第41話 決戦
朝鮮半島、北朝鮮日本海沿岸
『シエラ01より
偵察分遣隊が配置についた漁村の外に北朝鮮軍の自動車化部隊が近づいていた。北のゆるやかな斜面に続く道路のカーブにそれは姿を現す。
先頭は四輪に見えるが、実は引っ込んでいる四つの補助輪を持ち、KPV 14.5mm重機関銃とPKT 7.62mm機関銃を装備する砲塔を備え、四名の乗員が乗り込むソ連製BRDM-2戦闘偵察車。その後方に全長七・五メートルほどの装甲化された八輪のコンバットタイヤを備えた車体にKPVT 14.5mm重機関銃と同軸にPKT 7.62mm機関銃を装備した砲塔を乗せたBTR-60装甲兵員輸送車、そして中型トラックなどが続く。
「来たぞ」
隣に伏せる板垣が生唾を飲み込んだ。那智はベルトリンクに繋がれた7.62mm×54
しかし慣れない照門照星を覗き、この視準規正が合っているのかが不安だった。
村人にも協力させて土塁を積み、小銃掩体に近いものをいくつか作っていた。敵は警戒しているが、それは上空に対してだ。散々空爆を受けて苦しめられているせいだろう。
「生きて日本の土を踏め、か」
那智は剣崎の言葉を思い出して呟いた。本当に踏めるかどうかはあとは実力というよりも運次第だろう。正規軍同士の戦争は性に合わない。
「国に帰りたい、帰ったら結婚するつもりだったんだ」
板垣の言葉に那智はゴミでも見るような目を向ける。
「このタイミングで言うか、普通」
「生きて帰るつもりだからな。死亡フラグをへし折った男だと帰り道で笑い話にしてくれ」板垣はそう言って笑う。「那智には浮かれた話はないのかい」
「二人とも死んじまうぞ」と那智はぼやきながら渋々語り始めた。
「別れた人がいる。まだ未練が残ってるんだが、向こうは俺のことなんて忘れているんだろうな」
「どうだろう。この事態だ、きっと心配しているさ」
そう思いたいが、それは願望に過ぎない。
「いや、きれいさっぱり忘れていてくれた方が良い。死んでも心に響かない程度に」
「ここで死んでも新聞には数字にしかならない。絶対に帰らないと」
板垣はそう言ってMk17ライフルの槓桿を引いた。那智も背中に背負った89式小銃を下ろすと一度弾倉がしっかりと込められているか点検して槓桿を軽く引いて初弾が薬室内に収まっていることを確認した。
準備をする間に交替で武器を分解整備しており、久しぶりに溜まっていたカーボンなどの汚れを落とし、注油をしてある。これまでの過酷な戦闘中もぐずらなかった自分の相棒がこの戦闘でも言う事を素直に聞いてくれることを那智は祈った。
「うまくいってなかったのかい?」
「まだ続けるのか、敵は近いぞ」
那智は先頭のBRDM-2との距離を目測しなおした。間もなく五百メートルラインを越えようとしている。敵の規模を数えたり、その装備を確認していたが、正直勝てる気がしなくなる。
「余裕を持たないと」
板垣はにっと笑った。那智は仕方なく話を続ける。
「……自分では尽くしているし、相手の気持ちを考えて彼女を最優先にしてきたつもりだった。でもいろいろな所で実はすれ違いが起きていたみたいで、俺がそれに気付けなかった。俺よりも大切にしてくれる人を見つけたんだ」
言っていて悲しくなりながらも那智は過度な緊張をせずに敵部隊を見ていられることに自分でも驚いていた。
恋人に怒りは湧かなかった。ただ自分を納得させることに苦労しただけだ。ゆくゆくは結婚したいと真面目な交際をして、家族にも挨拶をして足場も固め、彼女の交友関係にも配慮してきた。それでも彼女は那智に足りない何かを、その男に見出したのだろう。
「男なら取り返せよ」
「相手は幼馴染なんだそうでね。まあ、彼女も俺なんかには勿体ない良い人だったんだ」
