幕間 Ⅱ

 最初に言い訳するようにメイベルは言った。


「今しばらく、私はこのまま動けません。ついでに言えば、意識が朦朧もうろうとしていてひどく眠いのです。ですので――言ってはいけないことも思わず口にしてしまうかもしれません。……いいですね?」


 何処までが真実で、何処までが嘘なのかは計りかねる科白だったが、それは主人たるレイ不在の今、ブリルにすべてを話すことを正当化するかのようだった。






 つまり、この先、嘘はない、ということだ。











 長い――長い話だった。




 いや、それは一つの物語。

 そして、いまだ終わらない残酷な物語だった。




「……」


 話を終えたメイベルは、最後にブリルと短いやり取りを交わした後、ベッドの上で目を閉じ横たわっている。その身体にそっとシーツをかけ直してやってから、ブリルは椅子の背もたれに身体を預けて天井を見上げ、震える溜息を吐き漏らした。


(真実――真実か……)


 あまりに考えることが多かった。

 まだぐるぐると思いが渦巻き、まともに整理がつかない。


(知らなきゃ良かった――そんな風には思わないわ。だけれど……)


 かと言って、知ることができて良かった――そう考えることなど絶対にできなかった。良い筈がない。






 少年・レイのこと。

 メイベルのこと。


 そして――彼らの旅の目的のこと。






(でも、この物語は終わらせないといけないんだ)


 ぎゅっ、と握る拳に力を込めて、天井を見つめる視線の先に真っ直ぐに伸ばす。


(たとえその先にハッピーエンドがなくったって、それでも進まないと――)


 けれども。

 それでも、つい、願わずにはいられなかった。


(レイ――そして、メイベル)

(ああ、神様、どうかこの二人をこれ以上苦しめないでください――)


 もう何年も、祈ったことなどなかったというのに――それでもブリルは神にすがらずにはいられなかったのだ。






 そして。

 長い話の最後に、メイベルはブリルにこう問うた。


『さあ、決めるのです、ブリル。ここから元の世界へ帰るのか、この先へと進むのか。……私はこれからしばし休まねばなりません。目覚めた時、貴女の姿がここになければそうだと受け取り、追いはしないとお約束いたします。ただし……ここで耳にしたことを他人に告げることだけはお勧めしません』


 そう言ったかと思うと、ブリルの返事も聞かず目を閉じ、メイベルは今もそのまま眠り続けている。その顔にかかった一筋の髪を優しく掻き除けてやりながら、ブリルは苦々しく顔を歪めた。


(ここであたしができることなんて何もない……)

(だから――)


 もう、ブリルの答えは決まっていた。






 選択肢は――なかったのだ。











 夜風が頬を撫でる。

 もう行かなければ。


「……」


 瞬く星々を見つめ、ブリルはもう一度、メイベルの語った物語を思い返すのだった。



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