第3話 窮鼠は猫を噛むが窮狼は何も噛まない
オオカミが目覚めたのはお婆さんの家の前であった。そして目覚めると同時にオオカミの腹がぐぅ~と大きく鳴った。
「あ~あ。もうラストチャンスかよ。もしかしたらここで殺されるのが定められている運命の部分なのかなぁ。」
オオカミは諦めたように空を見上げた。
「そういや、母ちゃんは『狼と人間は共存していた』って言っていたな。最後ぐらいは人助けをして殺されるかな。そうすりゃ母ちゃんも許してくれるだろ。」
「あらオオカミさん。こんにちは。こんなところでどうしたの?お婆さんに何か用事かしら?」
ちょうど赤ずきんがお婆さんの家に到着した。辺りにはシナモンの香りが漂う。
「いや。そんなことより婆さんは大丈夫なのか。」
オオカミはここまでのリトライからお婆さんが病気であることは把握できている。
「そうなの。何日も熱が酷くて寝たきりなの。いつになったら治るのかしら。」
赤ずきんは困ったように眉を下げた。この表情から目の前の少女がとても心優しい少女であることをオオカミは悟った。
「そのアップルパイを食わせてやるといい。シナモンは発熱に有効だし、食欲も増進するからちょうどいいんじゃないか。」
「まぁ!オオカミさんって物知りなのね!よかったらお婆さんの様子を見てくれないかしら。もしお薬が必要なら何とかして用意しなきゃいけないわ。」
オオカミの返事を待たず赤ずきんは家の中にオオカミを引きずり込んだ。
家の中に入るとお婆さんは苦しそうに咳き込んでいた。
「何日も前からこんな様子で……」
オオカミはお婆さんの様子を覗き込んだ。お婆さんは狼がいることに気が付くと驚いた表情を浮かべた。そりゃ孫が来ると思いきや一緒に狼が見舞いに来れば驚くに決まっている。
「あぁそうだ赤ずきんちゃん。1つ頼まれてくれないか。」
オオカミは思い出したように赤ずきんちゃんに声をかけた。
オオカミと赤ずきんが出会ってからある程度の時間が過ぎた。そうすると訪れることが1つある。
「もちろんよ。困っている人がいたら助けるのは当たり前よ。」
オオカミはこの心優しき少女に賭けてみることにした。
「たぶんもうすぐここに狩人が来るんだ。俺を狙っているらしい。ここにはいないって言ってくれないか。」
「オオカミさん狙われているの?」
「狼ってだけで狙われるもんなのさ。悪いことなんて1つもしてないのに。」
オオカミは少し悲しそうに答えた。
「分かったわ!任せて!外で狩人さんを待っていればいいのね。」
赤ずきんはそう言い放つと外に飛び出していった。勢いよく閉まったドアの音が、お婆さんとオオカミ2人きりの家に響く。
「あ!オオカミさんの足跡も消しておかないと!」
赤ずきんの声が外から聞こえる。
「婆さん、安心してくれ。俺は人間は食わないからよ。人を食うと狩人に殺されるもんで。」
オオカミはお婆さんの怯える表情に気が付き言葉をかけた。お婆さんがその言葉で安心したのかは分からない。
「んで病気だが、鼻はどうだ?結構辛そうだな。飯は食えるか?」
オオカミはお婆さんの声が出ないことに気が付きYes/Noで答えられる質問を投げかける。
「飯は食えるのな。飯食う時に喉は痛ぇか?そうか。痛いけど飯は食えるくらいなのな。んじゃただの風邪だろうな。」
オオカミの妙に的確な質問に答えるうちに、お婆さんも安心した表情になっていっ
た。
「オオカミさん!大丈夫だったわよ!向こうの山の方から声が聞こえたって言っておいたわ!」
赤ずきんがドヤ顔を携え戻ってきた。
機転を利かせて嘘までついたことを褒めて欲しいようだ。その誇らしげな顔をみてオオカミをお婆さんも微笑んだ。
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