第23話 儀式

俺たちは奴隷商ギルドに来ていた。

キリクが一人で中に入り、しばらくたってから出てきた。



「……気分のいい場所ではないね」


頭をぼりぼりとかきながら嫌そうな顔をしていた。


「頼む、キリク」


マッシュにポポたちの髪の毛を渡した。


「了解!……。スゥー」


キリクはポポ達の髪の毛を匂いを嗅いだ。

そう獣人である彼女は、犬や狼と同じで人間の何百万倍もの嗅覚がある。これで監禁場所を発見しようと思っている。

さっき奴隷商ギルドの中に入ったのは、奴隷商人の匂いを覚えるためだ。

クンクンと辺りの匂いを嗅ぎだした。


「あれ?これって?匂いが……。」


キリクはおかしな顔をした。


「多分、魔法で匂いを隠しているかもな!元冒険者が関わっているのなら間違いなく獣人と魔法の対策ぐらいしているだろう……でもな、できるよなキリク!まさかこの十年でできなくなったとか言わないよな!」


クラークがキリクの顔を見てニヤリと笑った。

そしてキリクは鼻でふっと笑い。


「まあ年を取っておばさんになって引退したけど、クラークをがっかりさせるほど落ちぶれてはいないよ!……我に力を」


キリクの身体が光り出した。

普通は獣人は魔法が使えない。獣人は魔法を使わなくても強いので必要ないから覚えないとも、魔法を使えるだけの知能が無いとも言われるのだが……。


「キリクはな、獣人では珍しく魔法が使える。そしてそれは全能力を引き上げるぞ。流石に日に何度もは使えないが、ただでさえ人間の何十倍もの力がある獣人が魔法を使ったらどうなるか?」


クラークが俺に説明してくれた。

まるでそれは、これから遠足に行く直前の子供のような笑顔で話してくれた。

キリクはクンクンと辺りの匂いを嗅ぐと、狼と同じ口が裂けるように大きく開いた。


「みーつけた……さて、久しぶりの狩りを楽しむかね」


クラークとマッシュは頷いた。










「この中みたいだね」


俺たちはキリクの案内のもと、グレール王都を出て、森の中に入っていた。

立ち止まると、キリクは目の前に見える洞窟を指さしていた。

その入り口には2人ほどの男が立っていた。


「ラーク降りろ」


俺はクラークの背中から降りた。

ここに来るまではクラークに背負われて来たのだが、まるでジェットコースターに乗っているような感覚だった。

そう、クラークとマッシュも加速の呪紋速さ増幅を使い、キリクの後をついてきたのだ。


「ラーク、絶対にキリクから離れるなよ!キリク、ラークを頼む」


キリクは嬉しそうに笑い。


「あはは、まるで昔みたいだね、後衛はまかせて」


言いながら俺の頭を撫でた。


「さて、マルトに手を出した償いをしてもらうか!」


「ああクラーク、町の住人を守るのが、治安維持隊の仕事だからな」



クラークとマッシュはゆらっと、身体が揺れてから消えた。次の瞬間には洞窟の入り口の前にいる、見張りの胸を一瞬のうちに剣で刺し殺した。


俺はあのクラーク・・・・・・が、人を殺すところを初めて見て恐怖した。

この世界では殺人をしても取り締まる警察はない。つまりは法で裁くことはないから、殺人ははっきりとした罪ではない。

そしてグレール王都ですでに殺人を見てきていた。


だがしかし、平和な日本で生きていた俺にとっては、殺人はしてはいけないことであり明らかな罪だ。

そのときも俺はかなり驚いたが、父親であるクラーク身近の人が殺人をしているのとではわけが違う。

しかし……このことで殺人クラークを責めるほど、俺はバカではないし、俺がここについてきて、それをすることではない。


よく漫画やラノベアニメや映画とかで人殺しを責めるバカなヒロインがいるが、俺がそれをするつもりではない。

今の最優先事項は、ポポたちの救出とクラークたちの無事だ。ここで殺人をするなと言って、倒した奴が後で襲い掛かってこられたらたまったものではない。


大丈夫、俺はこれからもこの世界で生きていく。

これは俺がまずは通り過ぎないといけない儀式意識改革の一つだ。


「どうしたの?いくよ」


キリクにとっては殺人は当たり前の光景なんだろう。


「すぅーはぁー……うん……」


俺は深呼吸したあと、二人の後をついていく。








「なんだてめえらは…」


二人は、一瞬で殺していく。

それなりの手練れの元冒険者たちなのはわかるが、二人にかかると赤子の手をひねるごとく簡単に殺している。

それは淡々と殺していく。


「さっきのは『霧の闇』にいた若い奴だな、たしか仲間を殺して逃げたはずだな」


マッシュは冒険者のことに詳しい。今まで殺した奴の何人かは知り合いだった。


「ふーん、冒険者を辞めたのなら、地方の村にでも行って大人しくしていればいいのにな……まあ残念だが、俺たちの敵になった時点で終わりだよな」



しばらく中に進むと広場みたいなところに出た。

この洞窟はきっと魔法で作ったのだろう。

土魔法で土を盛って山を作り、穴を掘って自分たちの思うがままの洞窟を作って、拠点にする事が出来る。

そこには20人ぐらいの男がいた。


「へぇークラークさんですか?懐かしい顔がいますね、それとマッシュさんとキリクさんか…お子さん連れでピクニックのつもりですか?」


声を出した男は黄色の髪をして20代後半ぐらい、端正な顔立ちをしていた。

クラークを見つめると懐かしむような、それでいて悲しげな顔をした。


「よー久しぶりマリガ」


クラークはまるで旧友に会うように声をかける。


「お久しぶりですね、たしかクラークさんが冒険者のやめて10年、それくらいぶりぐらいかな?……私はあれから腕を上げてクラークさんよりも強くなりました。もう意味ないけど金級までなりましたよ。クラークさんはたしか銀級どまりでしたよね」


マリガが静かに剣を抜く。


「……俺は今の名はクラーク=マルトなんだ。それでわかるだろ、だから俺がこんなところに来た要件はわかるよな!簡単に要件言うとマルトの人を解放して、今後マルトに手を出さないというならお前を見逃してやってもいいぞ。昔、女紹介してもらった恩として返してもいいよ」


クリークがやれやれっ言った感じでマリガを見つめて言う。


「それならあの時のお礼は結構ですよ、でもこの人数見て平然とするのは流石はあの『疾風迅雷のクラーク』さんですね!……ここにいるメンバーはほとんどが銀級の冒険者ですが、例え『剛剣のマッシュ』さんがいてもたった3人でこの人数を倒せます?」


うわっクラークもマッシュも二つ名持ちなのか、しかもかっこいいぞ。




「クラークって種馬のクラークだよね?」

「たしか、処女殺しのクラークとも」

「自分が聞いたのは人妻泣かせのクラークときいたぞ」


…………後ろにいる男たちが口々に言っていた。






おい、クラークさん!なんで何個も二つ名持っているんだ。

しかもどれもいい意味ではないぞ!!

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