第21話 奴隷は……。
「なんだこれは!?」
ダムは生まれてから体験したことのないことで驚きの声を上げていた。
俺たちは『宿屋ギミット』に帰っていた。早速マッシュがダムに頼んで台所を借りてくれたので俺が料理を作っていた。
その上今日は久しぶりにクラークたちが来たからという事で、酒場と宿屋は臨時休業したって……いいのか?てか他に客がいないのか?つぶれそうだなここ……。
そう思って聞いてみると、本当に経営がよくなくて潰れそうらしい。
意外にも『鷹の翼』リーダーとしてのマッシュのカリスマがあり、マッシュ憧れでこの宿には沢山の冒険者が来ていたが、マッシュが引退してからは一気に客足が少なくなり困っているそうだ。
引退して代替わりした『鷹の翼』リーダーのマリアンは人気がなく、冒険者が寄ってこなくなったそうだ。
俺は、台所でオークの肉と
ちなみにこの世界にはフライパンは無い。煮ると直火で焼くぐらいしか調理法がないからだ。もちろんマルト町ではフライパンは普及済みだ。
さっき食べなかったジャガイモもどきがあったのでつぶしてミンチ肉等と一緒に混ぜる。固くなっていたパンを粉々にしてパン粉を作り、それと小麦粉とたまごをつけた。
ここではランタン使用目的で買ってあった
そしてミンチ肉も軽く炒めてから、ピンク色をしたトマトもどきをワインと塩入れて軽く煮込んでそれをソースにする。ここではトマトは生でしか食わないからダムらは驚いていた。
携帯食料用に持ってきたパスタを茹でてから、作ったソースをかける。
はい、これでコロッケとミートソースパスタの出来上がり。
ついでに世話になるダム一家の分も作っていたので食わせてやると、さっきのような感嘆の声をあげた。
「なんなんだこのうまさは!全身に駆け巡るショックがすごい」
なんか某アニメの表現みたいに服を脱いで上半身裸になるダムさん。
「あらま!あらま!あらま!」
あらま、しか言わなくなったダムの奥さんのコマさん。
「すごい、ホクホクした触感と肉のうまみ、そしてトマトと小麦粉の使用の概念を変える使い方、まさに奇跡」
なぜか食レポをしだす息子のコムくん。
「へへへっ美味いだろ!俺の子はすごいだろ」
もうドヤ顔でめちゃくちゃ自慢げなクラークさん……。
「まあ確かにラークの料理は美味いからな……うーんラッシュも賢いけど料理はしないからな」
マッシュさん?なぜに今、ラッシュの話題をだした?
「ラークさん」
「
さっきまで皿までペロペロと綺麗に舐めていたコムが、突然俺に近寄ってきて名前を呼んだので思わず、某刑事みたいに語尾を上げて返事した。コムはダムにそっくりでグレーの髪や顔の作りがよく似ている20歳だ。リリックと同じ年ぐらいだがコムの方がゴツく、マッシュみたいな身体をしている。
コムは俺の前に跪き。なんかいやな気配。
「俺と結婚してください」
「いや断る!」
やっぱりかよ!
俺は男と結婚する趣味はないぞ!
「全身全霊を持って愛し続けます!まだあったばかりですが!一生幸せにします。」
多分これは……。
「僕は男です!無理です!お断りします」
「えーーーーーーーっ!」
この展開は前にもやったわ!てかダム夫婦も驚いていた。そういえば息子って言ってなかったが、大体名前と髪形わかるだろが!てか前にも同じボケしたぞ!
大体、子供に求婚するな……ではなく男だ!俺は!!
「くそっ101連敗だ」
えっ?コムは手当たり次第声かけているのか?焦りすぎだろ!あんな感じで突然来られたら女の子ならビビるぞ。
まあこの世界では20歳で結婚してないのは、女もだが男も行き遅れに近いからな……
「コムは今すぐに結婚したいからな……ラークくん?よかったらこれうちの店で出してもいいかな?客足がかなり減ってな宿の経営もちょっとやばくてよ」
ダムは料理を作らせてくれと言った。まあそんなに難しいものでもないし、作れば間違いなく売れるだろ。今までの料理よりは
まあクラークたちがお世話になっていたしまあいいか?