言っていて那智は溜息を吐いた。本心ではないことを口に出しているのは分かっていた。本当に誠実な男なら彼女の幸せを思って素直に身を引ける。だが自分は日本を発つその時まで、連絡を心のどこかで待っていた。
「生きて帰ったら、もう一度会いに行けよ」
「……生きて帰れたら連絡ぐらいはしてみるよ」
BRDM-2は間もなく
『点火と同時に攻撃を開始する。今から日本へ帰れるまで、お前達には休むことを禁ずる』
剣崎の声が無線を通して耳に届いた。
『了解』
野中が剣崎の冗談に淡々とした声で応答した。那智はふっと笑みを浮かべる。
『敵が爆点に進入する。始めるぞ』
坂田の声が無線に響いた。いよいよだ。
「ガッキーさん、ここまでありがとう」
「やめてくれよ。それこそ死亡フラグだ」
『点火』
坂田の声は爆発音で掻き消えた。BRDM-2が指向性を持たせたC-4高性能爆薬の爆発によって下から突き上げられ、横転する。さらに二発目の爆発が起きた。中型トラックのフロント部分が爆発で弾かれ、車体をへしゃげさせて地面に叩きつけられた。
続いて68式7号発射管ことRPG-7対戦車弾を大城が発射し、破壊されたBRDM-2と中型トラックの間にいたBTR-60の車体を直撃する。BTR-60の車体から炎が噴き出し、ハッチが吹き飛んだ。中型トラックの後続の車両も西谷の放った40mm擲弾の直撃を受けてキャブが吹き飛ぶ。後続の車列は急停止し、慌てて後退したり、車両から兵士が飛び降りた。
「撃て」
激しい銃声が鳴り響いた。北朝鮮軍から鹵獲した武器を各人手にしており、激しい銃声と共に緑色の曳光弾が時々飛ぶ。那智もまた82式軽機関銃ことPKM機関銃の引き金を引き、強力な7.62mm弾をばら撒く。
撃ち続ければあっという間に弾薬も底を尽き、精度が期待できないため、機関銃の射撃は三発ほどの連射を繰り返すように短連射で行う。それでも発射煙や銃身の熱で狙っている目標が見えにくくなった。
短連射で銃弾を浴びせた先で北朝鮮軍兵士のヘルメットが吹き飛び、兵士が大の字になって倒れる。その隣を横に向かって走っていた兵士に向かって那智は射撃し、その兵士は煙の中でいつの間にか倒れていた。
那智はさらに銃弾を浴びせた。薬莢が排莢口から打ち出されるような勢いで次々飛び出し、足元で金属音を鳴らす。5.56mm弾よりはるかに大きな弾は空薬莢も重かった。自衛隊の機関銃とは異なり、ベルトリンクは分離することなく、反対側に垂れ下がっていった。硝煙の臭いにむせ返りそうになりながら撃ち続ける。探す必要がないほど目標は事足りていた。
那智達に向かって曳光弾が飛び、銃弾の擦過する音が鋭く響く。そちらに銃身を向けて短連射で十五発ほど牽制の制圧射撃を撃ち込むと、PK機関銃を持った兵士の肩が撃ち抜かれ、機関銃を連射しながら倒れた。
トラックを飛び降りた兵士達が、道路沿いの畑に広がろうとしてもたついている。住民に協力してもらい、この時期にはないはずの水を棚田に流し込んでおいてもらったため、道路を挟む畑は泥濘化しているのだ。
兵士達が泥に足を取られたところを次々に撃つ。
こちらに向かって放たれる弾丸の数よりも倒れる敵の数の方が多い。敵は突然の攻撃に対応できず、逃げまどっている。北朝鮮軍の士気は低かった。
『攻撃の手を緩めるな。敵は我の戦力を過大評価している』
剣崎が無線で呼びかける。那智達は一歩も引かずに撃ち続けた。
「擲弾、発射!」
西谷の声がして、道路を挟んだ反対側の斜面を見下ろす柵の位置から40mmグレネードランチャーの軽い発射音が聞こえた。後退しようとしていたトラックの荷台に40mm榴弾が吸い込まれて炸裂し、トラックに乗り込んでいた兵士達は動かなくなったが、トラックは猛スピードでそのままバックしていった。
「映画やゲームみたいになんでも爆発する訳じゃないな」
