皇女と双子

 藤之宮が私達の前まで来ると、チラリと私に視線を向けてきた。


 すると私の顔を見た藤之宮が一瞬眉をピクリと動かし、そしてじっと私の顔を黙って見てきたのだ。


 結局藤之宮はそのまま一言も話さず、じっと私の顔を見続けてくるので段々居たたまれなくなり、私は一体どうしたら良いのか戸惑っていた。




「麗香・・・そんなに見つめていては、詩音さんが困ってしまっているよ」




 そう言って私の横に立った高円寺が、藤之宮に苦笑しながら声を掛けたのだ。




「・・・ああ、ごめんなさい。あまりにも珍しいお顔だったから」


「め、珍しい?」




 そんな風に言われた事は今まで無かったので、私は少しショックを受けながら驚いてしまう。




「麗香・・・そんな言い方だと誤解を受けるよ。詩音さんごめんね。麗香は、君があまりにも綺麗だから驚いていたんだ」


「え?」


「・・・そう言ったつもりでしたわ」


「つもりでは駄目だよ。私みたいに、麗香の言いたい事を分かってくれる人は少ないんだから」


「・・・・」




 高円寺が困った表情で藤之宮を諭すと、藤之宮は無言で眉間に皺を寄せ視線を反らした。


 しかしすぐに、また私の方をチラリと見てくる。




「それよりも雅也、そちらの方はどなたなの?」


「それよりもって・・・はぁ~この話はまた後でするからね。え~と、この人は・・・」




 高円寺は呆れた表情を見せた後、気を取り直してニッコリと私に微笑むと、おもむろに私の肩に手を置き抱き寄せてきたのだ。




「ちょっ!高円寺さん!」


「麗香、紹介するね。私の彼女である早崎 詩音さんだよ」


「・・・雅也の彼女?」


「そう。そして詩音さん、この子が藤之宮 麗香・・・私の従姉妹だよ」


「・・・・・え?従姉妹?」


「うん。私の母親の姉が、麗香の母親なんだ。その関係で私と麗香は、小さい頃から兄妹のようによく一緒に過ごしていてね。だからお互い、名前を呼び捨てで呼びあっているんだ」


「そうだったんですか・・・」




 その話を聞き、私は少しホッとした。


 だけどまだ高円寺が、何故ここにいるかの説明を聞いていない事を思い出し、私は高円寺の顔を伺う。




「ああ、私が何故ここにいるか聞きたいんだね。まあ簡単に言うと、麗香の護衛兼相談役だよ」


「護衛兼相談役?」


「麗香が皇族だって言う事は知っているよね?」


「・・・さっき、他の男子が話しているのを聞いたので」


「そっか・・・その様子なら、麗香がこの国の皇太子の妹だって言うのは知らなそうだね」


「え!?」




 高円寺のその言葉に私は驚いて藤之宮を見ると、藤之宮は不機嫌そうに目を細めそっぽを向いてしまった。




・・・ああだから入学式で、あんなに厳重な警備されていたのか。




 先程の入学式での様子を思い出し、私は一人納得したのだ。




「あれ?でもあんなに沢山のSPの人がいるのに、何で高円寺さんが護衛役を?」


「まあ初めて登校する入学式は仕方がないとしても、毎日あんなに大勢のSPがいたら他の生徒に迷惑だろ?だから従兄弟でありここの卒業生でもある私に、麗香の護衛兼相談役を頼まれたんだ。一応腕には覚えがあるからね」




 そう言って高円寺が私にウインクしてきた。


 そこで私は、去年の修学旅行の時に見た高円寺の強さを思い出し色々納得したのだ。




「私には必要無いと言いましたのに!」


「そう言う訳にはいかないよ。これは麗香のお父上と兄上から、どうしてもと頼まれた事だからさ」


「お父様もお兄様も過保護過ぎなのですわ!」


「仕方がないよ。あの二人は麗香を、目に入れても痛くない程溺愛してるからね」


「それが私には迷惑なんです!!」


「まあまあ、なんとか普段のSP護衛だけでも免除して貰えたんだから、あまりここでごねるとまたその話が戻ってくるよ?」


「・・・・」




 藤之宮は眉間に皺を寄せ、唇を噛んで黙り込む。


 私はそんな藤之宮を見て、なんだか色々大変そうだと同情したのだった。




「詩音さんごめんね。こんな性格の麗香だけど、良かったら仲良くして上げて欲しいんだ」


「あ、私は全然良いですよ!藤之宮さん、良かったら私と友達になって下さい!」




 私はそう言ってニッコリと微笑み、藤之宮に手を差し出して握手を求める。


 しかし藤之宮は、私を見つめたまま若干目を見開き固まってしまう。


 そしてよく見ると、ほんのり頬が赤いように見えた。




「・・・藤之宮さん?」


「・・・っ!お、お友達になって上げても、よ、よろしくてよ!」




 そう言って藤之宮は、ぎこちなく手を伸ばし私の手を握ってきたのだ。


 その様子がなんだか可愛いと思えてきて、私はすっかり藤之宮の事が気に入ってしまった。


 そして私の横にいる高円寺も、そんな私達を微笑ましく見ていたのだ。


 そうして私と藤之宮が握手を終え、お互い手を離した所で遠くの方から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。




