第7話 会えたのは、不変な運命

そして朝が来る。お婆さんが言っていた通り、忙しい日となった。


「なんも手伝えなくて悪いな。」


昼も過ぎ、喜びと悲しみがある夜に向けてお婆さんは料理をしていた。


オオカミは流石に料理は出来ないので、ただ座って本を読んでいる。途中食材を運んできた町の商店街の人達から隠れるために暖炉に入ったくらいだ。


『オオカミさん。あなた、自分の人生を変えられました?』


いつの間にか料理を止めたお婆さんがオオカミの前に言葉を見せる。


「どういう意味だ。」


『そのままの意味よ。』


「知っているのか俺のことを。」


『何かを変えようと必死だったもの。病気の私の前を覗き込んだ時は。』


「そうかい。それなら変わったさ。元々は婆さんも赤ずきんも食って狩人に殺される人生だからな。」


『頑張ったのね。』


オオカミはお婆さんとの会話に違和感を見た。全てを見透かされているような、何もかも知っているような、オオカミの復活の秘密までも知っているような。


『これからどうするの。』


「ああ。幸いにもここでの生活のおかげで人間の食い物も食べられる様になったからな。山の向こうの町付近で暮らすつもりだ。あそこは農家や畜産は少ない漁業の町だから敬遠していたが、今の俺なら人間のいる町ならどこでも大丈夫だ。」


お婆さんはその返事を聞くと再び料理に取り掛かった。


「俺の方からも1つ質問させてくれ。」


オオカミは1つどうしても気になることがあった。


「俺がやり直した人生で赤ずきんは婆さんに話しかけていた。つまりあっちの人生では婆さんは喋れているんだ。」


オオカミが人生をやり直しても登場人物の基本設定は同じだった。赤ずきんのタイミングも、持っているアップルパイも、狩人のタイミングも。


「声が出なくなったのはいつから、どうしてなんだ。」


『私が声が出ないのは生まれたときからよ。でも別の私は声が出ていたのね。だったらきっと声が出ないのはこの私の運命なのかしらね。』


オオカミはそのお婆さんの返時を見て、あることに気が付いてしまった。


今回の人生の間で忘れていたことを思い出した。


オオカミはある言葉を反芻してからお婆さんに答える。


「いや違うな。俺が何度やり直しても、どんな行動をとっても、運命に定められている部分は変わらないんだ。」

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