Mk17を撃ちながら板垣が言った。那智は答えずに機関銃を撃ち続けた。那智はベルトリンクに繋がれていた最後の弾を射耗すると新しいベルトリンクを手に取った。
「装填!」
「カバーする!」
板垣は北朝鮮製AKMである68式自動歩槍を手に取り、短連射で射撃する。その間に那智は遊底覆いを開けて弾を撃ち尽くしたベルトリンクをどけて新しいベルトリンクを乗せ、初弾を噛ませて遊底覆いを閉じる。
「敵は後退中!」
『追撃は五百メートルラインまでだ、弾薬を無駄に消耗するな』
那智は一度、双眼鏡に持ち替えた。機関銃を撃ち続けたせいで肩が痛み、腕がしびれている。耳栓も耳にねじ込んでいたが、耳鳴りがした。
逃げる兵士達が再び戻って来ようとしている。将校らしき男が兵士達を半ば脅して前に進むよう叱咤していた。
「敵の政治将校が兵士を戦場に戻している。狙撃しよう」
那智が言うと板垣は頷き、68式自動歩槍の弾倉を交換してからMk17を手に取り、目標を探し出す。
「一時方向、中型トラックとジープの間にいる制帽の男だ」
「確認。狙撃する」
板垣が射撃した最初の弾は外れたが、セミオートマチックのMk17は次弾も早く、二発目は将校を撃ち抜いていた。
「よし」
「そのまま指揮官と思われる敵を撃ち続けろ」
那智はそう言って82式軽機関銃を構え直すと自分の標的を探す。車列の後方にいたBTR-60が前に出ようと動き出した。砲塔の14.5mm重機関銃が銃火をこちらに向かって浴びせてくる。強力な82式軽機関銃を凌駕する砲撃のような銃声が連続して鳴り響き、太い緑色のアイスバーのような曳光弾が飛んでくる。
「凄い」
「言ってる場合か。BTRが来るぞ」
装甲車は砲塔の14.5mm重機関銃で大口径の機関銃弾をばら撒き続けていて漁村は銃火の嵐に晒された。角度的に漁村の中心まで蹂躙することは無いが、傾斜変換線の斜面は耕されて土嚢も吹き飛ばされる。
味方の陣地よりRPG-7が発射された。撃ち下ろしで発射されたRPG-7の成形炸薬弾は装甲車の左前輪のタイヤを軸ごと破壊したが、車両の破壊にはならず、BTR-60はその場に擱座して重機関銃を撃ってくる。
「あのパンチ力はヤバいぞ」
那智達の射撃していた位置にあった木の柵が木っ端みじんに砕け散って頭上を通り過ぎた。
そのBTR-60の周りに兵士が集まって射撃してきていた。那智達の位置にも無数の銃弾が浴びせられる。たまらず那智と板垣は頭を下げたが、少ない頭数であれだけの敵を抑えるには頭を引っ込めている訳には行かなかった。
「撃ち返せ」
恐れを捨て、とにかく戦うしかない。敵はろくにスコープも付いておらず、反動の強烈な小銃で二百メートルほどの距離からとにかくばら撒くように撃っている。当たるときは運が悪かった時だ。
那智は82式軽機関銃を構えると頭を出して照門内に敵を見出し、照星を重ねて引き金を引く。激しい反動が肩を蹴りつけ、機関銃が弾丸を吐き出していく。
途端に那智目がけて射撃してきた兵士達の曳光弾が頭上を通り過ぎた。空気を切り裂く音が聞こえてくる。頭を引っ込めたいという欲求を押し殺して撃ち続ける。
泥沼の棚田で次々に泥の柱が上がってその先にいた兵士達が泥飛沫の中に消える。
敵が横隊に展開して自動小銃を激しく連射しながら近づいてくる。その北朝鮮軍兵士を偵察分遣隊側は機関銃は連射し、小銃は単射で狙い撃つ。漁村内の光源は断っている。逆に敵は炎上する車両等によってはっきりと晒され、暗視装置無しでも狙い撃てた。
那智はさらに道路を這って進んでいた兵士達に向かって射撃する。土煙が上がり、その煙の中で数名の兵士が血塗れでもがいていた。
破壊された車輛の傍に向かって走り出した兵士達に銃撃を浴びせると、三人、四人と自分の放った弾丸に次々に斃れていく。彼らは何のために戦っているのだろうか。祖国防衛のため?将軍様を守るため?家族のため?