「ん?あの声は・・・ああ、響~!私はここにいるよ~!!」


「・・・あ!ここにいたんだ!急にいなくなるから探したよ~!!」




 響は呆れた表情でそう言いながら、私達の下に駆け足で近付いてきたのだ。




「・・・え?同じ顔?」




 すると私の後でそう戸惑った声が聞こえ、私は後ろを振り向くと、藤之宮が若干驚いた表情で近付いてくる響をじっと見つめていた。




「えっと・・・私達双子なんです」


「双子・・・聞いた事はあったけど、本物を見るのは初めてだわ」


「ふふこの双子、見た目はそっくりだけど性格は随分違うから面白いよ」


「高円寺さん・・・それはどう意味ですか?」




 高円寺が含み笑いを溢しながら藤之宮に言ったので、私はジロリと高円寺を睨み付ける。




「ごめんごめん、悪い意味では無いからさ。一緒にいて楽しいと言う意味だよ」




 そう苦笑する高円寺をさらに睨み付けている間に、響が私達の下に到着したのだ。




「詩音、いくら愛しい高円寺先輩に会いたかったからって、僕にまで黙って行くのは止めてね」


「い、愛しいって!!」


「詩音さん、嬉しいな~」




 響の言葉に動揺していると、高円寺が楽しそうに私の肩をさらに強く抱きしめてくる。


 私はその行動に動悸を激しくし、高円寺の腕の中で狼狽していた。




「・・・こんな雅也、初めて見たわ」


「ん?・・・あ!今年の新一年生の美少女ちゃんだ!」


「っ!び、美少女ちゃん!?」




 珍しいものでも見るような目で、高円寺を見ていた藤之宮に気が付いた響がいきなりそんな事を言い出し、それを聞いた藤之宮がぎょっとした目で響を見る。




「うん!やっぱり近くで見ても美少女だ!可愛い!!」




 そう言って響は藤之宮を繁々と見るが、見られている藤之宮は段々目が細まり少しあった表情が完全に無くなってしまった。




「・・・どうせそれもお世辞でしょ?私に取り入ろうとしてそう言ってるんでしょうが、私は騙されないわよ!」


「え?可愛い人を可愛いと言ってるだけだよ?それが何で君を騙すと思ってるの?僕は素直に、君の事が可愛いと思ってるだけだよ?」


「なっ!」


「そもそも僕、君の事全く知らないんだけど?だって、今日初めて君を見たんだよ。そう言えば・・・入学式で誰かが君の事、皇族とか言ってたような・・・でもそれがどうかしたの?君は君でしょ?」


「っ!!」




 響が不思議そうな顔で藤之宮に言うと、藤之宮は明らかに動揺した目で響の顔を見つめる。


 そしてゆっくりと私の方に顔を向けてきたので、私は苦笑しながら藤之宮に頷いて見せた。




「多分、言ってる事は本心だと思う。長年一緒にいた双子の私が言うんだもん、本当だよ」




 そう私が言うと、藤之宮は再びゆっくりと響の方に顔を向ける。




「そう言えば、君の名前教えて貰えるかな?誰かが言ってたけど、よく聞いていなかったからさ。あ、先に僕が名前名乗らないとね。僕の名前は早崎 響。この隣にいる早崎 詩音の双子の兄だよ」


「・・・・・・藤之宮 麗香ですわ」


「藤之宮 麗香・・・うん!良い名前だね!!」


「っ!!」




 響が藤之宮の名前を口の中で言った後、とても良い笑顔で名前を誉めると、それを受けた藤之宮が今までで一番大きく目を開き驚きの表情を見せる。


 そしてその頬は、明らかに赤く染まっていた。




「ねぇ君の事、麗香ちゃんって呼んで良い?」


「れ、麗香・・・ちゃん!?」


「うん!・・・駄目かな?」


「・・・っ!そ、そんなに言うなら、特別に認めて差し上げてもよろしくてよ!!」


「わぁ!ありがとう!!」


「っっ!!!」




 響は嬉しそうに喜び、藤之宮の手を両手で握ったのだ。


 すると握られた方の藤之宮は、完全に固まってしまった。しかしすぐ我に返り、急いでその握られた手を振り解く。




「わ、私はもうこれで失礼させて頂くわ!!」




 そう言って藤之宮はクルリと踵を返し、早足で歩いて行ってしまった。




「・・・ふふ、あんな麗香初めて見たな~。これはこれから面白くなりそうだ」


「高円寺さん?」


「雅也!何してるの!行くわよ!!」


「ああ分かった。今行くよ」




 だいぶ遠くまで歩いて行った藤之宮が、怒り気味に高円寺を呼ぶと、その高円寺は藤之宮を少し楽しそうに見ながら答える。




「それじゃ私は行くよ。詩音さんまたね」


「・・・っ!」




 高円寺は笑顔で辞する言葉を言うと、素早く私の頬にキスをし颯爽と去って行ってしまった。


 私はそのキスされた頬を手で押さえながら、顔がゆでダコになっているんじゃないかと思うほど熱くなりながら、呆然と去っていく高円寺の後ろ姿を見送ったのだ。




「詩音、良かったね」


「響・・・」


「それにしても、麗香ちゃんか・・・色んな意味で新鮮で可愛いね」


「・・・響?」




 ニコニコしながら藤之宮を見続けている響を見て、私は珍しく響が一人の女の子に対して興味を示している事に驚いていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る