波乱の修学旅行の幕開け

 なんとか全国剣道大会を三連覇する事が出来、そこで藤堂弟と仲良くなった私は、その勢いのまま藤堂弟に生徒会へ入って欲しいとお願いしてみた。


 すると藤堂弟は、満面の笑顔でそれを了承してくれたのだ。


 そうして今年の新一年生から、藤堂弟を含め四人が生徒会に入ってくれた事で、あっという間に生徒会室は賑やかになった。


 ちなみに、今年の一年生の生徒会メンバーも全員男だけである。


 一応女子にも優秀な人はいたのだが、何故か三浦を始め二年生の生徒会メンバー全員に反対されてしまった。


 それは女性差別だと思い、反対してきた皆に眉を顰めて抗議したが、むしろその女生徒を守る為だと言い返されてしまったのだ。


 私はその意味が分からず首を捻っていると、三浦が苦笑しながら私が生徒会にいるからだよと、さらによく分からない事を言ってきたのだった。


 まあ色々あったがなんとか最低限の人数が揃い、生徒会の仕事も楽になってきたのだが、何故か高円寺達四人はこの生徒会室に入り浸っているのだ。


 そしてカルも空いてる席が無くなってしまったのに、何処からか机と椅子を運んできて、私の席の近くで恒例であるヴァイオリンのお手入れをしている。


 その皆の様子に私はすっかり諦め、もう気にしない事に決めたのだった。


 ちなみに、あんなに名前を呼ばれて照れていた藤堂兄だが、その内呼ばれる事に慣れてしまったのか、もう名前を呼んでも照れなくなってしまったのだ。正直残念である。


 そうして一年生が増えても、結局何も代わらない日常を過ごし、藤堂兄の怪我が殆ど治りかけた頃に夏休みに突入した。






 私は実家に帰省し、鬱陶しい程に構ってくるお父様とひたすら学校で気になる人は出来たのかと聞いてくるお母様をかわしつつ、本来の女の子の姿に戻って夏休みを満喫していたのだ。


 そして夏休み中にあった誕生日当日、去年のように突然高円寺達が来るのではとビクビクしながら念のため男装していたのだが、結局午前中に沢山の誕生日プレゼントと共に、今年は皆実家の手伝いや仕事等で行けないとお詫びとお祝いの言葉が書かれたメッセージが贈られてきたのだった。


 ちなみにカルは夏休みに入る前、今年の夏休み中に国内でコンサートツアーがあって、誕生日当日お祝いに行けないと謝ってきていたのだ。


 しかし去年は高円寺達から沢山のプレゼントを貰ったが、今年はさらに多くのプレゼントを貰った。


 何故なら高円寺達やカル、三浦は勿論の事、去年の誕生日の頃にはまだ知り合っていなかった日下部や駒井、そして藤堂弟からのプレゼントも混じっていたからだ。


 そして皆、私(響)と詩音(私)の分、それぞれにプレゼントを用意してくれていた。




・・・これ、響用は私の為に用意してくれた物だし・・・詩音用も、やっぱり私の為に用意してくれた物だから・・・よし!全部私が貰う事にしよう!!




 そうしてホクホクとした表情で、沢山のプレゼントを眺めていたのだ。


 そしてその日の夜、突然響から誕生日おめでとうと言う文面と共に、沢山の女の子に囲まれて笑っている響の写真が携帯に送られてきた。


 私はその呑気そうな姿の写真を見た瞬間、思わず携帯を叩き割りそうになり、なんとか思い止まって急いで今何処にいるのかととっとと帰って来いと言う怒りのメールを返信したのだ。ただ一応文末に、誕生日おめでとうは入れておいた。


 しかし結局その後、響からの返信は無く当然電話も繋がらなかったので、とりあえず私はその写真が何か響の行方の手掛かりにならないかと思い、お父様の携帯に転送してお願いしておく事にしたのだ。


 それから残りの夏休みはさっさと宿題を終え、夏休み明けて少ししたらある修学旅行の準備をしながら過ごしたのだった。






 そうして夏休みも終わり再び学園に戻った私は、修学旅行に行くまでになるべく一年生の負担を減らす為、生徒会室でせっせと書類を処理していたのだ。


 するとそこに、ヴァイオリンの手入れを終えたカルが近付いてきた。




「ねえねえ響!今度の修学旅行の時、自由時間はオレと一緒に街回らない?実はその修学旅行の行き先、オレが世界ツアーで回った国の一つだから、ちょっとは案内出来ると思うよ?」


「へぇ~そうなんだ!勿論良いよ!・・・あ!それなら三浦君も一緒に回ろうよ!」


「え?ああうん良いよ!カルロス君よろしくね!」


「ああ、うん・・・本当は二人で回りたかったんだけど・・・」


「へっ?カル何か言った?」


「ううん何でもない。そうそう、折角一緒に泊まりでの旅行だし、昔みたいに夜遅くまで一緒に過ごそうよ」


「それ良いね!よし、三浦君や日下部君、勿論駒井君やクラスの皆とトランプとかして遊ぼう!!」


「・・・そう言う意味じゃ無いんだけどな・・・まあ、響が楽しそうだし、まあ良いか」




 そう言ってカルは苦笑を浮かべて私を見てきたが、私はそんなカルを不思議そうに見ていたのだ。


 そうして私は、仕事をしながらカルと修学旅行について色々話していたのだが、どうもカルが私と話ながらチラチラとある方向に顔を向け、その都度口角を少し上げ笑っている事に気付いていた。