自分達はシンプル。生き残るため、そしてこの村の住民を守るためだ。
『敵集団先頭、百メートルラインに入った』
古瀬が告げる。敵は歩兵を先頭に後方からBTR-60を前進させてきた。土嚢を積んだ掩体で大城が立ち上がり、RPG-7を発射する。発射したRPG-7が前進してきたBTR-60の車体前面に直撃して炸裂する。そのBTR-60と擱座したBTR-60の14.5mm重機関銃が連続して火を噴き、大口径の機関銃弾が大城のいた位置に殺到した。
「大城3曹!」
思わず板垣が叫んだ。那智もひやりとするが、当の大城が泥まみれになって掩体の後ろから這い出してきた。
「こりゃたまらん、予備陣地に下がりますわ」
大城はそういうと敵に向かって発煙手榴弾を投げてから後ろに下がった。
『先頭集団、突撃破砕線に入った』
再び古瀬が告げた時、村の西側の陣地から激しい連射音が鳴り響いた。鹵獲した14.5mm重機関銃を据えた射撃陣地に移動した宮澤1曹による突撃破砕射撃だ。村に向かって射撃していた敵の真横から大口径の曳光弾が殺到し、なぎ倒していく。兵士の中には腕を千切られた者や、腹を裂かれて内臓をまき散らした兵士もいた。さらに敵は地雷による足止めを食らう。これも鹵獲した武器だった。
何事か兵士が叫んで下がろうとしたが、それを後ろから撃つ者がいた。
「仲間を撃ちやがった」
「政治将校の類だろう、撃て」
板垣がすぐさま撃つ。仲間を撃った士官らしき兵士が撃ち倒され、その周囲にいた兵士達は逃げ出した。しかしまだ向かってくる兵士の方が多い。
『最期の車輌が村を離脱。非戦闘員は全員脱出した』
無線に近藤の声が乗る。
村の住民は、準備が整い次第、村を守っていた兵士達が運転する車で捕虜と共に村を脱出させる手筈だった。村の反対側から住民が乗り込んだトラックなどが発進し、逃げ出していく。偵察分遣隊と交戦する北朝鮮軍が、避難民と交戦することは無かった。彼らが脱出する時間は最低限稼げた。
「ここからだな」
「くそ、家に帰れよ」
大城のRPG-7の攻撃を受けたBTR-60はいつの間にか動きを完全に止めたが、擱座していた筈のBTR-60が今度は動き出した。14.5mm重機関銃の砲塔を旋回させて突撃破砕射撃を行う宮澤の方向を狙おうとしている。
「宮澤1曹!BTRが!」
宮澤がBTR-60に向かって14.5mmKPV重機関銃を連射した。太く緑色の曳光弾が双方飛び交い、激しい射撃の応酬が繰り広げられる。重機関銃はPK機関銃よりも強力で、人体など容易くバラバラにしてしまう。同僚がミンチにされて恐慌状態になった北朝鮮軍の兵士は慌てて逃げ出したが、どちらかの弾を受けて倒れる。村の北側には無数の北朝鮮軍兵士の死体が散乱していた。
宮澤の射撃がBTR-60に達し、BTR-60の車体で次々に弾丸が爆ぜて時折弾かれて頭上に向かって打ち上げられた。跳弾も兵士を殺傷している。
BTR-60も撃ち返していたが、砲塔を向け切る前に車内の兵士が貫通した弾を浴びたらしく、砲塔の重機関銃は沈黙する。
さらに宮澤はBTR-60に向かって重機関銃の射撃を浴びせ続けた。敵が発煙弾を発射し、棚田に煙幕が張られる。
『敵の一部、村の東側に向かって展開を開始』
『対戦車火器をそちらに振り分けろ』
古瀬1曹の報告に剣崎が素早く指示する。
『今、向かいます』
息の荒い近藤がそれに答える。近藤はRPG-7とその弾薬を持って村の西から東へ走りまわっていた。
東側は荒れた斜面になっていて車両での突破は困難だが、徒歩兵なら十分接近できる。
敵は村をL字砲火で攻撃しようとしている。村の東側の漁港方向に展開しつつある敵に向かって機関銃に持ち替えた大城が射撃し、数名をなぎ倒す。
北側の敵も対戦車擲弾を発射し、攻撃してきた。榴弾が前線の陣地近くに着弾して炸裂し、土が飛び散る。敵は対戦車擲弾を持った兵を並べてつるべ撃ちしてきた。さらに後方より重機関銃が次々に火を噴き、火線が伸びてくる。目の前の土嚢が木っ端みじんになって土塊をまき散らし、思わず那智と板垣はうわっと声を上げた。
