初対面?
なんとか我に返ってくれた先生が、兄が近くにいた方が安心するだろうと言う配慮で、カルの隣の空いてる席を指定してくれたのだ。
そうして私は漸く席に着くことが出来、席に着いた私は三人に色んな意味を込めて「これからよろしくね!」と声を掛けたのだった。
ちなみに響が私と入れ替わった後、無事クラスに溶け込めたかどうかは、実家にいる時に三浦からメールと電話で報告を受けていたのだ。
その三浦の報告では、あの響と入れ替わった日の響の髪型が、襟足が少し長めのショートだった為、次の日登校した時は学園中が突然のイメチェンにざわついたらしい。
さらにイメチェンしたと思われたお陰で、女の私から男の響に替わっても、少し男らしさが増したと思われたぐらいで、特に問題無く学園に溶け込む事が出来たとか。
後は常にカルか三浦が側に付いていて、響が初めて会う人が現れるとこそっと響に相手の情報を教え、フォローしてくれていたようなのだ。
本当に二人には、感謝してもしきれないよ!!
そう心から思い、メールや電話で何度も感謝の言葉を伝えたのだった。
そんな事もあり、私に対してもクラスの皆は特に何の疑いも持たず、すんなり響の妹として受け入れてくれたのだ。
そうしていくつか授業を受け終わり、休憩時間に入って何度目かのクラスメイトに取り囲まれるこの状況に、段々諦めかけていたその時、教室の入口から沢山の黄色い声が響いてくる。
・・・やっぱり来た!!
そう思い、私は早鐘を打ち始めた心臓を落ち着かせる為、誰にも気が付かれ無いよう密かに深呼吸を繰り返す。
するとその間に、いつの間にかカルが私の後ろに立ち、響と三浦が並んで私の横に立っていたのだ。
私はその三人が側に来てくれた事で少し落着きを取り戻し、一体何が起こったのか分からない振りをしつつ、不思議そうな表情をする事にしたのだった。
そうこうしている内に、私を取り囲んでいたクラスメイト達がさっと波が引くように離れていき、私の正面の視界が開ける。
するとそこには、予想していた通り高円寺達四人が揃って立っていたのだ。
私は中心に立っていた高円寺と目が合った瞬間、心臓が大きく跳ね胸が痛くなるほど動悸が激しくなったのだが、どうしても高円寺から視線を外す事が出来なかった。
だがどうも高円寺の方も様子がおかしいようで、私から視線を外す事無く驚いた表情のままじっと私を見つめてきていたのだ。
「詩音?」
「雅也?」
暫し二人で見つめ合うような状態になっていたのだが、カルと桐林がそれぞれに声を掛けてくれたお陰で、漸く私達は不思議な硬直状態から抜け出す事が出来たのだった。
私は自分の行動に困惑しながら、まだ早鐘を打つ心臓を抑えようと胸に手を置いていると、斜め上から何か視線を感じそちらに視線を向ける。
すると響がニヤニヤしながら私を見下ろしており、私はその表情を見て思わずムッとなり皆に分からないよう、机の下から響の足をぎゅっとつねったのだ。
しかしさすがは響なだけあって、全く痛がる素振りは見せなかったのだが、よくよく見ると口の端しと眉がピクピク動いているのが見えたので、どうやらやせ我慢しているようだった。
「・・・え~と、高円寺先輩方、お揃いでどうしてここに?」
響は何事も無かったかのように話し出すと、何故か同じように胸を押さえていた高円寺がハッとした表情になり、すぐに胸から手を離すと、心配そうに高円寺を見ていた他の三人に苦笑した顔を向け、そして再びこちらを向く頃にはいつもの笑顔を浮かべていたのだ。
「今日から、早崎君の妹さんが復学すると聞いてね。それは是非とも挨拶したいと思って、我々四人で来てみたんだ」
「なるほど。では、さっそく紹介しますね・・・詩音」
「あ、はい!」
私は響に促され、急いで椅子から立ち上り響の隣に立つ。
「僕の妹の詩音です。それでこちらが高円寺先輩、豊先輩、健司先輩、誠先輩だよ。さあ詩音、先輩方にご挨拶して」
「はい!え~と、私は響の双子の妹で早崎 詩音と申します。先輩方のお話はよく響から聞いていたので、一度お会いしたいと思っていました。それから、去年と今年の誕生日に響だけでは無く私にまで沢山のプレゼントを贈って頂き、本当にありがとうございます。どれも大切に致しますね。これから響共々、どうぞよろしくお願い致します」
そう言って私は四人に、深々とお辞儀をしたのだった。
「詩音ちゃ~ん!そんなお辞儀なんて良いよ~!ほらもう顔上げて~!」
「・・・誠先輩」
「え?僕の事、名前で呼んでくれるんだ~!」
「あっ!」
しまった!ついつい長い間の癖で名前で呼んじゃた!!
