修学旅行先での出来事
「折角ここで出会えたのだし、どうだろう?このまま私達と一緒に街を回らないか?」
「え?先輩方、用事があってここに来たんですよね?そちらの用事は良いですか?」
「ああその心配は大丈夫だよ。それは皆、明日行く事になっているからさ。今日は一日早めに来て、私達で街を観光していたんだ」
「そうなんですか・・・」
「と言う訳で、一緒に回っても問題無いよね?」
「ま、まあ、べつに断る理由は無いので・・・」
「だ、そうだ。カルロス君よろしく」
「・・・・」
そう高円寺が勝ち誇った顔でカルを見ると、カルは益々不機嫌な顔になった。
・・・一体何でこんなに仲悪いんだ?
そんな二人の様子にただただ呆れていると、ふと視界の端にそっと離れて行こうとしている三浦の姿を発見したのだ。
私はすぐさま三浦の腕をガッチリ掴み、頬を引きつらせながら三浦ににじり寄る。
「三浦君~何処行くのかな~?」
「え?いや、あの~確か・・・日下部君達が、向こうの方の店に行ってる筈だから・・・僕もそこ行こうかな~と・・・」
「こんな状態の所に僕を置いて?・・・絶対今度こそ逃がさないからね~!!」
「・・・はい」
三浦は観念したのか、ガックリと肩を落としながら小さく了承の返事をしてくれたのだ。
一人だけ逃げるなんて許さないからね!正直私だって、この場から逃げたいんだから!!
そうして三浦と言う道連れを確保したまま、何故か修学旅行と関係の無い高円寺達四人も加わって、一緒に街を散策する事になったのだった。
ぞろぞろと私達が街を歩いていると、道行く人々が振り返り惚けた表情で私達を見ている事に気が付く。
「・・・ねえねえ三浦君、やっぱり先輩方やカルは容姿が良いから凄く注目浴びてるね」
「・・・そこに、早崎君も入ってるの気付いてる?」
「へっ?」
「・・・相変わらず無自覚だね。正直、この集団の中にいないといけない僕の身にもなって欲しいよ・・・」
そう言って三浦は、大きなため息を吐いたのだった。
そうして暫く歩いていると、前を歩いていた高円寺が歩きながら振り返り、歩を緩めて私の右隣にやって来る。
「そう言えば早崎君、君は体育祭の種目もう何に出るのか決まっているのかい?」
「あ、はい。二年生は皆修学旅行前に決めてあります。僕は今年、大玉転がしと大綱引きに出る予定です」
「あれ?早崎、今年は学年別リレー出ないのか?」
私と高円寺が話していると、藤堂が不思議そうな顔で話に入ってきたのだ。
「はい。僕は今年リレーには出ないですよ」
「そうなのか?去年の早崎の走りを見た他の奴等から、出て欲しいと言われなかったのか?」
「まあ・・・凄く言われました」
「確かにクラス中から言われてたけど、早崎君断固許否してたもんね」
私が苦笑しながら言い淀んでいると、同じく三浦もその時の事を思い出し苦笑しつつ藤堂にその時の事を教えた。
「それじゃ今年は、早崎のクラスからは誰がリレーに出るんだ?」
「女子は僕のクラスで一番足が早い子が出るんですが、男子は・・・」
そう言って、私はチラリと左隣を歩くカルを見上げる。
「そのリレー、オレが出るんですよ」
「え?カルロスが!?お前ヴァイオリンとか文化系の事しか出来ないイメージだったんだが・・・本当に運動出来るのか?」
「健司先輩。カルこう見えて、運動能力抜群にあるんですよ!」
「でも響程では無いけどね」
「・・・そうか。なら今年のリレーも、面白くなりそうだな」
「やっぱり健司先輩は、今年もリレー出られるんですか?」
「まだ決まってないけど、多分そうなるだろう」
「そっか・・・カル、健司先輩足早いから頑張ってね!」
「分かった。響の為に勝つよ」
「・・・なんか、絶対負けたく無い気分になった」
「健司!絶対勝ってね~!!」
「・・・負けるなよ」
カルが微笑みながら私に勝利を誓ってくると、藤堂、榊原、桐林が何故か再び不機嫌になってしまったのだ。
私はまたかと思い呆れながら、ふとすっかり黙り込んでしまった高円寺が気になり、チラリとその顔を伺うと真剣な表情で何か思案していたのだった。
そうして私達は暫く街を散策し、バスの集合時間が近付いてきてしまった為、高円寺達とそこで別れ急いで集合場所に戻っていったのだ。
そしてバスに乗り込み、今日の宿泊予定のホテルに到着する。
すると、先に降りてホテルのロビーに入っていた別のクラスの生徒が、ロビーの一角で大勢集り興奮した様子で騒いでいた。
私は何だろうと思いながら、さすがにこのままでは他の宿泊客に迷惑掛かると思い、一応生徒会長として注意する為その集団に近付いていく。
そしてその集団に近付き騒がないようにと注意すると、突然その人垣が割れそこからさっき別れたばかりの高円寺達が現れたのだ。
「ええ!?な、何でここにも先輩方がいるんですか!?」
「やあ早崎君。偶然私達の宿泊先が、早崎君達と一緒のホテルだったんだよ」
そう良い笑顔で高円寺が言ってきたが、私は絶対わざとだと確信し目を据わらせて頬を引きつらせたのだった。
そうして高円寺達と、同じホテルに泊まれる事に興奮する生徒達をなんとか宥め、それぞれの宿泊部屋に移動させたのだ。
そしてその夜、カルと約束した通り皆でトランプ大会を開催したのだが、何故かそこに高円寺達も混ざっていたのだった。
次の日ホテルの朝食ブッフェを堪能した私達は、再び観光バスに乗り込み次なる観光地を案内して貰う。
ちなみに高円寺達は、本当に言っていた用事をする為朝早くホテルを後にしていたのだ。
