第21話 ひかりのふたご
むかーしむかしのそのむかし。
空よりも宇宙よりも遠い、
二人は大の仲良しで、遊ぶのも、ご飯を食べるのも、寝るときも一緒です。
ある日、兄妹は地球の海に降り立ちました。
砂浜でお城を作ったり、海の水を舐めてみたり、波打ち際まで行って波をを蹴って遊んだりと、海を初めて見る兄妹は大はしゃぎです。
そんな二人を、昏い海の底から、じいっと見つめるうみへびがおりました。
うみへびは名前をヒドラと言って、いつも楽しそうに
ヒドラは心の優しい持ち主で、巣の周りを泳ぐ魚たちに混ざりたいと、いつも思っていました。
けれども、ヒドラは図体ばかり大きくて昼間は暗い巣穴に籠っているものですから、他の魚たちからは嫌われていたのです。
ある日、今日も波打ち際で遊ぶカストルとポルックスの足元に、一匹の蟹が忍び寄りました。蟹は鋏をちょきんちょきんと鳴らしてポルックスの足を挟もうとしています。
「おおい、おおい。ポルックスちゃん、危ないよ」
ヒドラは大声を出して、ポルックスに危険を知らせました。けれども、その声は泡になって水面へと浮かんでいくばかりで、ちっともポルックスには届きません。仕方が無いと、ヒドラはその大きな体をめいいっぱいのばして蟹を口にくわえました。
「わあっ。大きな蛇じゃないか」
「私達を襲おうとしていたのかしら」
いきなり海の底から出てきたヒドラに、兄妹はびっくりして逃げ出しました。
「ああ、逃げないでおくれ。僕はただ、君たちを守っただけなんだ」
ヒドラは砂浜をにょろにょろと進みながら、逃げる兄妹に呼びかけます。けれども、兄妹はヒドラの言葉を聞きもしないで、さっさと
ヒドラがすっかり落ち込んでしまったその時。天上の神様が現れて、カストルとポルックスに言いました。
「これ、二人とも。このうみへびは、蟹からお前たちを守ってくれたのだぞ?」
神様はそう言って、ヒドラの口に銜えられた蟹を指さします。蟹はヒドラの口から逃げようとばたばたともがいています。
「あれっ、本当だ」
「まあ、本当だわ」
カストルとポルックスは砂浜の上でしょんぼりしているヒドラに駆け寄りました。そうして、二人はヒドラに謝りました。
「ごめんよ、うみへびくん。君は妹を守ってくれたんだね」
「ごめんなさい、うみへびさん。私、逃げちゃってごめんなさい」
嬉しくなったうみへびは、蟹を離してやりました。すると、なんてことでしょう。蟹は口から泡を吹きながら、悪口を言いました。
「やいやい、ヒドラめ。いっつも巣穴に引っ込んでる癖に、こいつらの前では良い恰好をしているんだろう」
カストルとポルックスには何のことか分かりませんでしたが、ヒドラはびっくり仰天して言い返します。まさか、蟹にそんな事を言われるなんて、思ってもみませんでしたから。
「そんなことないよう。だいいち、君はこの子の足を挟もうとしていたじゃないか。君の鋏はとっても鋭いから、怪我をしちゃうだろう?」
「ふん、そんな事、僕の知ったことじゃあないね。だいいち、僕たちの海で好き勝手するのが悪いんだい」
蟹は全身を真っ赤にして大声を上げます。けれども、
蟹は、もともと海の底に隠れて住んでいました。
でも、突然ヒドラたちうみへびが引っ越してきてさあ大変。縄張り争いに負けた蟹は逃げ出して、浅瀬に近い岩の陰に隠れて住むようになりました。
そう。蟹は自分よりも強いヒドラに、嫉妬していたのです。
「巣穴を選ぶのも、そこに住むのも、うみへびに与えられた立派なけんりなのだ。自分にも与えられているにも拘らず、嫉妬しようとはなんと傲慢な!」
天上の神様は怒って、
それを見届けた天上の神様は、カストルとポルックスに言いました。
「さて、お前たち。そろそろ揺りかごに戻らなくては。この星の冬を照らす役目が近づいているのだから」
そう。もうすぐ、この星には厳しい冬がやってきます。カストルとポルックスは頷きましたが、一向に動こうとしません。二人の目には、寂しそうにこちらを見つめるヒドラがうつっていたのです。
「ああ、ポルックス。僕は、このうみへびとまだ遊びたいんだ」
「ええ、カストル。私達、
それを聞いた天上の神様は、にっこり笑ってうみへびを
冬の星座を御覧なさい。うみへび座が追いかける先に、ふたご座があるのが分かります。
心優しき兄妹とうみへびは、今でも夜空で楽しい追いかけっこを続けているのです。
では、蟹はどうなったでしょう?
うみへび座の真上を見てください。ずんぐり太った蟹がいるのが分かるでしょう。でも、その隣では大きな獅子が蟹を見張っています。
哀れな蟹は、うみへびに悪さをしないよう、獅子に永遠に命を狙われ続ける運命になったのです。
おしまい。
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