生首

 ノウンは片膝をついて両手を組んだ。目を閉じて、祈るように詠唱を始める。


「させるか」


 弟切は停滞させていた無数のアサルトライフルで一斉射撃をした。しかし銃弾は全てハオに防がれてしまう。


「へえ。庇うということは、あれはホログラムじゃないのかな」


 弟切はしたり顔で言った。しかしハオは無反応だ。敵の言葉に惑わされるほど、彼は甘くなかった。


「私はハオを。草薙と荒木君は八意夫妻を」

「了解」


 三人は散開した。


「さて、ハオ君。さっさと倒させてもらうよ」


 そして弟切は傍に停滞させていたアサルトライフルを、ハオを囲むように操る。


「くっ!」


 ハオは背後を取られないよう、後退する。いくらハオでも、前と後ろから挟まれる形で攻撃されるのは避けたかった。しかし無理に前進してしまっても、やはり後ろを取られる危険があった。


「はあっ!」


 ハオは叫んで剣を振るった。するとその剣から風魔法が放たれる。鋭利な風がアサルトライフルに向かって突き進む。ハオは弟切の武器を破壊することによって、少しずつ状況を好転させる魂胆である。


 それを見た弟切はアサルトライフルを移動させて破壊されるのを防ぐ。そして同時に、魔法を放った一瞬の隙をついて、アサルトライフルの一つをハオの背後に回すことことに成功した。さっそくまずい状況になったハオの額に冷や汗が滴る。


「さて、どうやって防ぐのかな」


 弟切は容赦なく、背後と前方と両サイドからアサルトライフルの一斉射撃を開始した。


「エアリアル」


 銃声に混じってハオは魔法名を唱えた。そして思い切り地面を蹴ってジャンプする。全ての銃弾は彼の足元を通過して、はるか彼方に消えていった。そしてハオは魔法によって発生した風に乗ってそのまま上昇し、ある程度の高度になるとその場で停滞した。


「空中に逃げたか。凄まじい判断力だ」


 弟切が言った。


 空中にいたハオは着地した。長時間、浮遊できないようだ。


「次は、そうはいかないよっ!」


 弟切が魔力を込めた。バチバチと電流が迸る。そして、思い切り地面を蹴った。


「なっ!」


 先程とは比べ物にならないほどの速度で、弟切が肉薄する。ハオは咄嗟に剣を構えた。


 ガキンッ!


 強烈な金属音。弟切が腕に仕込んだ剣で思い切り振り抜いたのだ。それはハオが咄嗟に構えた剣によって防がれた。


「……はっ!?」


 すぐに何かを悟ったハオは自身の頭上に魔法陣を展開した。その展開した魔法陣は、突如発生した落雷によって破壊された。


 無傷で済んだハオは、すぐに飛び退いた。空中に停滞していた無数のアサルトライフルが、ハオがいた場所に向かって一斉射撃を行う。


 射撃は飛び退いたハオを追従した。ハオは転がりながら移動して銃弾を紙一重で避けると、そのまますぐに立ち上がって態勢を整える。


「はい、チェックメイトだ」


 弟切が言った瞬間、ハオの全身が強烈な電撃によって痺れる。


「ぬおぉおおおお!」


 ハオは絶叫した。弟切が密かに仕込んでいた罠に、ハオは引っ掛かってしまったのだった。もしハオが冷静な状態であれば見抜けたかもしれない。しかしハオは弟切の激しい猛攻を避けるのに必死で、それどころではなかった。結果、弟切が仕込んだ罠に気付くことができず、引っ掛かってしまったのだ。


「テンペスト」


 ノウンの声が響き渡る。


「ああ、間に合わなかったか」


 弟切はノウンを見た。彼は立ち上がって両手をEMPレーザーの方に突き出して構えていた。そしてその両手から、凄まじい光が吸い寄せられていく。


 膨大なエネルギーが集中すると、それは一気に放たれた。ビームのような魔力の光線は、轟音を轟かせ、衝撃波を辺り一帯に撒き散らせながら、一直線にEMPレーザーへ向かっていく。


「させないっ!」


 弟切はアンドロイドの筋力をフル活用して地面を蹴った。激しく地面を抉りながら、弟切は地面から離れてジャンプする。


 勢いよくEMPレーザーに向かっていく弟切。そしてノウンが放った魔法よりも早くEMPレーザーの前に着くと、弟切は正面に差し迫ってくる魔法に向いた。


「サイクル・ボルト!」


 強烈な稲妻を纏う魔法陣が展開された。斜めに展開されたその魔法陣は、ノウンの放った魔法の軌道を宙にそらした。


「凄い……!」


 それを見ていた涼が、感嘆の声を漏らした。詠唱によって放たれた魔法を、正面から受け止められる訳がない。しかし軌道をそらすだけなら、小規模の魔法でも可能だ。弟切は咄嗟にそれをやってのけたのだ。


 ヒュンと、涼の近くを何かが駆け抜けた。


 涼は咄嗟に弟切を見る。何と弟切の首が飛んでいた。


「なっ……!」


 生首の弟切は、咄嗟に斬った人物を見た。その人物は、鞘に手をそえたまま、こう呟く。


「枝垂流・柊」


 彼女は既に納刀していた。

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