復活
朝。晴れ渡る空を見ながら、単衣はランニングをしていた。もうすっかり体力は回復していた。
舗装された道路沿いを走る。左右には沢山の木々が生い茂っていた。走っていると風に乗って木々の香りを感じた。
やがて一軒のコテージが見えてきた。木製で一階建てのそれは、柵で敷地を囲っており、その周りがさらに木々で囲まれていた。
単衣は木製の玄関を開ける。
「あ、おかえり」
シリエルが駆け寄ってきた。
「ただいま」
単衣が言った。
「汗凄いね。はい、タオル」
そう言うシリエルは、しかしタオルを差し出す訳ではなかった。
「ちょっ、いいって。汚いから自分で拭くよ」
「あはは。汚くないって」
シリエルは単衣の胸に顔を埋める。
「すぅー」
そして思い切り匂いを嗅いだ。
「良い匂いだよ」
「ちょっとシリエル!」
かなり際どい行為に、単衣はたじたじだった。
「ほら、大人しく拭かれなさい!」
「わかったよ」
大人しく拭かれる単衣。
「うーん、やっぱりシャワー浴びちゃった方が良かったかも」
とシリエル。
「あ、たしかに。そうするよ」
単衣はそう言ってバスルームに向かう。
「じゃあタオル出しておくね」
「うん、ありがとう」
*
シャワーから上がった単衣は、シリエルが用意してくれたタオルで身体を拭いて、やはりシリエルが用意してくれた服を着た。
(シリエルには悪いけど、林と暮らしてた頃を思い出すなあ)
そんなことを思いながら単衣はバスルームを出て、リビングに行った。
「あ、きたきた。じゃあ朝ごはんにしよ」
単衣も椅子に座る。テーブル一体型料理機のモニターを立ち上げて、それぞれが好きな料理を選んだ。すると魔法陣が展開され、選択した料理が出現する。
「ねえ単衣」
「うん?」
「明日のお昼さ、二人で作ってみようよ」
単衣は食べるのを止めた。
「ごめんね。単衣と枝垂さんの生活、たまに覗いてたんだ」
「うーん。感心しないけど、今はいいや。それで?」
単衣は複雑そうな顔をして言った。
「それでね。私もちょっと興味が沸いたの。二人が手料理を食べている様子が、凄く幸せそうだったから」
珍しくシリエルは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「だめかな?」
顔を赤らめて、上目遣いで単衣を見る、シリエル。
「う、うん。良いよ」
不覚にも可愛いと思ってしまった単衣は、誤魔化すように言った。
「本当? やったー!」
目をきらきらさせて、満面の笑みを浮かべるシリエルに、やはり単衣は可愛いと思ってしまうのだった。
*
(ああ、そうだ。シリエルにイヤホン型デバイスを返してもらわないと)
イヤホン型デバイスは治療の邪魔になる場合が多い。恐らくシリエルが取ったのだろうと、単衣は思っていた。
単衣はベットから起き上がる。夕飯を済ませて、お風呂に入り、歯を磨いて、後は寝るだけの時間帯だった。
単衣はシリエルの部屋の前に立つ。そして単衣は、迂闊にもノックせずにドアを開けてしまう。
「シリエルー?」
「きゃっ!」
普段のシリエルらしからぬ、弱々しく、いじらしい声が聞こえたかと思えば、彼女はベットに腰かけて全裸になっていた。
単衣は頭が真っ白になって、彼女を茫然と見つめる。長い金髪は腰まで伸びていて、ベットからたらりと垂れていた。服で隠れている肌はやはり白くて傷一つない。林よりも若いはずだが、シリエルの方が胸が育っていた。
「ひ、単衣。その……」
顔を真っ赤に染めたシリエルの言葉に、単衣ははっとした。
「ご、ごめん!」
単衣はすぐに部屋から出た。
(って、なんで裸なんだぁ!)
扉に寄りかかりながら、単衣はそんなことを思う。
「ひ、単衣?」
「うん?」
「私の裸、どうだった?」
なんてことを聞くんだ、と単衣思った。どくん、どくんと心臓が激しく脈打っていた。
「綺麗だったでしょ。ねえ、単衣」
より一層、艶めかしい声でシリエルは言った。
「好きにして良いんだよ……?」
ドア越しに響くシリエルの言葉に、単衣は耐えられなくなった。
「おやすみっ!」
単衣は逃げるように自室に戻ると、ベットに潜り込む。
(このままじゃ、まずい)
林に悪いとか、理性が持ちそうにないとか、それはもう色々な意味でまずいと、単衣は思うのだった。
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