新たなる始まり
漸く二人は離れ、カルはソファに響は再びベッドの縁に座り、私は椅子に座ってとりあえずカルに状況説明をした。
「・・・なるほど。分かった、オレが入れ替わった響のサポートをすれば良いんだろ?」
「うん。カル、よろしく頼むな!」
「任せておけ!だから安心して、詩音は元に戻って良いからな」
「うん・・・ありがとう・・・」
カルと響が笑顔で握手し合い、そしてカルはそのまま私に向かって声を掛けてきたが、私はそれに対し元気無く応えたのだ。
「・・・詩音、どうかしたの?」
「・・・ねえ、協力者ってあと一人増やしたら駄目かな?」
「え?」
私の元気の無さに、不思議そうにしていた響が驚きの声を上げる。
「・・・出来れば、本当の事言いたい人がいるの。その人とは一年生の時からずっと一緒で、困った時とか色々助けて貰ったり他愛ないおしゃべりをしてたりした仲で、この学園に来て初めて出来た友達だからさ・・・」
「ああ、三浦君か」
「うん。カルも三浦君とすぐ仲良くなってたから分かると思うけど、三浦君ならきっと秘密を守ってくれるし色々サポートしてくれると思うの・・・」
「そうだな。オレも、三浦君なら良いと思うけど?」
「響・・・どうかな?」
「・・・僕も良いと思うよ。まだ会った事無いけど、詩音の話を聞いた限りでは信用出来る人だと思うからさ」
「本当!?二人共ありがとう!!じゃあ早速三浦君にメールするよ!確かこの時間は、いつも勉強しててまだ起きてるって言ってたはずだから」
そうして私は自分の携帯を手に取り、すぐに三浦へ『話したい事があるから、今僕の部屋に来て欲しい。』とメールすると、すぐに返信が来て『分かった。今から行くよ。』と返事があった。
そして程なくしてから、ドアをノックする音と三浦の声が聞こえてきたので、私は急いでドアを開け三浦を部屋の中に迎え入れたのだ。
「・・・えっ!?早崎君が二人いる!?」
そう驚きの声と共に、三浦は私と響を交互に見て驚愕に目を見開いていた。
「え~と・・・とりあえず説明するから、そこの椅子に座って」
私はそう言って、さっきまで私が座っていた椅子を勧め、私はベッドの縁に座っている響の隣に座る事にしたのだ。
三浦は呆然としながらも促されるまま椅子に座ってくれ、それを見届けた私は三浦に全てを話し始めたのだった。
「そ、そうだったんだ・・・僕が今まで一緒にいたのは、妹さんの詩音さんだったんだね」
「うん・・・ずっと男と偽って騙しててごめんなさい!」
「いやいや、そんな謝らなくて良いよ!詩音さんの事情は大体分かったし、むしろこんな長い期間男の振りしてて大変だっただろうなと思っただけで、べつに怒って無いからさ。だって・・・僕達友達だろ?だから頭上げてよ」
「っ!三浦君!!」
私が申し訳無い気持ち一杯で頭を下げると、三浦が慌ててそれを制してきたのだ。
そして三浦の言葉を聞いて、私は泣きそうになりながら顔を上げると、三浦は少し困ったような表情になりながら、私に笑顔を向けてくれたのだった。
・・・やっぱり三浦君が友達で良かった!!
そう心の中で感動し、目に溜まってた涙を手の甲で拭き取る。
「だけどこれで、今まで不思議だった事に合点がいったよ」
「不思議だった事?」
「うん。夏の暑い時期でも、肌を見せるのが嫌いだからと言って基本厚着してたり、例の温泉旅行や修学旅行でも頑として一人部屋にこだわったり・・・一緒にお風呂入るの断ってきた事だよ。まあ事情を知った今なら、その行動の意味が分かるから良いけどね」
「・・・ごめんね」
「ううん。むしろ無理にやらなくて、本当に良かったと思ってるぐらいだからさ」
そう言って三浦は苦笑を溢した。そしてすぐに真剣な表情になり、私の隣に座っている響に顔を向ける。
「それじゃ僕は、これからカルロス君と協力して本当の早崎君・・・響君をサポートすれば良いんだね?」
「うん。三浦君、大変だろうけどよろしくね!」
響はそう笑顔で言って、三浦に手を差し伸べる。すると三浦も笑顔でその手を握り、二人は握手を交わしたのだ。
そうしてその後四人で細かい打ち合わせを済ませ、私は手早くバックに荷物を詰め始める。
ある程度荷物を詰め終え、私は最後に机の引き出しに仕舞っていた、あのハンカチと袋に入れてあるネックレスを皆に気が付かれ無いようにそっとバックに仕舞ったのだ。
そして身支度を整え、いよいよこの部屋から出て行く事になったのだが、そこで私はある事を思い出しニコニコと笑顔を浮かべ、私をカル達と並んで見送っていた響に近付く。
「詩音?どうしたの?何か忘れも・・・うっ!!」
私は笑顔を顔に張り付かせたまま、拳を握った右手を素早く響の腹にねじ込むように打ち込んだのだ。
「よし!有言実行!!」
響に会えたら一発殴る事を決めていたので、それを今回実行したのだった。
「・・・ねぇカルロス君・・・詩音さんって、響君の振りをしていたって言ってたけど・・・あれ、もしかして素でやってたとか?」
「うん、そうだよ・・・」
「そうなんだ・・・」
私の拳を受け、呻き声を上げながら腹を押さえてその場にうずくまる響を見て、やっとスッキリした気持ちになっていた私は、カルと三浦がそんな事を呆れた表情になりながら、小声で話していた事など気が付いていなかったのだ。
そうして私は今度こそ三人に一時的な別れを告げ、お母様の手引きの元、闇夜に紛れ学園を後にし実家に戻って行ったのだった。