昼食を終えた私達は午後からの自由時間となった為、今度は日下部と駒井も誘い五人で街を散策する事にした。
暫く皆でわいわい言いながら街を回り、そして目についたお洒落な男性用の洋服店に入る事になったのだ。
店の中には、高級な服からカジュアルな服まで幅広く取り揃えてあって、三浦達は楽しそうに洋服を見て話している。
しかし女の身である私には、正直ここにある服はあまり興味が無かった。
確かに見てる分には良いが学園では殆ど制服姿だし、部屋ではラフな部屋着で、学園の休日はほぼ部屋から出てないので特に欲しいと思わなかったのである。
そして夏休み等は実家で女の子の姿に戻るから、必要最低限の男用の服さえあれば良いと思っているのであった。
そうして暫く、私は買うつもりは無い状態で服を見ていたのだが、一向に他の皆は服を見るのを止めなかったのだ。
それもいつの間にかカゴを持ち、そこには沢山の服が入っているのが見える。
・・・あ~これは暫く掛かりそうだな~。
そう心の中で思い苦笑を溢しながら、近くにいた三浦にちょと疲れたから外のベンチで休んでいると言付けし、その店から一人外に出たのだ。
そして店から、少しだけ離れた位置にあったベンチに腰掛けホッと一息吐く。
まあここなら、皆が店から出て来る所見えるし、逆に向こうも気付ける位置だから良いよね。しかし・・・女の子が洋服選ぶの時間掛かるのはよくあるけど、男の子も意外と時間かかるんだな~。
とりあえず暫く時間掛かりそうなので、私はボーと街行く人々を見て時間を潰していた。
するとそんな私に気が付いた一人の現地の若者が、ニコニコしながら私に近付いてくる。
『やあ!どうしたの?君一人?もし暇なら、良かったら一緒にお茶しない?』
「・・・・」
明らかにチャラチャラした風貌の若者が、現地の言葉で話し掛けてきたのだ。
あ~これ、もしかしなくてもナンパか?
そう思い呆れながら若者を見るが、若者は私の表情を気にする事無くさらに話し掛けてくる。
『あれ?もしかして俺の言葉分からないかな?』
『・・・いえ、分かります』
『おお!綺麗な発音だね!それにその服装から学生っぽいけど、修学旅行中の高校生?』
『・・・はい』
『やっぱりそうか!しかし、こんな所で一人でいるなんて、友達と一緒じゃ無いの?』
『・・・今、その友達を待ってる所です』
『その友達は何処にいるの?』
段々答えるのが面倒になり、私は視線を皆がいる店に向ける。
するとその若者は、その視線を追ってその店を見た。
『あれ~?あそこ、男性用の服しか置いてない店だよ?』
私はその若者の言葉を聞き、ある考えが頭を過って深くため息を吐いたのだ。
『あの~もしかして、僕の事女の子だと思ってます?』
『えっ?女の子だよね?』
『・・・違います。僕は男です』
『ええ!!凄く綺麗な顔をしてるから、てっきり女の子だと思ってたよ!』
『・・・僕、男の格好してますが?』
『いや~女の子も、そう言う格好をする学校だと思ってたよ』
『女の子は、ちゃんと女の子の制服着てます』
・・・なんか言ってて悲しくなってきた。女の子なのに、女の子の格好してない自分って・・・。
『そっか・・・男の子か・・・』
私が密かに落ち込んでいると、若者がじっと私を見ながらブツブツと言って一人考え込んでいた。
『まあとりあえず僕男なので、ナンパなら他の女の子を当たって下さい』
『いや実は俺、女の子も男の子も両方OKなんだ!』
『・・・はぁーーー!?』
『と言う訳で、俺とお茶しよう!』
予想外の答えに唖然としていると、若者はニヤニヤしながら私の手首を掴んで、無理矢理ベンチから立ち上がらされたのだ。
『え?あ!ちょっ!僕行くとは言ってないし、友達待ってるから行けないです!!』
『良いから良いから!ちょっと付き合ってくれれば良いからさ!』
そう言って若者は、私の手首を強く掴んだままズンズンと歩き出してしまった。
私は慌てて抵抗するが、チャラチャラした見た目に反して意外に力が強く、全然手を振り解く事が出来なかったのだ。
そうして私はその若者に連れられ、街中を歩く羽目になったのだが、ちょっとお茶と言っていた割りに全くカフェに入る様子も見せず、むしろどんどん人気が少ない方に歩いていった。
そしてとうとう人があまり居なくなった所で、さっと薄暗い路地に連れ込まれてしまったのだ。
こ、これは本格的にヤバイ!!!
そう本能的に危険を察知し、私は激しく抵抗する。
『ちょと!いい加減に離して下さい!!』
『・・・俺、抵抗されると益々興奮するんだ』
『へ、変態ーーーーー!!』
若者は私の抵抗する姿を面白がり、いやらしい顔付きでニヤリと笑ってきた。
私はその表情を見て、背筋がゾクリと震えたのだ。
そして若者は私をさらに路地の奥に連れ込み、壁際に私を追い詰めた。
私はなんとか逃げ出そうとしたが、空いていた方の手首も掴まれてしまい、そして両手を壁に押し付けられさらに若者が体を押し付けてきたので、身動きが取れなくなってしまったのだ。
そして間近に迫った若者が舌舐めずりしたのを見て、私は恐怖で思わず目をぎゅっとつむり顔を背ける。
だ、誰か助けてーーーーー!!
そう心の中で叫んだその時・・・。
『その汚い手を離せ!!』
突然そんな声が、この裏路地に響いたのだった。
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