復活

 朝。晴れ渡る空を見ながら、単衣はランニングをしていた。もうすっかり体力は回復していた。


 舗装された道路沿いを走る。左右には沢山の木々が生い茂っていた。走っていると風に乗って木々の香りを感じた。


 やがて一軒のコテージが見えてきた。木製で一階建てのそれは、柵で敷地を囲っており、その周りがさらに木々で囲まれていた。


 単衣は木製の玄関を開ける。


「あ、おかえり」


 シリエルが駆け寄ってきた。


「ただいま」


 単衣が言った。


「汗凄いね。はい、タオル」


 そう言うシリエルは、しかしタオルを差し出す訳ではなかった。


「ちょっ、いいって。汚いから自分で拭くよ」

「あはは。汚くないって」


 シリエルは単衣の胸に顔を埋める。


「すぅー」


 そして思い切り匂いを嗅いだ。


「良い匂いだよ」

「ちょっとシリエル!」


 かなり際どい行為に、単衣はたじたじだった。


「ほら、大人しく拭かれなさい!」

「わかったよ」


 大人しく拭かれる単衣。


「うーん、やっぱりシャワー浴びちゃった方が良かったかも」


 とシリエル。


「あ、たしかに。そうするよ」


 単衣はそう言ってバスルームに向かう。


「じゃあタオル出しておくね」

「うん、ありがとう」





 シャワーから上がった単衣は、シリエルが用意してくれたタオルで身体を拭いて、やはりシリエルが用意してくれた服を着た。


(シリエルには悪いけど、林と暮らしてた頃を思い出すなあ)


 そんなことを思いながら単衣はバスルームを出て、リビングに行った。


「あ、きたきた。じゃあ朝ごはんにしよ」


 単衣も椅子に座る。テーブル一体型料理機のモニターを立ち上げて、それぞれが好きな料理を選んだ。すると魔法陣が展開され、選択した料理が出現する。


「ねえ単衣」

「うん?」

「明日のお昼さ、二人で作ってみようよ」


 単衣は食べるのを止めた。


「ごめんね。単衣と枝垂さんの生活、たまに覗いてたんだ」

「うーん。感心しないけど、今はいいや。それで?」


 単衣は複雑そうな顔をして言った。


「それでね。私もちょっと興味が沸いたの。二人が手料理を食べている様子が、凄く幸せそうだったから」


 珍しくシリエルは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「だめかな?」


 顔を赤らめて、上目遣いで単衣を見る、シリエル。


「う、うん。良いよ」


 不覚にも可愛いと思ってしまった単衣は、誤魔化すように言った。


「本当? やったー!」


 目をきらきらさせて、満面の笑みを浮かべるシリエルに、やはり単衣は可愛いと思ってしまうのだった。





(ああ、そうだ。シリエルにイヤホン型デバイスを返してもらわないと)


 イヤホン型デバイスは治療の邪魔になる場合が多い。恐らくシリエルが取ったのだろうと、単衣は思っていた。


 単衣はベットから起き上がる。夕飯を済ませて、お風呂に入り、歯を磨いて、後は寝るだけの時間帯だった。


 単衣はシリエルの部屋の前に立つ。そして単衣は、迂闊にもノックせずにドアを開けてしまう。


「シリエルー?」

「きゃっ!」


 普段のシリエルらしからぬ、弱々しく、いじらしい声が聞こえたかと思えば、彼女はベットに腰かけて全裸になっていた。


 単衣は頭が真っ白になって、彼女を茫然と見つめる。長い金髪は腰まで伸びていて、ベットからたらりと垂れていた。服で隠れている肌はやはり白くて傷一つない。林よりも若いはずだが、シリエルの方が胸が育っていた。


「ひ、単衣。その……」


 顔を真っ赤に染めたシリエルの言葉に、単衣ははっとした。


「ご、ごめん!」


 単衣はすぐに部屋から出た。


(って、なんで裸なんだぁ!)


 扉に寄りかかりながら、単衣はそんなことを思う。


「ひ、単衣?」

「うん?」

「私の裸、どうだった?」


 なんてことを聞くんだ、と単衣思った。どくん、どくんと心臓が激しく脈打っていた。


「綺麗だったでしょ。ねえ、単衣」


 より一層、艶めかしい声でシリエルは言った。


「好きにして良いんだよ……?」


 ドア越しに響くシリエルの言葉に、単衣は耐えられなくなった。


「おやすみっ!」


 単衣は逃げるように自室に戻ると、ベットに潜り込む。


(このままじゃ、まずい)


 林に悪いとか、理性が持ちそうにないとか、それはもう色々な意味でまずいと、単衣は思うのだった。

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