両親との遭遇

――緊急事態です。


 高速道路を走行中、緊迫感のある奈々の声が響いた。


「どうした」


 草薙が聞く。


――東京に設置してある、4機のEMPレーザーですが、敵のドローンによって3機破壊されてしまいました。

「なんだって!?」


 声を荒げる草薙。


「なるほどねー。敵の車両は釣りだった訳だ。EMPレーザー付近の人員を少なくして、ドローンの対応を遅らせたんだね。EMPレーザーは照射まで時間が掛かるから、直接狙われると弱い。はは、また一本取られちゃったね」


 などと、呑気に弟切が言った。


――幸いにも、今あなた方の近くに最後のEMPレーザーがあります。至急向かってください!


 と奈々が言った直後のことだった。すぐ近くのガラス張りの防音壁の向こう側から、10機ほどのドローンが上昇していった。


「その例のドローンが来たようだ」


 朗らかに弟切は言った。


「でも、数が少ないですね」


 と涼。


「そうだね。EMPレーザーを破壊するほどの火力を持つドローンだ。特別仕様だから数を用意出来なかったんだろう。だから小細工をしたんだ」


 弟切が言った。


「でも、これはつまりチャンスだ。ハゼスが唯一見せた、付け入る隙だ」


 弟切は続けた。


「チャンスは必ずものにする。行くぞ!」


 草薙が言った。





 EMPレーザーは電波塔のような建物の先端に設置されていた。そしてその周りを立入防止柵で囲まれている。


 EMPレーザーで待機していたWOLFの隊員は交戦中だった。


「彼らは?」


 弟切が聞いた。


――チームシークです。


 奈々が答えた。


 チームシークは敵のドローンを破壊しようとしており、それを敵数名が邪魔をしていた。そして敵のドローンは電波塔のセキュリティドローンと交戦中だったが、やはり特別仕様の敵のドローンが圧倒的で、セキュリティドローンがもうすぐで壊滅されそうな状態だった。


「私と草薙で先行する。荒木君は到着後に敵のドローンの対応。草薙、緊急モードで自動操縦に切り替え。ここからは走っていくよ!」


 草薙は指示通り自動操縦に切り替えた。


 そして二人はドアを開いて、道路に飛び出した。二人はアンドロイドなので身体強化は無いものの、腕力も脚力も並外れている。


 道路に飛び出した二人は、時速100キロ以上出ている車よりも速く走り、すぐに目的の場所付近まで到達した。


 二人は光学迷彩をオンにし、草薙はそのまま敵の懐まで潜り込んだ。


――シーク、こちらアルカ。範囲攻撃を行う。今すぐ退け!


 弟切が言うと、チームシークは反射的に飛び退いて後退した。彼らも精鋭部隊なので、回避しろと言われたら即座に回避する。


「クリムゾン・デッド・サガ」


 味方が後退したことを確認した草薙が、魔法名を言った。すると右手のひらが炎に包まれる。草薙はそれを思い切り地面に叩きつけた。


 まるで爆破が起きたような激しい破裂音が轟く。そして叩きつけた場所を中心に、超高温の炎が勢いよく全方位に広がっていった。チームシークと交戦していた敵全員が咄嗟に魔法陣を展開するものの、あまりの威力に呆気なく突破されてしまい、そのまま焼かれてしまった。


 爆風が収まった。辺り一帯、丸焦げになった敵たちが、ちりちりと残り火をあげながら無残に倒れていた。


「うわぁ、一撃だよ。流石草薙。範囲攻撃においては最強だね!」


 と弟切。しかし草薙は気を緩めなかった。


「弟切、まだだ」

「わかってるよ」


 二人は遠くに停車しているワゴン車を見つめた。


「弟切さん、草薙さん」


 涼がようやく辿り着いた。


「荒木君。ここから先、命の保証はできない。覚悟しておくように」


 と弟切。そしてワゴン車から敵が四人降りてきた。一人はハオ・ユーだった。


「希薄な愛によって育てられた者共。ごきげんよう」


 一人はノウン。三校合同大会の時と同じ格好をしていた。


「久しぶりだな。弟切」

「あら、草薙もおる。懐かしいわぁ」


 残り二人は、弟切と草薙がよく知る人物だった。


「おぉー、八意夫妻。久しぶりー!」


 まるで友達と出会ったかのような感じで弟切が言った。


「八意夫妻!? 単衣のご両親ですか!?」


 涼が驚いて言った。


「ああ、そうだよ。あの二人は元A部隊でね。単衣君を人質に取られて、引き抜かれたんだ。だから表向きは死亡扱いだった」


 それを聞いた涼は、二人を見た。父の名は、八意 前司やごころ ぜんじ。女性の様に長く真っ直ぐ伸びた黒髪を靡かせている。真っ黒な服を身に纏い、腰には刀が差してあった。目つきが鋭くて、狐のように細い。


 母の名は八意 雅やごころ みやび。黒髪のポニーテールは腰辺りまでだらりと垂れている。肌が真っ白で、下瞼の辺りをほんのり紅く化粧をしていた。そして黒い着物のようなものを着ていた。


「二人とも紹介するよ。こちら荒木涼君。単衣君の親友だ」


 すると単衣の母、雅が大げさに反応した。


「単衣の親友! なあノウンさん。彼だけは殺さないでおきましょう?」


 妙におっとりとしたテンポで雅は話した。イントネーションも不思議だ。


(京都弁か?)


 涼はそう推測した。容姿の美しさも相まって、妙に神秘的である。


「弟切さん。あの二人は洗脳されているんですか」


 涼にとってそれは重要なことだった。


「ああ、おそらくは」


 弟切は言った。


「もう良いだろう」


 ノウンは痺れを切らしたようだった。


「始めるぞ」


 ノウンが言うと、ハオと、雅、前司がそれぞれ構えた。

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