私はそう思い内心で酷く焦る。
「ご、ごめんなさい!響がいつも先輩方をそう呼んでいたので、いつの間にか私もそう呼ぶようになってしまっていたんです。すみません!以後気を付けますね!」
「ううん、良いよ~!そのまま名前で呼んで~!」
「俺も早崎君と同じように、名前で呼んで良いからな」
「・・・豊先輩」
「俺も俺も!」
「・・・健司先輩」
「ではその流れで、私も名前で呼んでくれて構わないよ?」
「・・・・・・高円寺先輩」
「・・・何故?」
「ごめんなさい」
高円寺の希望通りに名前を呼ぼうとしたのだが、頭の中で名前を呼んでいる自分を想像し、何故か凄く恥ずかしくなってしまったので、どうしても高円寺を名前で呼ぶ事が出来なかったのだ。
「それにしても・・・本当に詩音ちゃんて、響君と顔そっくりだよね~!」
「確かに、髪型を揃えて同じ服装をすれば、見分けつかないかもな」
「おいおい、そんな事言ったるなよ。詩音さんは背中まであるロングのサラサラストレートがよく似合う、可愛い女の子なんだからさ」
「・・・本当に綺麗な髪をしているね」
「・・・っ!あ、ありがとうございます・・・」
榊原と桐林の言葉には、正直ちょっとドキッとし一瞬冷や汗をかいたが、藤堂の言葉にホッとしそして高円寺の頬笑みと共に言われた言葉に、心臓がドキドキして頬が熱くなりちょっと俯き加減の小さな声でお礼を言ったのだった。
「そう言えば、詩音さんは体調を崩されて休学されていたと聞いていたけど、復学されたと言う事はもう体の具合は?」
「あ、はい。もうすっかり良くなりました。本当は大分前から医師に完全に完治しているとお墨付きを頂いていたのですが、心配性のお父様がなかなか復学を許可してくれなかったので、こんな時期まで掛かってしまったんです」
「なるほど。確かにあのお父様なら、なかなか許してくれそうに無いものな」
少し心配そうに聞いてきた桐林に、私は予め体の事を聞かれると想定して決めていた言い訳を、少し困った表情で言うと、それを信じてくれた桐林が頷きながら納得してくれたのだ。
「それじゃ、そろそろ休憩時間も終わりそうだから我々は戻るけど、何か困った事があったら遠慮無く頼ってくれて良いからね」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って私はもう一度頭を下げると、四人はそんな私に苦笑しつつ教室を出ていってくれたのだった。
「・・・はぁ~緊張した~!」
私はそう言いながら、再び席に着いて机に顔を乗せる。
「お疲れ~・・・とりあえず、第一難問は突破出来たね」
「まあね。なんとかなって本当に良かった」
もうすぐ授業が始まるので、他のクラスメイトは自分の席に戻って行き、三浦が椅子ごと私に近付いてきて小声で話し掛けてきたので、私もそれに小声で返す。
「とりあえずこのまま何事も無く、無事に残りの学生生活送れるように頑張るよ」
「僕も、微力ながら手助けするね」
「三浦君ありがとう!!」
「大丈夫!詩音はオレが守るから安心して良いよ」
「・・・ありがとう、カル」
「・・・ちょっと、ハプニングあると面白いんだけどな~」
「黙れ!響!」
二人の優しさに感動していた私は、響の言葉に目を据わらせギロリと響を睨み付けたのだった。
そうしてその日の授業が全て終わり、放課後のHRの時間となる。
「今日は、学園祭でやる劇の細かい話し合いを行う」
そう言ってこのクラスの委員長である男子が教壇に立ち、後で副委員長の女子が黒板に綺麗な字で『学園祭の出し物である劇について』と書いていた。
ああそう言えば、そろそろ学園祭の時期だったね。入れ替わりでバタバタしてて、すっかり忘れていたよ。しかし・・・今年は劇をするんだ~。そして主役が・・・響なんだ!それもまた王子様役で!?・・・学園祭前に、響と入れ替われて本当に良かった~!!
