第27話 襲撃と救出

 北朝鮮国内において追われる立場だった陸上自衛隊偵察分遣隊は、今は北朝鮮軍を追っていた。救出した海兵隊のパイロット、レイチェル・バローズ大尉の相棒であるカール・ニックス中尉が北朝鮮軍に捕縛されたのだ。背のうを集積場所にデポし、身軽になった那智達は疲労の溜まった体を奮い立たせて森を抜けて険しい丘を越え、北朝鮮軍の集結地に最短距離で接近した。

 足の裏や足首、膝、太ももに相当な疲労が溜まっているのを那智は感じていた。ちょっとした段差を越えるために足を持ち上げるのにも苦労する。疲労度は皆、那智と同じかそれ以上のはずだ。

 隊員達は自身の状態に我慢するのではなく、申告して状況を共有していた。無理をすれば部隊全体を危険に晒すことになる。健康状態を把握し、荷物の配分なども調整する。これは生半可な団結や信頼感では出来ないことだ。

 北朝鮮軍の集結地に近づいた那智は四つん這いになって慎重に斜面を登った。姿勢が低ければ敵に発見されにくいだけでなく、空際線上に敵を発見することが出来る。

 斜面を登り終え、集結地となっている谷と谷がぶつかる位置を見通す。

 集結地には北朝鮮軍の高射部隊を含む歩兵が多数いた。陣地の警戒は厳重だが、対空への備えを重視して偽装している。歩哨等も必要最小限で行っているようで、動哨の姿はない。高射部隊は魚網にぼろ布を付けた偽装網を使って地対空ミサイルを上空からの監視から隠していて、9K35 ストレラ-10自走短距離地対空ミサイルやZSU-23-4自走機関砲に似た30mm自走機関砲などの車輛も含まれていた。

 捕虜になったパイロットの所在を探っていると、天幕と車両が停められる地域の間の地面に、兵士に囲まれ、ぼろ雑巾のようになったパイロットスーツの男が転がされていた。双眼鏡で確認するとそれは間違いなく米海兵隊のパイロットだった。


「まだ生きてる」


 那智は双眼鏡を通してパイロットの胸が上下に動いているのを見て呟いた。痛ましい光景だった。パイロットを一刻も早く救出したい。


「だが、この部隊を相手にして救出するのは無茶だ」


 山城はMk17に載せたスコープを通して陣地を確認していた。パイロットを囲んだ北朝鮮兵士達はもう気が済んだようで、今は暴力を振るうそぶりを見せていなかったが、パイロットの顔は腫れ上がっていて、暴行を受けた様子が五百メートルほど離れた那智にも分かった。


『ウミギリ、こちらスカウト01。“パッケージ”をこちらも確認した。なお敵の車輛の一部に移動の兆候あり』


 別の位置に配置についた斥候員の言葉通り、北朝鮮軍の車両に動きがあった。ジープの他、ウラル4320オフロード大型トラックがエンジンを始動し、兵士達が乗り込もうとしていた。


『スカウト各組、こちらウミギリ。敵が“パッケージ”を移送する可能性がある。敵の移動経路上にて伏撃を実施する。スカウト03は経路偵察に向かえ。送れ』


『スカウト03、了解。送れ』


『スカウト01は監視を継続、スカウト02は主力に合流せよ。送れ』


『スカウト01、了解』


「スカウト02、了解」


 山城と共に那智は匍匐で後退し、敵に見えない斜面側に移動すると起き上がり、那智達は移動した。

 剣崎の読み通り、スカウト01が、捕虜が車両に載せられたと報告してきた。その間に那智達は三キロほど離れた敵の車輛部隊を待ち伏せするための伏撃適地へと移動していた。


「準備する時間もあったものじゃないが、やるしかない。急いで道路上に爆薬を仕掛けろ」


「大量に仕掛けすぎるな。“パッケージ”まで巻き込むぞ」


 伏撃適地として選ばれたのは上り坂のカーブ部分。車両が速度を発揮できず、相互に援護しにくい位置だ。

 息も上がっていたが、時間がなく息つく暇もなく準備した。IRサイリュームを折ると道路の目立たない場所に置いて落ち葉を被せた。これでも充分、暗視装置を使えば確認できる。さらに電気雷管で起爆させるコンポジションC4爆薬を仕掛けた。どの作業も敵に見つからないよう、隠密に行わなくてはならない。


「指向性を持たせて先頭車輛だけを破壊するんだ。最後尾は84mm無反動砲ハチヨンで破壊する」


 爆破薬を仕掛ける久野に坂田が注意する。坂田は雷管から伸びた脚線と繋ぐ電気回路と点火具を点検していて、分隊支援火器代わりに六十連弾倉を持つ大城と40mm擲弾発射器グレネードランチャーを持つ西谷は火力支援班に加わっていた。


