約束
単衣は地面を蹴った。友里と距離が離れるように、高速で移動する。
(な、なにを……)
友里は単衣の真意が読めなかった。接近戦しかできない筈の単衣が、相手と距離と取ることに何の意味があるのか。
そして単衣は自分が入場した西側のゲートまで着いた。友里との距離はかなり遠い。
次に単衣は友里に向かってダッシュした。高速で距離を詰める単衣。
「一体どういうつもり」
単衣がこちらに向かっていることに気付いた友里は、ますます訳がわからなかった。しかし単衣を見ているうちに、違和感を覚える。
「あ、あれ」
単衣の姿が霞む。自身の眩暈を疑って他の景色を見た。その瞬間。
パリンッ!
友里に自動防御システムが働いた。
「え、ええ?」
友里はもしやと思い後ろを向いた。先ほどまではるか彼方にいた単衣が、いつの間にか真後ろにいる。
「枝垂流・檜葉」
単衣は納刀していた。近距離においては、枝垂流のその速度はほぼ初速によって決まる。当然距離による加速は乗っていないため、最高速度ではない。枝垂流・檜葉は最高速度に到達するまでの必要な距離を取り、その最高速度に到達した時点で相手の間合いに入り斬る技である。
単衣の初速に目が慣れていた友里は、加速した単衣の速さに目測を誤ったのだ。
「いけー単衣! そのまま押し切るのです!」
誰かの声が響いた。とても愛しい音色だと単衣は思った。
(もちろん。このまま畳みかける!)
充分な間合いだった。単衣は思い切り地面を蹴った。
「まだまだ!」
もちろん、友里も黙ってはいない。すかさず電撃を放とうとする。
ヒュンッと風を切る音がした。
パリンッとガラスが割れる音。友里に自動防御システムが働いたのだ。
「なっ!」
友里の首辺りから白い鞘が落ちた。それは単衣の愛刀、椿の鞘だ。単衣は間合いに入る前に鞘を投げつけたのだ。直撃すれば死ぬ威力で投げられた鞘は、自動防御システムによって防がれた。
「終わりだ!」
鞘によって攻撃が中断された友里は、あっさり単衣に距離を詰められてしまった。
パリンッ!
友里に最後の防御システムが働いた。
「枝垂流・
そして単衣は納刀した。枝垂流・銀杏は距離を詰める際に、まず初撃として鞘を投擲、相手が鞘に気を取られているうちに間合いを詰めて二撃目を入れる技である。
「そこまで。勝者、八意単衣!」
秋田の合図によって、試合は終了した。
*
「まさか、本当に決勝トーナメントまで来るとは、驚きましたよ」
バスに揺られながら林が言った。
「あの約束、本気にしているんですか」
林が困ったような表情を浮かべていた。
「当り前じゃない。約束、守ってもらうからね」
「それは、まあ。ちゃんと成し遂げたら、守ってあげますけど」
そう言う林は少し顔が紅い。
「おいおい、夫婦漫才はよそでやってくれ。気が抜けるっつーの」
反対側に座る涼が言った。課外学習の時とは違って、このバスには秋田、単衣、林、涼の四人しかいない。
「荒木は真面目ですねえ。どうせ私に負けるというのに」
林の挑発。戦いとなると林は好戦的だった。
「はっ、ほざけ。てめえの弱点は見抜いてんだよ。雑魚が」
と涼。
「ふふ。私の弱点ですか」
弱点があると言われても余裕を見せる林。
「なるほど、なるほど。楽しみですねえ」
好戦的な、とても獰猛な表情を浮かべる林。
「林?」
「どうかしましたか、単衣」
「いや、別に」
単衣は林の様子がおかしいと感じた。いつもよりも、好戦的で、挑発的なような。
「もうすぐ着くぞ」
秋田が言った。単衣は車窓から外の様子を見た。星葉学園のドームよりも一段と大きなドームが建っていた。辺りは木々が植えられていて、近くには公園がある。とても緑豊かな場所だった。
バスは駐車場に停められた。他校が利用したバスも停められていた。
「ほら、降りるぞ」
ドアが開いて、秋田が声を掛けた。単衣と林と涼は、バスを降りて会場に向かった。
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