第26話 やまびここだま

 山に向かって呼びかける。

 おおい、おおいと手を振りながら。

 見えぬ誰かに伝わるように。楽しいかいと、問いかけるように。

 返ってきた声は、別人の声だった。


 人に向かって呼びかける。

 おおい、おおいと手を振りながら。

 大地に住まう人の子に。ここより先へ、踏み入るなかれと。

 木霊が返すその声に、耳を貸すものは誰も居なかった。


 動物に向かって呼びかける。

 おおい、おおいと手を振りながら。

 神の社に住まいし者へ。ご苦労様と、ねぎらうように。

 山彦が護りしこの山は、今日も静謐に包まれていた。

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