「あっいいで………いや、条件があります」
俺はある考えが浮かんでいた。
「何かね、もちろん宿代はいらない!これだけのものなら金を払ってもいいぞ。ほかの店には出せれない味だ」
興奮気味のダム、まあ宿代タダとか金を貰えるのはいいけど、別に金にこだわるわけではない。
「これを考えたのは父さん……クラークが考案ということで広めてもらえるならいいですよ」
「ぶっ! 俺?」
食べているパスタを豪快に噴出したクラーク、汚いなあ。
「なんかこれでこのグレールでのお父さんの変な噂が消えたらいいなって」
俺が『クラークの息子です』なんて大声だして言えない街なんて嫌すぎるし、今の状態でクラークの息子とバレたら街中を歩けない。
これでクラークの噂が少しでもまともになってくれたらいいし、料理だったら大丈夫と思った。
「ラークーーーーーーー!!!俺のためにーー!」
バチン
ソースでベタベタになった口でキスしてきたから、とりあえず顔にビンタしてからよける。
「これは父さんのためではなく、あんな噂が街中に流れているなんて!僕が恥ずかしい思いするからだよ!」
「そんなぁーうっうっうっう」
泣いてるクラーク。
「へぇー天下のクラーク様も息子にはお手上げか!こいつは面白い!」
「なあっ面白いだろ、まるでシールとの関係に似ているだろ!」
ダムが関心して、マッシュがまるで見世物でも見ているような感じで言う。
ちくしょう!二人ともニヤニヤしてんじゃあねーよ!街のみんなから変な父親だと言われた気持ちわかるか!
俺にすがりつくクラークを無視して……。
「それでいいならもう一つぐらい料理を教えますよ」
イモを薄くスライスしてから水にさらして、水分を布巾でとってから油で揚げる。それとは別に短冊切りにしたイモも揚げる。
それらに岩塩をパラパラとふる。
はい、ポテトチップスとフライドポテトだ。
「「「「「うまーい」」」」」
みんながとり合うように食べる。
まあ酒にも合うし酒場だと受けるだろうな。
「クラークが考えたとは誰もが信用しないと思うけど、分かった。その条件でいいなら」
ダムも喜んでいるしこれで宿も立て直すだろう。
クラークの噂もこれでよくなるとは思っていないが、少しでもよくなったらいいなって程度で……。
まあ一番はこの宿がこのままつぶれたら気持ちが悪い。元々は俺がマッシュを引退をさせた原因であるからな。
もしかしたらということで、食事の後で奴隷商ギルドに連れて行って貰った。
まだ取引もされてないけどそっち関係の情報は少しでもあった方がいい。
クラークやマッシュに『子供が行っていい所ではない』と散々言われたが、俺としてはここで一人になるのも嫌だし連れて行ってもらった。
奴隷商ギルドに連れて行ってもらうと、思った以上にひどい感じだった。足に鎖を繋がれた人がたくさんいて、小屋の中を据えたにおいがたちこめていた。
奴隷は衛生状態もよくなく、ほとんどの奴隷が全裸だった。
中には俺ぐらいの歳の子供が多数いた。
表向きには
……確かに子供には見せたくない胸くそが悪い光景だ。
「お客様、今日は奴隷をお買い求めですが?それともお売りですか?」
30代ぐらいの身なりが整っている奴隷商が声をかけてきた。好色そうな目で俺を見ながら言ったので、クラークが殴りかかろうとした。
「ああっん」
「お父さん」
俺が手を握っていてよかった。ここで暴れられても困る。
「いやいや、ちょっと知り合いに頼まれて奴隷を探していてよ、最近売られた子いる?」
マッシュがこう切り出した。
基本冒険者はモンスターを狩ることが主な仕事だが、たまに人さらいとか誘拐された家族に依頼をされて奴隷を探すことがある。
「うーん最近はいないですね、在庫ばかりで」
大げさな手ぶりをする奴隷商、なんかむかつく。
「そっか近々入ってくる予定とかあるか?」
マッシュはそう聞き返すと。
「うーんそれはどうでしょうか……」
言葉を濁す奴隷商。
「いい情報ない?即金で買うからさ、ある程度は融通できるけど」
仕方ないって顔したマッシュは懐から100ギル銅貨を出して渡した。
「そういえば成人したばかりの女が、4人ほど入るとか」
成人したばかり?女!?リリスたちか!と、俺は怒鳴ろうとした瞬間に、クラークに膝の裏から軽く蹴られて倒れそうになる。もちろん手を握られているため倒れはしなかった。
俺がクラークを見ると目で合図してきた。いけないさっきの逆になっているな。
「そいつは、いつ入ってくる?」
「さあ……そうですね10日後ぐらいでしょうか?ご予約されます?4人でしたらそこそこしますよ」
手をすり合わせハエのようなしぐさをする奴隷商。
「まあ要相談だな、あまり高いと困るし、それと女以外はいなかったのか?」
マッシュはこう切り出す。
「いやいや女だけですよ、どれもすごく可愛い子ですよ」
奴隷商が他にはいませんアピールがすごくて怪しさ爆発だな。
つまりポポは売られないか、まだ金づるとして監禁するってことか?