アイセフティをかけていてよかった。口に入った土を吐き出しながら再び顔を上げて射撃するが、銃弾が殺到し、顔を上げられなくなった。敵がもう射弾を集中できるほど近づいている。
北側は東側と挟みつつ、人数と火力でゴリ押しするつもりだ。
「
伏せていた掩体を出て第二陣地になる次の地形変換線となっている斜面へ走る。丸太を転がした粗末な階段を登って急斜面を駆け上がり、その先にあった道路上に伏せた。
道路の斜面側には土嚢が積まれていて、簡易的な防御陣地になっていた。そこには82式軽機関銃の最後の予備弾薬のベルトリンクが二束と68式自動歩槍とその弾倉を事前に配置していた。
那智は82式軽機関銃を土嚢に据えて短連射し、那智達のいた地形変換線に現れ始めた北朝鮮軍兵士に火線を張る。
やっと泥に足を取られながら棚田を越え、村の中に入ろうとしていた兵士達が撃ち抜かれて棚田に転がり落ちていく。
不意に板垣の発射するMk17の薬莢が那智の首元に飛び込んできて那智は悲鳴を上げた。那智が撃たれたと思った板垣がもがく那智に屈んだ時、その頭上をRPG-7の弾体が掠め、板垣は那智に倒れ込んだ。
「あっぶねえ!」
RPG-7の擲弾は背後にあった木造の掘立小屋を直撃し、壁を貫通してその奥で炸裂し、掘立小屋を打ち崩した。
二人は顔を見合わせ、即座に射撃を再開した。
機関銃を乗せたジープが道路を進んできていた。板垣が頭を屈めている操縦手をMk17で狙撃し、那智が機関銃を連射する射手に弾丸を浴びせる。
そこで那智の機関銃が弾薬を撃ち尽くした。すぐさま装填を開始すると、動かなくなったジープの傍にすぐに歩兵が集まってそこら中に68式自動歩槍を乱射し始めた。
那智達のいた地形変換線の斜面にも無数の北朝鮮軍兵士が伏せていて68式自動歩槍を撃ってきている。
「ヤバいな、押されてる」
「確実に装甲車は潰してるよ」
14.5mmKPV重機関銃の曳光弾が頭上を掠め、空気を切り裂く鋭い音が聞こえてくると二人は思わず頭を引っ込めた。
BRDM-2がもう一輛、こちらにKPV重機関銃を射撃しながら迫ってくる。RPG-7を警戒し、一定距離で横行しながら射撃してきた。歩兵がその援護を受けてさらに前進してくる。RPG-7対戦車弾が敵の方向から何発も発射され、那智達のいる道路の背後の斜面を直撃して土や石が崩れて那智達にも降り注ぐ。
「下がれ!」
宮澤1曹の怒号が聞こえる。突出していた坂田と西谷も第二陣地に下がるために走り出す。そのあとを緑色の曳光弾が追いかけ、那智はその曳光弾を見て射手を特定して連射で十発ほど撃ち込んだ。
「
那智達のいる斜面まで登り切った西谷が悲鳴を上げた。
「一名負傷!」
坂田が叫ぶ。西谷が撃たれたらしいが、容態を確かめている暇もない。
「あのBRDMを黙らせないと」
那智はそう呟くと村の中の斜面で蛇行する道路を走り、次の陣地へ向かう。板垣が慌てて援護射撃するが、銃弾がすぐそばを掠め、鋭い音が次々に聞こえた。足を取られて転がり、そのまま立ち上がって陣地の中に飛び込んだ。
そこはタコツボを掘って土を前面に盛っていた。陣地の中には最後のRPG-7と予備弾二発、68式自動歩槍が配置されていて、那智はRPG-7を取って対戦車成形炸薬弾を装填するとすぐさま立ち上がる。
射撃してくるBRDM-2に照準を合わせ、那智は引き金を引いた。
ロケットモーターに点火した弾体が飛び出し、空気を切り裂いて飛翔し、BRDM-2に向かう。その戦果を確認する前にタコツボに引っ込み、新しい弾を取って装填しようとした時、那智のいたタコツボが炸裂した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます