学園祭で思わぬ再会
あの後、私の相手役を決める事となったのだが、その役にクラスの大多数の男子が立候補した為、これは決まるのに時間が掛かると予想された。
だが何故かカルがその役に立候補すると、ほとんどの男子は辞退し少し残っていた男子もクラスの女子に説得され、あっという間に私の相手役はカルに決まったのだ。
私としては相手役が、昔っからお互いを知っている幼馴染みのカルであれば、とても気が楽なので正直助かるのだが、何故皆一斉に辞退たのか不思議で仕方が無かった。
その疑問を三浦に聞くと、「体育祭の影響だよ」と苦笑交じりで答えられ、私は益々訳が分からなくなったのだ。
しかしこのクラスの皆の、学園祭に掛ける意気込みの強さに私は若干引きつつ、だけど去年もこれと同じ状態だった事を思い出し、私は三浦に小声で尋ねる。
「ねえねえ、今年の人気投票の優勝商品って何?」
「ああそれはね。確か・・・学生寮の最上階にある展望室で、貸し切りパーティが出来るって物らしいよ」
「ふぅ~ん。確かに面白そうだけど、そこまで皆が熱を上げて欲しい商品かな?」
「え~と・・・そこで出る料理は、学生寮のレストランでシェフを務めている人達が、腕によりをかけて作ってくれる特別料理だとか」
「おお!!」
学生寮のレストランって、どれも凄く美味しい料理を出してくれるから私大好きなんだよね!!そしてその人達が作ってくれる特別料理・・・かなり魅力!!!
まだ優勝した訳でも無いのに、今からどんな料理が出るのか楽しみになりついつい顔がにやけてしまう。
そんな私を呆れた表情で三浦が見てくるが、何か思い出したのかさらに言葉を続けてきた。
「そうそう、確かにその料理も十分魅力的ではあるけど、多分皆がここまで熱を上げているのは・・・そのパーティで高円寺先輩方四人が、接待役をしてくれる事になっているんだ」
「・・・え?」
「なんか、卒業前の思い出作りのつもりで引き受けたらしいよ」
「そ、そうなんだ・・・」
なるほど、この異様な熱気はそのせいか。まあ女子は、そんな近くで話せるチャンスなかなか無いからだろうし、男子も憧れていたり、この機会にお近づきになりたいと考えている人が多いんだろうな~。・・・ただ正直、私的には全く魅力を感じないんだよね~まあでも、特別料理は食べたいから頑張るけど!!
そう心の中で決意していると、何故だか三浦が苦笑気味に私を見てくる。
「・・・相変わらず、花より団子だね」
「え?三浦君何か言った?」
「ううん。何でもないよ」
そう言って、三浦は私に微笑んで来たのだった。
そうこうしている内に、この日は追加の配役決めと細かい部分の話し合いでHRの時間は終わったのだ。
しかし皆が帰り支度をしていても、神崎だけは全く帰る様子を見せず、机に向かって何か必死に書いている。
私はその様子が気になり、チラリと書いている物を伺い見ると、どうも原稿用紙に何か文を書き綴っているようだった。
そこで私は、どうやらあれは劇の脚本を書いているんだと気付き、神崎を感心しながら何気に見ていると、さっきまで鬼気迫った表情で書いていたかと思ったら、急にニヤニヤし出し含笑いを溢したので、その姿に正直ちょっと引いてしまったのだ。
そんな私の様子に気が付いた三浦が、神崎と私を交互に見て一人納得した表情を私に向けてくる。
その三浦の話では、私が復学する前に劇の脚本を担当する事に決まった日から、ずっとあんな感じなんだそうだ。
そしてさらに三浦から話を聞くと、どうやら神崎の父親が世界的に有名な映画監督で、神崎自信も将来大物映画監督になるのが夢らしく、その為に沢山の本を読んだり時々脚本を書いたりしていたらしい。
そんな思いもあり、今回の脚本には相当力を入れているとか。
そうして次の日には、書き直した脚本と出演者用の台本まで作り上げてきたのだ。
そんな思いのこもった台本を手に、私達は学園祭の日までほぼ毎日劇の練習に明け暮れたのだった。
────学園祭当日。
劇の公演は午後からなので、私はカルと一緒に午前中の空いた時間に学園祭を見て回っている。
ちなみに響と三浦は、生徒会の仕事がある為今はいないのだ。
私は初めて学園祭を体験するカルと二人で、ワイワイ楽しみながら気楽に各クラスの出し物を見学していた。
本当に、学園祭前に響と入れ替われて良かった~!もし入れ替われていなかったら、今頃生徒会の仕事が忙しくて、こんな風に学園祭楽しめなかっただろうな~。
そう心の中で思いながら、学園祭のパンフレットを見てカルと次に何処へ行くか相談しつつ廊下を歩いていたのだ。
すると廊下の向こうから、響と三浦が二人揃ってこちらに歩いて来た。
「やあ、詩音とカル!学園祭楽しんでる?」
「うん!楽しんでるよ!・・・そっちは学園祭の見廻り?」
「そうだよ。この時間は僕と三浦君の担当なんだ」
「そうなんだ~」
そうして私達四人は、暫くそこで立ち止まり話をしていると、廊下の向こうからざわめきが聞こえてきたのだ。
私はそのざわつきが気になりそちらに目をやると、そこには沢山の生徒や学園祭を見に来たと思われる大人に囲まれながら、高円寺達が歩いてきていた。