 そしてその顔を向けてる先が、高円寺達が座っている方に向けられている事にも気付いていたのだ。


 私はチラリと高円寺達の様子を伺い見ると、四人共眉間に皺を寄せとても不機嫌な顔をしている。


 そのせいか高円寺達がいる辺りを、凄くピリピリとした雰囲気が漂っていたのだ。


 とりあえず仕事が一段落したので、この居心地の悪くなった生徒会室から逃げるように出ていったのだが、出ていく時に視界の端に映った高円寺達が、真剣な表情でヒソヒソと話し合っている様子が見えていたのだった。


 そうして修学旅行当日になり、私達二年生は学園から修学旅行先である海外に旅立って行ったのだ。






 長時間飛行機に乗り、漸く修学旅行先に着いた時には現地はすでに夜だった。


 私達は宿泊先のホテルで夕食を取った後、皆時差ぼけもあってすぐ部屋に戻り、その日はぐっすりと睡眠を取ったのだ。


 ちなみに修学旅行中の宿泊先は、全て一人部屋となっていたのである。


 そうして次の日ホテルの朝食を取った後、学園側が用意してくれた観光バスに乗り込み、バスガイドの案内で色々な観光名所を案内して貰った。


 そして昼飯を有名なレストランのブッフェで皆と食べた後、いよいよ午後から自由散策の時間となったのだ。


 予め私と三浦とカルの三人で回る事にしていたので、早速カルの案内で街を散策する事になった。




「あ!あそこのジェラート屋、地元で大人気の店なんだ。前に一度食べたけど、凄く美味しかったよ」


「おお!なら早速食べよう!」


「早崎君、さっきあんなに食べたのに・・・」


「甘い物は別腹だよ!それとも、三浦君は食べないの?」


「・・・食べる」


「よし!じゃあ行こう!」




 そうして私達三人は露天販売のジェラート屋に寄り、其々好きな味のジェラートを買って、食べながら街を見て回る事にしたのだ。


 暫く街中をウインドウショッピングしながら歩いていると、突然通りの向こうから沢山の黄色い声が聞こえてきた。


 私達はその声を不思議に思いその声がした方を見てみると、通りの向こうに黒山の人集りが出来ている事に気が付いたのだ。




「何だろう?もしかして、有名な芸能人でも来てるのかな?」


「もしかしたらそうかもね。それもあんなに沢山の女性に囲まれているんだから、きっと男の人かも」


「確かに、皆凄い興奮した様子だよね」




 私、三浦、カルの順にその人集りを眺めながら呟き、興味津々に見つめていた。


 すると突然その人垣が割れ、その間から四人の男の人達が現れたのだ。




「「「えっ!?」」」




 その現れた男の人達を見て、私達は驚きの声を上げながら驚愕の表情で固まってしまった。


 何故ならそこに現れたのは、今学園にいる筈の高円寺達四人だったからである。


 もしや見間違いかと思い、目を瞬かせて見てみたがやはりどう見てもその四人だった。


 そしてその四人は今制服ではなく私服を着ていて、皆顔が整っているので確かに四人揃えば、何処かの芸能人かモデルの集団に見えてしまうのだろう。


 私達が唖然としながら高円寺達を見ていると、当の高円寺達が私達に気付き、微笑みながらこちらに手を振って近付いてきたのだ。




「やあ早崎君達、こんな所で会うなんて奇遇だね」


「こ、高円寺先輩?ど、どうして先輩方がここに?」


「実は私の実家から、この国にいる親戚にちょっと会いに行って欲しいと言われてしまったんだ」


「そ、それでこの国に?・・・豊先輩方も?」


「いや俺は、この国に俺の会社の支店があってその視察をしに来たんだ」


「・・・誠先輩は?」


「僕?僕は勿論モデルの仕事で来たんだよ~!」


「・・・・・健司先輩」


「あ~俺は、昔から実家と付き合いがある家族がここにいてな、そこの家族から剣道を教えて欲しいと頼まれたんだ」


「・・・・」




 正直その理由を聞いて、それは学校があるこの時期じゃ無くても良いんじゃ無いか?と思ったのだった。


 榊原も、いつもは長期休みの時にしかモデルの仕事やっていなかったのに、今回に限りわざわざ学校を休んでまで仕事を入れたのはおかしいと思ったのだ。


 そして一番おかしいのは、四人共同じ時期に同じ場所に揃っている事である。


 私はその明らかにおかしな理由に、頬を引きつらせ呆れた表情を高円寺達に向けたのだった。


 しかしその高円寺達は何故か皆ニヤリと笑い、私の横に立っているカルを見ている。


 私はそれを不機嫌に思いカルの方を見てみると、さっきまであんなに楽しそうな笑顔だったのに、今は眉間に皺を寄せてとても不機嫌そうな顔で高円寺達を睨んでいたのだ。




「・・・まさかそう来るとは」




 不機嫌なままそうカルが呟くと、その呟きを聞いた高円寺達がさらにニヤリと笑ったのだった。

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