第十二話 旅立ちの前は心が躍る
レイナードの研究所まで戻る道すがら、ロザーリオは一人むっつりと顔を
「ったく……」
どうやら少し腹を立てているらしい。
「何ぷりぷりしてるの? 御礼がなかったから?」
「馬鹿言え。んなもん、どうだっていい」
横合いからの妹のからかいに、くすり、ともしない。
「何であれを使った、レイナード!?」
「な、何で、って言われても……」
とばっちりめいた唸り声に戸惑ってしまう。
「僕の治癒魔法だけじゃ助けられなかったんです。時間が足りなくって。それで――」
レイナードは言い訳を最後まで口にできなかった
「知られちまった――知られちまったぞ?」
「………………え?」
何のことだ?――一瞬、思考が止まる。
「あの時、お前が《
「そんな……あれはまだ……!」
「未完成、だろ?」
ロザーリオは代わりに言う。
「しかし、向こうにとってはそうじゃない。この村にだって魔法使いの何人かはいるし、野次馬の中にも見慣れない顔がいたような気がする。そうじゃなくっても、興味を持った奴がいるかもしれん」
「じゃあ、どうすればいいって言うのよ?」
「どうもこうも――」
その先は考えていなかったらしいロザーリオは被っていた鍔広の帽子を脱ぎ去ると、頭を掻いた。
「とっととイタレリアに行っちまえばいい。そうすりゃあ、小うるさい連中もわざわざ追っ駆けて来るような真似まではしねえさ。多分だけどな?」
「うん……」
弱々しいレイナードの微笑みを見て、その背中に喝を入れるようにロザーリオは、びしり、と叩く。
「心配そうな顔すんなよ、レイ! お前にはこの俺が――天下に名高い剣銃遣いのロザーリオ=ザ・ボウイ様が付いてるんだ! 大丈夫、問題ねえって」
「そうそう! こんな時くらい働いてもらわないと損よ、レイ?」
「おいおいおい……こんな時くらい、って……」
気色ばんで眉を顰めたロザーリオに、ヴァイオレットが、にひー、と意地悪く笑ってみせる。
「……ま、そういうことだな。が、今日はもう遅い。明日になったら運ぶ荷の最終のチェックをしよう」
「いよいよ明後日ね!」
ヴァイオレットは目をキラキラ輝かせて叫んだ。
「あたし、この三人で旅をするのが、ずっと、ずっと夢だったのよ! もう、わくわくしちゃう!!」
「遊びに行くんじゃないんですよ、ヴィー」
「野宿のテントも良い奴を買っといたぜ。ふかふかのマットレスもだ!」
「だから、遊びに行くんじゃないのに……」
けれど、大人ぶって口では窘めながらも、妙に心が浮き立つのはレイナードも同じだった。
ずっと三人は一緒。
いつまでも。
そう――思っていた。
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