その相変わらずの人気振りに私は呆れて見ていたが、よくよく見てみるとそこに藤堂の姿が無い事に気が付き、私は珍しいと思っていたのだ。
すると私達の存在に気が付いたらしい高円寺達は、周りにいる人達に何か断りを入れ、その集団から抜け出して私達の下にやって来た。
「やあ早崎君と三浦君、見廻り中かい?」
「はい、そうです」
「ああ、詩音さんも一緒にいるんだね。初めての学園祭はどう?」
「とても楽しいです!」
高円寺が響と三浦に声を掛け響がそれに応えると、次に高円寺は私に気が付き優しく声を掛けてくれたのだ。
「・・・オレも一応、学園祭初なんだけど?」
「ああそう言えば、カルロス君もそうだったね」
今気が付いたと言わんばかりのその高円寺の言い方に、カルはムッとしてとても不機嫌そうな顔になってしまった。
・・・相変わらず仲悪いな~。
そんな二人の様子に呆れていると、榊原が私に笑顔で近付いてくる。
「ねえねえ、詩音ちゃ~ん!良かったら僕達と一緒に学園祭見て回らない?」
「え?」
「そうだな、まだ来たばかりでこの学園にも慣れていないだろうし、良かったら俺が色々案内するぞ?」
「それは良いね。詩音さんどうかな?」
「い、いや、それは・・・」
榊原の提案に桐林と高円寺が乗ってきてしまったので、私はどうしたものかと言葉に詰まってしまう。
正直高円寺達と一緒にいると、なんだか墓穴を掘りそうで嫌な予感がするので、出来る事ならあまり一緒にいたくないのだ。
私はどう断ろうかと困っていたら、突然カルが私の手を掴んで引っ張ってきた。
一体何が起こったのか分からない内に、私の背中がカルの胸に当たり両肩に大きな手ががっしりと置かれる。そして、私の頭の上にカルが顔を乗せてきたのだ。
「カ、カル?」
「・・・先輩方、詩音はオレと学園祭を見て回っているので、邪魔しないで下さい」
「「「・・・・」」」
そのカルの言葉に、高円寺達三人は眉間に皺を寄せとても不機嫌そうな顔になる。
どうも頭上で見えない火花が散っているようで、正直この場から抜け出したくなってきた。
チラリと視線だけ響に向けると、響は面白そうにニヤニヤとこちらを見てるし、隣の三浦は困った表情でオロオロしていたのだ。
なんでこんな事に・・・そもそもこの状況ってどう言う事?確かに前にも何度かこんな状況になった事あったけど、それは全て私が響だった時にあった事で、詩音に戻った私がそれと同じ立場になるっておかしくない?本来ここには私では無く響でしょう!?
その全く訳の分からないこの状況に、私は激しく困惑していたのだった。
「・・・いたいた!お~い!早崎~!」
この険悪な雰囲気を打ち破るように、聞き慣れた藤堂の声が廊下の向こうから聞こえてきたのだ。
その声に、私達は一斉に藤堂の方に視線を向ける。
すると廊下の向こうから、何故か少し困った表情の藤堂が、手を振ってこちらに向かって歩いて来ている姿が確認出来たのだ。
しかし私は、藤堂の後ろに誰か背の高い人が付いてきている事に気が付き、目を凝らしてその人物を確認する。
そして次の瞬間、私は目を大きく開けて驚愕の表情になった。
あ、あの人は!!
私はその人物を確認すると、すぐさまカルの胸の中から抜け出し、そっと響の隣にまで移動するとこそっと響に耳打ちする。
「響・・・藤堂先輩の後にいる人は、皇 隆哉って言って・・・」
「ああ、あの全国剣道大会の決勝で、詩音が瞬殺で打ち負かした他校の大将か」
「瞬殺って・・・まあ良いや。あの人、どうも決勝で破れたの根に持ってるみたいだったから、多分今回響に絡んでくると思うけど・・・気を付けてね」
「・・・は~い」
響の全く緊張感の無い返事に呆れながらも、コソコソ話していたお陰で誰にも私達の会話は聞かれていないのを確認し、私は皇に見付からないよう再びカルの下に戻り身を隠したのだ。
「よう!早崎探してたんだ。・・・こいつが、どうしても早崎に会わせろとうるさくてさ」
「藤堂・・・うるさいとはなんだ。・・・早崎 響久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「・・・少し、雰囲気変わったか?」
「ああ多分、髪をバッサリ切ったからそれで変わったように見えるんですよ」
「・・・なるほど」
「それで皇さんは、僕に何のご用事ですか?」
「それは・・・早崎 響、お前にもう一度試合を申し込む!」
やっぱりそうきたかーーーー!!!
響に指差しながら、真剣な表情できっぱりと言い放つ皇をカルの影から覗き見て、私は心の中で唸ったのだった。
しかしそう言い放たれた方の響は、何故か思案顔になりすぐにニヤリと何か思い付いた顔になって、チラリと私に視線を向けてくる。
私はその表情を見て、とても嫌な予感を感じたのだ。
「皇さん・・・その試合、勿論僕が相手をしても構わないのですが・・・良かったら、僕の妹と対戦してみませんか?」
「・・・何?」
「えええ!!!」
ニッコリと笑顔で言う響の発言に、皇の訝しがる声と私の驚きの声が被ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます