第4話 狼と同じ屋根の下

「しっかしまぁオオカミと一つ屋根の下で暮らすとはねぇ」


なぜか赤ずきんから信頼を得たオオカミはお婆さんの家で2日過ごした。


自分がいない間お婆さんの面倒を見て欲しい、と赤ずきんに頼まれたのである。

なお赤ずきんは森の外の町で下宿しているためここにはいない。夕刻になるとお見舞いに訪れている。


『私も赤ずきんも助かるからねぇ。それにあなたも狩人に狙われることは無いでしょ。』


声の出ないお婆さんは紙に書いて答える。


「そういや婆さん、気になっていたんだが、なんで赤ずきんとは筆談しないんだ。」


『あの子は字が読めないのよ。』


「あ?学校に行ってる年齢だろ?」


『両親が死んでしまってね。父親のリンゴ園で働いているのよ。』


オオカミは複雑な表情をした。赤ずきんの生活はかなり困窮しているようだ。加えてお婆さんの看病もとなればオオカミの手も借りたくなるものである。


「俺の親も早々に死んじまったが、生きる知恵だけは叩き込まれた分恵まれてんだなぁ。」


ガチャ


ドアが開いて赤ずきんが駆け込んでくる。

時計は午後4時ごろを指している。通常ならば学校が終わり自宅へと戻ってくる時間。この少女にとっては終業し帰宅した時間というところであろう。


「お婆さん元気になった?」


「ああ順調に回復しているぜ。あと3日もすりゃぴんぴんだろうな。」


オオカミは答える。


その答えで笑顔になった赤ずきんはベッドサイドに腰掛ける。


オオカミは3回の人生と今回の人生で3日間赤ずきんを見てきた。確かに見た目よりかなり幼い。それもやはり教養の欠如と不十分な生活による成長の遅れが原因であろう。


「お婆さん、早く元気になって新しいお料理教えてね。」


オオカミはここで1つ気が付いた。

この少女は文字の読み書きは出来ないが会話は普通に交わせる。アップルパイを含めこの家で何度も料理をしていた。そして何より狩人に対して嘘を伝えたり痕跡を消したりと、頭の回転の良さも見せていた。非常に賢く学習能力が高いのでは、と。


「なぁ、赤ずきんと婆さん、俺から1つ提案があるんだが。」


オオカミは早速自分の考えを提案する。上手く転がればここにいる2人の生活を変えることができるかもしれない。


「俺が赤ずきんに文字を教えようと思うんだ。俺も完璧とは言えないが、狼は人間と共存してたからな、ある程度は教えられると思う。」


この提案に赤ずきんもお婆さんも迷うことは無かった。


「ホントにオオカミさんが文字を教えてくれるの!」


『声の出ない私じゃ教えられなかったからね。是非お願いするわ。』


「あ?声が出ないのは風邪だからじゃないのかよ。」


「お婆さんがお話できたらお婆さんから教えてもらっているに決まっているわ。こんなことも分からない先生で大丈夫かしら?」


調子に乗った赤ずきんにオオカミが噛みつく。森の中の小さな家に笑顔があふれた。

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