第22話 王都の闇

翌朝、マッシュとクラークは知り合いの冒険者達を回って情報を集めていた。

昼には宿に戻り、情報を整理するとこんな感じだった。


噂では冒険者崩れが集まり徒党を組んで、強盗や誘拐とかしているらしく、それもそこそこ有名な強い冒険者パーティーからの脱退者らしい。

そいつらは腕は強いのは確かなのだが、あまりにも態度がひどくて、そのパーティーから追い出された。

そして追い出されたやつらと、ならず者が手を組んで山賊まがいになって強盗や誘拐をしている。

そして貴族たちの子供も誘拐の被害にあっているという事だ。



「噂だがリーダーが『雷風のマリガ』だそうだ」


マッシュがそう言った。てかなんだその二つ名は?中二病真っ青の呼び名は!


「あははは、マリガってもしかしてあのひょろひょろマリガか?なんだよ、その雷風って?だせえ名前」


クラークが笑っている。てか二人とも知り合いなのか?


「まあそういうなよ、お前が引退してからは、奴は名を挙げて金級の冒険者なっているからな」


「げっ奴が金級?ありえねー」


冒険者の金級といえばこの国でも数人しかいないランクになる。

ラノベで言うならSランクに当たる。

まずは金級と分類されるものすごく強い魔物を倒した実績と、他のランクの魔物もかなりの数を倒したという実績がある上で、冒険者ギルド内の冒険者上位ランキングの1000人抜き試験があり、それをクリアしないと取れないという代物だ。

その過酷な試験を合格するだけの腕があるという事だ。

ちなみにマッシュは金級だ。


「なんで金級にもなっている人が、冒険者をやめてまでそんなことするの?」


俺は素朴な疑問をマッシュに問いかけた。


「ラークの疑問はわかるよ、ちょっと貴族とのトラブルがあったからなあ……冒険者を辞めざるしかなかったから、その上悪い連中とつるむようになって、他の冒険者での嫌われ者たちを率いてしだしたとか……まあ、いろいろと事情があったという事だ……」



マッシュが言うには、王家筋の貴族の娘が金級の冒険者であるマリガを見て気に入ったのだ。

そして結婚を迫ったそうだが、すでに結婚しているマリガはそのことは断った……のだが、しつこく絡んできて挙句、その妻を暗殺した。

それに激怒したマリガがその貴族に関わる者を皆殺しをした。

そのことによって国から追われ、冒険者としてやっていけなくなったマリガは、そのまま盗賊まがいをしているようになってしまった。

貴族に対して強い恨みに思っているマリガは、賊を率いて貴族狙いの誘拐と強盗をしているという事は容易に想像できた。



「それならポポは王族筋だから狙われたわけか?」


「えっ?」


俺は驚く。


「そうか、ラークは知らなかったか……あれでもぺぺ町長は今のラドゥン王の甥だからな」


クラークはそう語る。

今から36年前に前王のパト王が亡くなった時に王位継承争いが起きた。

パト王には3人の息子がいた。その息子同士が王位継承権めぐって陰惨な内乱が始まった。


戦いの末、第二王子ラドゥン王がその戦いに勝ち、争いに負けた第三王子セットは処刑され、第一王子スサイドは王都『グレール』を追放された。


辺境の地に追放されたスサイド王子は、そこでスサイドについてきた従者と一緒に開拓をしてマルトを作り、細々と村を作っていく。

マルトとは、この国の古い言葉で『命』と言う意味を持つ。


スサイドは過酷な環境で残念ながら命を落とすが、息子のペペが後を継ぎ、村をドンドン広げていった。

そしてたまたま魔物退治の依頼でやってきたクラークが、マルトを気に入り、冒険者を引退した後に村に住み、俺が誕生したのだ。


「まあ、ペペから直々に頼まれたのもあってな、あとここはラークとシールが住むには不安だったしな」


クラークは俺の頭を撫でる。

確かにこの王都グレールは治安が悪く、犯罪や殺人が多い。クラークと情報集めのために街の中をちょっと一緒に回っただけでも、喧嘩や殺人現場を見てしまった。

なぜかというと、現王であるラドゥン王が、王都の治安に興味がないためとも言われている。

城を守る騎士や他の国を攻める兵は作るが、国を警備する衛兵は作らない。

それだから街は荒れ、国中に犯罪があふれる。



その点マルトは町としては優秀だろう。

ぺぺ町長は第一に町のことを考え、例えば不慮の事故で親がいなくなった成人前の孤児とかあれば町ぐるみで保護し、そのうえ文字や生きていくために必要なことを教えたりする、簡易的な学校も作っている。

今ではクラークたちが町の治安を守っているので、このグレールとは違い、子供たちはのびのびと暮らしていける。

但し、成人をすると一人で生活させるために保護は一切しない。だからリリックは援助はされていなかった。マルトではニートは養ってはもらえない。

……とはいえ、マルトの中で生活するなら、それなりの果物が街の中に生えているから飢えはしないし、魔物も入ってこないから死にはしない。

だから住むところとしては、このグレールよりはかなりまともだろう。


「だからラークが気に病むことはない、安心しろ」


「父さん痛い」


ワシワシ頭をつかむように、俺の撫でるクラーク。





「あれ!!?クラーク?なんでここに?!」


宿の入り口のほうから、そんな声が聞こえてきた。

入り口には一人の獣人が立っていた。

銀色の毛をした背の高い狼の獣人ようだった。瞳は赤く燃えるような色をしていて、大きな尻尾を振っていた。


「よーキリクひさしぶり、元気にしていたか!」


「クラーク!」


そのキリクは飛びかかり一瞬で近寄ったと思ったらクラークを殴り掛かっていた。クラークはその拳を手のひらで受けとめる。


「相変わらずだな」


「ふん、そっちもね……。あれ?シールさん?背が小さくなった?」


キリクが俺を見て驚いている。なんで子供になった思う?


「クラークとシールの息子でラークと言います。よろしくお願いします」


「可愛い!シールさんそっくり」


俺はお辞儀して顔を上げると同時に、キリクが俺を抱き上げてぶん回し顔を長い舌でなめまわす。

うわー!ぐるぐるとその場で回転するのと顔をベロベロと舐めるのはやめてーーーーー。




その後、俺はひどく目が回ってフラフラになっている。そんな俺を逃がさまいと、キリクに子供が抱くぬいぐるみのように抱きかかえられていた。



そんな中マッシュから、今回の誘拐に関する説明を聞いたキリクは……。


「わかった。協力するよ」


事情を聞いたキリクは静かに答えた。

これから準備が出来次第、探索に向かってくれる。





「父さん、ちょっといい」


やっと解放された俺は疑問に思っていることを小声でクラークに聞く。


「ラークどうした?」


「キリクさんって女性なのになんで男性ぽい名前なの?」


キリクは獣人だが女性メスで、でかい胸があったのだ。


「あーそれはなラーク、女が冒険者するなら男名を名乗るからな、そうしないと、冒険者の男と対等に付き合えないとかという昔の名残でね!もちろんお母さんみたいに名前変えない人もいるけどな。まあ大体の女の冒険者は結構名前変えるし、男装して髪の毛を短く刈り込んだりもするしね」






俺はラークと名乗って女の子と間違えられた意味がやっと分かった気がした。

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