第13話「合流」
剣崎は進みながらヘッドセットに繋がるPTTスイッチを押す。
「
『迫撃砲の支援射撃が止んで敵は攻撃を停止。集結中。攻撃許可を』
「待て。お前たちはそこで監視を続行しろ。我々は空港に前進する。援護しろ」
『了解』
山城以下、八木原、久野、的井の四名は引き続き敵に露見しないよう周辺を監視された。
「IRストロボを焚いて前進する。位置が分かるか?」
剣崎は前を進んでいた大城のAIRFRAMEヘルメットに備わるHEL-STAR6 IRストロボのスイッチを入れ、屈んで後ろに続く野中に自分のIRストロボのスイッチを入れさせた。
『確認した。援護する。道路上に敵影なし』
「了解。前進するぞ」
『進め』
剣崎は手信号で合図を出す。西谷と坂田を先頭に隊員達は前進。空港へと接近した。
「野中、空港の
「了解。どうぞ」
野中はプレートキャリアの左脇に携帯無線機を身に付けた上でマンパック型の長距離無線機を背負っている。長距離無線機に繋がった送受話器を渡された。
「バンドン誘導隊、こちら偵察分遣隊。現在空港手前百五十の位置。IRストロボを焚いている。こちらを撃つな。送れ」
『偵察分遣隊?──こちらバンドン誘導隊!了解した!空港西側に多数の敵!現在も交戦中!送れ』
「了解。南側から接近し、敵を攻撃する。終わり」
道路を外れ、空港の南側に北上する。民兵の集団は突撃の勢いは失ったが、その場に踏みとどまって空港に向かって射撃している。非武装だが、民兵たちを支援するために弾薬を運んでいる者もいた。
大騒ぎをしていてお祭り騒ぎだ。音楽を流して戦意を高揚しようとしている者もいる。
「横に広がれ。……バンドン誘導隊、
『こちらバンドン誘導隊、佐々木二尉だ。IRストロボを確認した。敵の迫撃砲の火制範囲に空港は位置している。注意せよ』
「敵迫撃砲は破壊した。これより敵を攻撃する」
剣崎の手信号一つで九名の隊員達が一斉に射撃する。小銃の単発連続射撃に機関銃の短連射が民兵達に音速の銅披甲徹甲弾を叩き付ける。
民兵たちは思わぬ方向から銃撃を浴びて浮き足立った。すぐに逃げ出そうと後退を開始する。空港の中央即応連隊の隊員達と偵察分遣隊はその背中に向かって容赦なく撃ち込んだ。
「敵は後退した。空港で合流する」
『了解』
後方を山城たちに警戒させ、剣崎達は空港の敷地内に入った。
空港の正面は空港の車輛を使って塞がれ、バリケードが幾重にも設置されていて中央即応連隊の隊員達が配置についていた。
空港を守っていた隊員達は剣崎達を見て歓声を上げた。バリケードを潜ると佐々木二尉と岸野三尉が剣崎達を出迎える。
「よく来てくれた」
「状況は?」
「死傷者が出ているが、邦人は無事だ。どうやってここまで?」
「郊外まで車両だ。期待させて悪いが、我々だけだぞ」
「とんでもない。心強いよ。迫撃砲を潰してくれて本当に助かった。立ち話もなんだ、ロビーに行こう」
佐々木に連れられ、フセイン・サストラネガラ空港のターミナルビルの中に入る。小さな地方空港の建物には無数の弾痕が刻まれ、激しい戦闘を物語っている。
「宮澤、空港の防衛態勢を確認しろ。古瀬は狙撃位置を占領し、警戒監視に当たれ。負傷者は?」
「会議室に集めている」
「板垣、負傷者の手当てに手を貸せ」
佐々木は剣崎が有無を言わさず指示を飛ばしていく様子に圧倒されていた。迫撃砲陣地を破壊し、空港までやってきた偵察分遣隊の隊員達に休んでもらうつもりだったが、剣崎には関係なかった。
空港内を歩きながらも剣崎は指示を出す。隊員達は休む間もなく空港の各地に散っていった。現地のお茶を飲みながら状況を説明される。
「敵は主に南側と東側から。西側はインドネシア空軍基地だが、兵士は誰も居ない。弾薬があったので回収して分配している。北側は滑走路を突っ切る必要があるので来たとしても狙い撃ちに出来る。東側は航空学校の建物にも分隊を置いていたが、孤立する危険があったのでターミナルビルに戻した」
「北側はこっちの狙撃手に監視させ、東側と南側の重要な位置にうちのを配置につける。北で燃え上がっている建物は?」
「ショッピングモールだ。到着した時から燃えてる」
「了解。助けが来るかは分からないが、協力してこの空港を死守しよう」
「やはり救援の見込みは立っていないのか」
「護衛艦が向かっていてヘリを飛ばしてくれるかもしれない。民間人を連れて陸路をジャカルタまで行くのは無理だろう。民間人は?」
「この建物のラウンジに集めている」
「空港に敵の侵入を許したときの脱出経路を確保しておいてほしい」
「分かった」
「配置につく」
剣崎はそう言って空港の管制塔へ向かった。管制塔では狙撃手の古瀬一曹がSR-25狙撃銃を構えていた。古瀬はヘルメットではなくブッシュハットを被り、首にベールを巻いていて椅子に座って楽な姿勢で構えている。通常狙撃手は二人一組で行動するが、相棒役の観測手である的井二曹は
「北側は暗視装置の必要もありません。派手に燃えてます」
剣崎の方を振り返らずに古瀬は言った。高等工科学校出身で叩き上げの古瀬は過去には豪州陸軍主催射撃競技会で日本代表として参加し、優勝した経験も持つエーススナイパーだ。集中力は誰よりもあり、冷静沈着な性格だった。
「北側の監視は任せる」
古瀬にそう言い残して剣崎は次の場所へ向かう。負傷した中央即応連隊の隊員達が集められていた。重傷者もいて、板垣が手当てに加わっている他、民間人の若い女が一人、それを手伝っていた。
「直ちに後送が必要か」
「救急救命士としての見解では。もって四時間です」
板垣が言った。
「持たせろ。手当ての目処がつけば板垣も防衛線に加入だ」
「了解」
ターミナルビルの屋上で東側を監視している中央即応連隊の隊員に交じって大城と海保がいた。
「敵の動きは?」
「車輛の移動を確認。いつ来てもおかしくないですね」
大城が答えた。
「手榴弾を投げる時は注意しろ」
「……了解」
続いて南側だ。正面に道路が伸びていて路上には死体が何体か転がっている。那智の他に坂田や司馬、西谷が配置についていた。
「敵が来るとしたらこの方向だ」
「車に戻って
那智が尋ねた。重量物は車に残してきていた。対戦車火器が必要になる可能性もまだ残っている。ジャマ・イスラミアはインドネシア国軍の装備品を多数鹵獲していた。
「OPにいる組に回収させる。空港は監視されているはずだ」
「了解」
剣崎も双眼鏡で空港の周辺を見渡した。暴徒が闊歩しているエリアもあれば住民が日常生活を続けているエリアもある。インドネシア国軍の航空機は一機も飛んでおらず空は静かだった。
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