どちらにしてもここに売られる可能性が高いな。
「そっか邪魔したな、またくるよ」
「いえいえ、いつでもお寄りください、よければここにいる奴隷もお買い求めください」
俺たちは
「旦那お願いします」
「なんでもします」
「買って」
「助けてください」
比較的に元気な奴隷が声をかけてくる。
奴隷たちも必死なのだろう。下手に長いこと売れなければ、森の中に捨てられると聞いた。
森の中に捨てる=魔物による死。
これが現実だ。
まだアピールもできない奴隷も何人いる。俺よりも歳の低い子供たちだ。
それはここに連れてこられたばかりなのだろう。目がうつろで空をを見つめている者もいれば、これからどうなるのかという恐怖でうずくまっている者もいる。中にはムチみたいなもので叩かれたのだろうか、背中の皮膚が裂けて傷だらけになっている奴隷もいた。
そして下半身に乾いた血がついた、俺と同じ年ぐらいの女の子が悲しそうに俺を見ている。
なぜそうなっているのかは、前世の知識で容易に想像できた。
「ごめん」
小さくつぶやく。自分が無力なのもわかるし、俺はなにもできない。例えば俺が奴隷商を殺して、奴隷を解放したらすむ問題でもない。
それをしたら、俺が奴隷商ギルドから追われる身になる。
これはこの世界の理だ。
下手な正義感では解決できる問題ではない。
「ラーク大丈夫か」
クラークが俺を覗き込む。
「大丈夫」
俺は吐きそうな顔しているのだろうな。やっぱりライトノベルとか漫画とは違い、実際に見るとひどく残酷に見えた。
正直、いい気持ちはしない。
「子供が見てもあんまりいいものではないからな」
マッシュはそう言った。
ちなみにマッシュの奴隷のモナは、胸に大きな傷があり、奴隷として売れなかったから廃棄処分されかかっていたところを、マッシュが買い取ってくれた命の恩人と、モナから聞いていた。
俺たちは宿に帰り明日に備えた。
ベッドに入っているとクラークが同じベッドに入ってきた。
「お父さん、一人で寝るから」
どんなに断っても入ってくる。
「久しぶりに一緒に寝たいから」
と言ってきた。
仕方がないので一緒に寝る。
でもさっきの光景がよみがえってなかなか寝られない。
奴隷ギルドにいるのは誘拐や人さらいで来た人ばかりではない。
親に売られてきた子供もたくさんいる。
それもそのはず、子供が一番の売り買いされている。
売るのは親がほとんどだ。
生活に困ると、まるで質屋に物を売るかのごとく我が子を売りに来るみたいだ。
なぜわかるって?……さっきの奴隷ギルドの入り口の看板にそう書いてあったからだ。
自分が恵まれているのが分かる。クラークがいてシールがいてみんながいる。
そしてマルトがどれだけ幸せな町かよくわかった。
奴隷商ギルドにいるよりは、何百倍もましだろう。
俺はふと考える。もし俺がクラークたち以外の元に転生していたら………。前世の親父みたいに俺に愛情がなく、実の親に奴隷として売られたらと思ったら怖くて震えていた。
するとクラークが俺を抱きしめて頭を撫でてきた。
「大丈夫だよ、お父ちゃんがラークを絶対に守るから」
ちくしょう変態のくせに、ここだけは父親らしいことしやがってと思いつつ……。
久しぶりに一緒に寝て、クラークの体温で安心して朝までぐっすりと寝れてしまった。
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