黒板に書かれた配役を見て、心の底からホッとしたのだ。
とりあえず一通り配役は決まっているようなので、私は裏方でもさせて貰おうかと思いながらボーと進行を眺めていると、突然一人の男子が手を上げた。
「委員長!ちょっと劇の内容について、意見したいんだけど良いかな?」
「良いよ。何かな?」
「え~と、せっかく早崎の妹さん・・・詩音さんが学園祭に初参加されるんだから、どうせなら劇に出演して貰うのはどうだろう?」
「・・・えっ?」
「それも、出来ればお姫様役で」
「えええ!?」
その男子の発言に、私は驚きの声を上げる。そしてそれを聞いた他の生徒達もそれぞれ顔を見合わせざわつき出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!私がお姫様役なんて困ります!!それに、すでに決まっているお姫様役の子にも失礼ですよ!!そして同じ顔のカップリングって、話し的におかしいと思います!!」
私は椅子から勢いよく立ち上り、必死に否定したのだ。
「・・・では、兄妹のカップリングでは無く、ダブルカップリングであれば、お姫様役やって頂けますか?」
「え?」
突然一人の女子が立ち上り、掛けていた眼鏡を手でクッと上げながらそう言って私を見てきた。
その女子は神崎 美奈代と言って、ショートボブの髪型に厚手の眼鏡を掛けていて、いつも一人静かに本を読んでいる人だったのだ。
だからいきなりそんな発言をして立ち上がったので、私は驚きに目を瞠ってその神崎を見つめる。
するとその神崎は、私の視線を受け何故か頬を軽く染めると私から視線を外し、正面にいる委員長に顔を向けた。
「委員長、脚本は少し手直しすればなんとかなるので、詩音さんをお姫様役でお願いします」
「・・・分かった。脚本担当の君がそう言うのならそうしよう。・・・皆それで良いだろうか?」
そう委員長がクラスの皆を見回すと、私以外誰も反対意見が出なかったのだ。
私は助けを求めるように三浦へ顔を向けるが、私を見ていた三浦が困った表情で、これはさすがに無理だと言わんばかりに首を横に振ったのだった。
「と言う訳だから、すまないけど詩音さんには、お姫様役で劇に出て貰うよ」
「・・・そ、そんな~!」
「あ、それなら、その劇中で詩音に歌を歌って貰うのどうかな?」
「ちょっ!響!!」
「詩音の歌声、凄く綺麗なんですよ~!」
突然響がニコニコしながら手を上げ、さらなる爆弾を投下する。
「・・・脚本どうかな?」
「・・・いけます」
「よし!それで行こう!!」
「なっ!?」
委員長が神崎に確認を取り、その神崎から出来ると判断されてしまった為、それも勝手に追加されてしまった。
「・・・でしたら、響も歌わせて下さい」
「僕?べつに良いけど?でも、詩音ほど上手く歌えないから、それだけは了承しておいてね」
「・・・これはどう?」
「・・・大丈夫です。いけます」
「じゃあそれも追加で!二人共よろしく!」
「了解!」
「・・・・・・はい」
響も巻き込みあわよくば嫌がった響と一緒に、なんとか歌だけでも回避出来ないか画策したが、予想外に響が乗ってしまい脚本担当の神崎からも出来ると了承を得てしまったのだ。
結局もうこうなったらどうにもならないと諦め、ガックリとうなだれながら了承の返事をし、静かに席に着いたのだった。
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