第6話 夜は儚し、恋せよ少女
「ねぇオオカミさん。」
夜も更けたが、月明かりが差し込み部屋は明るくなったころ、赤ずきんはオオカミを呼んだ。オオカミは返事をしない。
しかし赤ずきんは続けた。
「私ね、オオカミさんを好きになっちゃったかもしれない。」
オオカミは返事をしない。しかし赤ずきんは続けた。
「小さいころ、お母さんに聞いたの。どうしてお父さんと結婚したのかって。」
オオカミは返事をしない。しかし赤ずきんは続けた。
「そしたらね『この人と離れたくないって思ったから』って言ってた。今の私もおんなじ気持ち。」
オオカミは返事をしない。しかしオオカミは気が付いている。赤ずきんのその想いは
無駄であることに。
「でも分かっているの。オオカミさんがこの家にいちゃいけないことも。オオカミさんのことを好きになってもダメなことも。」
赤ずきんも気が付いていた。自分の想いが無駄であることに。
「私、今すごく悲しいの。オオカミさんと会えなくなることが。あの日オオカミさんにパイをあげなければ、お婆さんの看病を頼まなければって思っちゃうの。」
オオカミにとってはあの日のあのパイが人生を変えたと言ってもいい。実際あのパイが無ければ赤ずきんもお婆さんもオオカミに食べられている。あのパイは赤ずきんとお婆さんの人生も変えているのだ。
「嘘よオオカミさん。私はオオカミさんに会えて良かったとしか思っていないわ。だって私の毎日が変わったもの。ありがとうオオカミさん。」
ありがとう赤ずきん。自分勝手に生きることしかしてこなかった俺が、最後に誰かのためになることが出来て良かった。オオカミはそう言いたかったが、赤ずきんの泣き声が聞こえたので言葉を飲んだ。
「ごめんなさい。明日、必ずオオカミさんを笑顔で送り出すから。」
赤ずきんの泣き声が寝息に変わっても、森の中の小さな家には泣き声が微かにあった。
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