実家に戻った私は、すぐさまお母様に詰め寄り散々文句を言ったのだが、お母様は全く悪びれた様子を見せず、あののんびりとした微笑みで「ごめんね~」とだけ言われ、それを見た私はもうそれ以上何も言う気になれず脱力して諦めたのだ。
そしてお父様はと言うと、予想はしていたけど何も知らなかったそうで、突然響が家に帰って来て驚いている所にお母様から説明を受けさらに驚いていたらしく、帰ってきた私に何度も謝ってきたのだった。
そんな二人に呆れながらも、私は早速お父様にお願いして復学の手続きをして貰い、すぐに復学試験を受ける事となったのだ。
学園側から派遣された試験官立ち会いの元、確かに学園側から指定された勉強をしていないと、分からないであろうテスト内容だったが、一年と半年以上学園に通い授業を受けていた私としては、特に問題無くスラスラと答えを書く事が出来た。
そして全てのテストを終え、試験官がその答案用紙を学園に持ち帰り採点してくれ、数日後合否の通知が送られてきたのだ。
恐る恐る中身を確認すると、『合格』と言う文字が書かれていたので私は喜びその紙を胸に抱き抱いたのだった。
そうしてすぐに学園へ復学する為の準備を整え、名残惜しそうにしているお父様や、色々頑張ってと何か含みのある言い方をしてくるお母様に見送られ、再び学園に戻って行ったのだ。
────教室入口前の廊下側。
私はドキドキと緊張しながら、じっと目の前の扉を見つめている。
学園に戻った私は、今度はちゃんと女子の方に用意されていた学生寮の自室で荷解きを済ませ、次の日の朝早くにやっと着る事が出来た女子の制服に身を包み、担任の先生に挨拶をしに行った。
ただ私を担任してくれる先生は、つい最近まで響として学園に通っていた時の担任の先生だったのだ。
どうも学園側が気を使って、響がいるクラスに入れてくれたようなのだが、私はずっと会っていた先生に気が付かれるのではと、密かにドキドキしていたのだった。
だが私の顔を見た先生は、本当に響とそっくりだった事に驚いたぐらいで特に気付かれる事は無かったのだ。
そうして私は先生の案内の元、つい最近までずっと通っていたかつての教室の前で待機し、先生に呼ばれるまで緊張しながら廊下に立っていたのだった。
大丈夫!大丈夫!私は詩音!響じゃない!本来の姿に戻ったんだから!!
私は心の中で、何度も自分に言い聞かせていたのだ。
「・・・入って来なさい」
そう中から先生の声が聞こえてきたので、私は動悸を落ち着かせる為大きく深呼吸をした後、意を決してゆっくりと扉を開き教室の中に足を踏み入れたのだった。
私が教室に入ると、廊下まで聞こえてきていたざわつきが急に静まり返ってしまい、その様子に何か私の格好が変なのかと不安に思いながら先生の隣に立って、皆のいる方に体を向ける。
そしてよくよく皆の顔を見ると、皆驚いた表情で固まってしまっていたのだ。
「それじゃ、自己紹介をしなさい」
「あ、はい。え~と、ぼ・・・私は早崎 詩音と言います」
いかんいかん!つい今までの癖で『僕』と言いそうになった!
私は内心焦りつつ、それを表情に出さないように自己紹介を続ける。
「皆さんも見て分かられてる通り、早崎 響と双子の兄妹で妹です。今までずっと体調を崩し休学していましたが、漸く全快しましたので本日から復学する事が出来ました。ちなみにもう体は全く問題ありませんので、私の体の事はどうかお気になさらず普通に接して頂きたです」
そう言うと、皆ちょっと同情しているような目をしながら頷いてくれたのだ。
「・・・そう言えば俺ちょと聞いたんだけど、最近あった復学試験で満点を取った才女がいたって・・・」
クラスのある男子が、ボソッとそんな事を呟いたかと思うと、一斉に皆の目が驚きと尊敬と畏怖の目で私を見てざわつき出したのだった。
・・・た、確かに、試験に落ちたくなくて全力でテスト受けたけどさ・・・まあ、合格通知と一緒に入っていたテスト結果の紙に、全教科オール満点と書かれていたのを見た時には・・・さすがにちょっとやり過ぎたかなと思っていたけど、まさか知られているとは思わなかったよ・・・。
そう思い頬を引きつらせながら、さっさと自己紹介を終わらす事にしたのだ。
「そ、それでは皆さん、もう残り二年生の時期は短いですが、どうぞよろしくお願い致しますね」
そう言って、私は印象を良くしようと皆に向かってニッコリと微笑んで見せたのだった。
その瞬間、また再び教室内が静まり返ってしまったので、私はそれを不思議に思い教室内を見回すと、何故皆顔を赤らめて私を惚けた表情で見てくる。
一体どうしたのだろう思っていると、目の端に何か動く物が映りそちらを見てみると、響が椅子に座りながらお腹を両腕で押さえ、俯きながら肩を小刻みに震えさせていたのだ。
そのどう見ても笑っている様子に私は響をジロリと睨み、次に後ろに座っているカルに目をやると、顔がうっすら赤くはなっていたがニコニコとしながら私を見ている。
そんなカルに呆れた表情を向けながら、次に響の隣に座っている三浦に目をやると、こちらも赤い顔をしながら私と響を交互に見てちょっと困った表情になっていた。
段々うんざりしてきた私は、もうとっとと席に着きたいと思いチラリとさっきから黙っている先生を見ると、先生も顔を真っ赤に染めながら私を驚きの表情で見つめていたのだ。
・・・あんたもかい!!!
私はそう心の中で叫び、ガックリとうなだれたのだった。
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