ちょっと苦しいので腕緩めて貰えませんか?」
「ん?ああすまない。あまりの嬉しさに、加減が出来なかった」
そう言って高円寺は苦笑を溢しながら、少しだけ腕の力を緩めてくれたが、私をその腕の中から離しはしてくれなかった。
私はそれを仕方が無いと思いながらも、その高円寺の気持ちが凄く嬉しかったのだ。
そして私は高円寺の胸に自らすり寄り、目を閉じてその高円寺の温もりを全身で感じる事にした。
そんな私の様子に一瞬高円寺が驚きで身を固くしたが、すぐに力を抜き私の髪を優しく漉き始めたのだ。
そうして暫しの間、時を忘れて高円寺の温もりを感じていたのだが、急に高円寺が再び私を強く抱きしめてくる。
「へっ?高円寺先輩?」
「・・・詩音さん、前言った事覚えている?」
「前言った事?」
「君が『ファーストキスは好きな人としたい』と言った事」
「そ、それは!!」
「ねえ、詩音さんは私を好きだと言ってくれたよね?」
「た、た、確かに言いましたけど!!」
「じゃあ・・・しても良いかな?」
「な、な、何を!?」
「・・・・・キス」
「っ!!」
高円寺は私を抱きしめる腕を緩め、じっと私を見つめてきているのだが、その瞳は前にも見たとても愛しい者を見つめる熱い眼差しであった。
私はその高円寺の熱い眼差しに動悸が激しくなり、その瞳を直視している事が出来なくなって思わず俯こうとしたが、その前に高円寺の手が私の顎に添えられ俯く事が出来なくなる。
「あ、あの・・・私・・・」
「嫌か?」
「い、嫌とかでは無いのですが・・・」
「なら・・・して良い?」
「え、あ、う~ん・・・・・・・はい」
そのあまりに真剣な表情の高円寺に、結局私が折れる形となり心臓がうるさいほど鳴り響く中、高円寺を受け入れる為ぎこちなく目を閉じた。
するとそんな私を見て高円寺がフッと笑ったように感じていると、顎に添えられていた手に力が込められそして顔をさらに上に向けさせられる。
そうして顔に影が掛かったかのように感じた次の瞬間、唇にとても柔らかい物が触れたのだ。
その予想よりも柔らかい感触に衝撃を受け、キスとはこんな感じなんだと心の中で密かに感動していた。
そして私が密かに感動しているうちに、私の唇からその柔らかい感触が離れていき、私はゆっくりと目を開ける。
「っ!!!」
目を開けると、目と鼻の先に高円寺の顔があって凄くビックリしたのだ。
しかしそんな私を、高円寺はとても楽しそうに見てくる。
「こ、こ、高円寺先輩?」
「・・・じゃあ、セカンドキスも頂くね」
「え?・・・ん!!」
高円寺は楽しそうにそう言うと、今度はまだ目を閉じていない私に向かって顔を近付け、私の唇にもう一度キスをしてきたのだ。
まさかまたキスをされると思っていなかったので、目を見開き驚きながら、なんとかそのキスから逃れようと顔を離そうとするが、いつの間にか顎に添えられていた手が私の後頭部に移動していて、しっかりと頭を固定されてしまった。
ならばと思い、今度は高円寺の胸に手を置いて力一杯押すが全くびくともせず、これもいつの間にか腰に回っていた腕にしっかりと拘束されてしまっていたのだ。
結局その腕から逃れる事が出来ず、私は高円寺のキスをそのまま受け入れる事になった。
そうして最初よりも大分時間が長かったセカンドキスも終わり、漸く高円寺が顔を離してくれたのだが、やはり相変わらずその距離は近いままである。
私は初めてのキスで上手く息が吸えず、少し酸欠気味になりながらその高円寺の様子を見て、恋愛初心者のである私は激しく戸惑い、ずっと動悸が鳴り止まないでいたのだ。
そんな私を愛しそうに見つめてくる高円寺は、優しく私に微笑んできた。
「詩音さん・・・好きだよ」
「っ!!」
一度前に高円寺から告白を受けていたが、こんな目の前で愛しそうに好きだと言われ、私は顔から火が出るほど熱くなってしまう。
「ねえ、もう一度君の気持ちを聞きたいな」
「・・・・・好き、です」
「私も好きだよ!」
「んん!!!」
私が恥ずかしそうに好きだと言うと、高円寺はとても嬉しそうに破顔し、再び私の唇を奪ってきた。
今度は先程よりも激しく唇を押し付け、そして何度も私の唇を啄むようにキスを繰り返してきたのだ。
そうして私はその後も、何度も高円寺のキスの嵐を受けたのだった。
どれだけ時間が経ったのか、私は高円寺のキス攻撃ですっかり力が抜け、高円寺の胸に身を任せているとそんな私の髪を高円寺は優しく漉いてくる。
その心地好さにすっかりうっとりしていると、突然高円寺の胸元から振動が伝わってきた。
私はその振動に驚き高円寺の胸から顔を上げると、高円寺は少し残念そうな表情をした後、胸元に手を入れて何かを取り出す。
それはいつも高円寺が使っている携帯だったので、どうやら先程の振動はその携帯に電話が掛かってきていた事を知らせるものだったようだ。
高円寺はその画面に表示された名前を見て、苦笑の表情になる。
そんな表情のまま携帯を見つめていたのだが、どうやら電話は切れたようで振動の音は聞こえてこなくなった。
しかしすぐにメールを知らせる音が聞こえてきて、高円寺は画面を操作しそのメールを見ていたようだ。
するとそのメールを見たせいなのか、先程よりも苦笑の表情が深くなってしまった。
「・・・高円寺先輩?」
「豊が、いい加減二人の世界から帰って来いとメールしてきた」
「なっ!」
「どうも私達の、この甘い時間を邪魔したいようだ」
「・・・・」
「出来ればもう少しこの時間を堪能したかったが、これ以上無視し続けると豊が誠や健司、そしてカルロス君を引き連れて怒鳴り込んで来そうだな」
「そ、それは!」
「正直、詩音さんが私を選んでくれたとここで見せ付けたい気分でもあるが・・・さすがにそれは止めておこう」
「そ、そうして頂けると大変助かります」
「それじゃ、皆の所に戻ろうか」
「・・・はい」
そうして漸く高円寺は私の体を離してくれたが、代わりに今度はしっかりと私の手を握り、指と指を絡ませて離さないようにしてくる。
私はその手の握り方が凄く恥ずかしいと思いながらも、どうしてもその手を離す気になれずそのまま私達は手を握り合い、そして私は密かに幸せな気分に浸りながら、私達を複雑な表情で待っていた皆の下まで戻って行ったのだった。
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