「“パッケージ”は何輛目に乗っているんですか?」


 久野が聞いた。


「今、01が監視してる。とにかく車列は六輛だ」


「結構な数だ」


 山城は顔をしかめる。


「火力支援班、俺達が見えるか?」


 那智は無線に吹き込んで、火力支援班に狙えるかどうかを確認した。


『ばっちり見えてます』


 西谷が無線に応じる。火力支援班は文字通り強力な火力を運用して突入班を援護する役割を負っている。しかし人数も携行する火器も限られた偵察分遣隊で編成できる火力支援班には機関銃のような火器はないため、弾倉によって装弾数を増やした小銃や40mmグレネードランチャー、84mm無反動砲を効率よく運用しなくてはならない。

 ごそごそと影に隠れながら準備していると斜面で援護していた狙撃手の古瀬1曹が声をかけた。


「敵が移動を開始した。車列は六輛。一〇分でここに来るぞ、配置につけ」


 その言葉で、偵察隊員達はそれぞれの位置に散って身を潜めた。

 その間にも剣崎達は襲撃を成功させることだけでなく、襲撃後の離脱に関しても考えていた。

 那智を含む斥候に出た六人は背嚢を離れた位置にデポしている。それを回収しつつ、敵の高射部隊の脅威から離れた回収地点に向かわなくてはならないのだ。

 野中はせっせと攻撃目標として司令部に敵高射部隊の位置を報告していた。米軍のSEAD機がすぐに高射部隊に差し向けられることになるだろう。米軍部隊が近隣の北朝鮮軍を攻撃すれば指揮系統はますます混乱する筈だ。それは偵察分遣隊にとっても好都合だった。

 山城は火力支援班に合流し、無線で各員の役割を確認している。各人が今できることをこなしている。

 辺りは既に暗くなりつつあった。那智は暗視装置を準備し、AIRFRAME戦闘用ヘルメットを被った。

 世界複数国で使用されるマルチカム迷彩で有名となったCrye社製のAIRFRAME戦闘用ヘルメットは、空挺降下時の通気機構のため二枚のシェルから構成されている。至近での爆圧が抜けることや高温多湿な日本においてはこの通気機構が役に立った。


「まったく、大番狂わせだな」


『手当て増えませんかね』


 分隊間の無線で西谷が現金なことを言った。


「プライスレスだぜ。任務の価値は金じゃない」


『良い事言いますね』


 それに坂田が応じる。


『そうそう。女の子を助けられたんだ、名誉じゃない』


 大城が茶化すように言った。


『バローズ大尉は岩国の部隊だそうだ。連絡先を聞いてもいいぞ』


 山城までふざけたことを言い出した。皆、まだ戦闘の興奮から醒めていないのだ。

 那智も気持ちを落ち着かせるためにもその会話を聞きながらも準備を進めていた。小銃に装備した夜間照準具を点検する。陸自の一般部隊に配備されている暗視装置とセットのV1ではなく、米軍が採用する実績のあるレーザーサイトモジュールだ。

 映画のように赤い点が表示されて自らの位置を曝け出すようなものではなく、不可視レーザーを照射して暗視装置を使う際の照準に使用するものだ。


『山城1曹は奥さんいますし、坂田3曹と西谷3曹も彼女いますよね。自分狙ってもいいですか?』


 久野が聞いた。

 なんとも呑気な会話だ。バローズ大尉は剣崎ら本部班の位置にいて野中を支援している。救出対象だが、出来る限りのことはやってもらわねばならない。


『久野、地雷踏んだな』


 大城が苦笑交じり言う。


『なんです?』


『この任務で連絡も制限されたし、忙しかったりで、日本出る前に久しぶりに連絡とったら、感なし終わりだったからね』


『うわあ、西谷3曹、ドンマイです』


『俺、この戦争が終わったら街コン行くんだ……』


 この任務が始まってから最も危険な状況で、最も緊張感のない会話が続いていたが、それを山城が遮った。


『私語はそこら辺にしておけよ。斥候からの情報だ。車列は六輛。先頭はBTR。パッケージは三輛目の大型トラックだ。三輛目は絶対に撃つな』


 監視を続けていた斥候組も車輛部隊が離脱すると撤収した。合流は間に合わないため、彼らは背嚢をデポした集積位置に向かった。那智は暗視装置を目の位置に下ろして起動した。緑色の視界が開け、周囲の光景が次第に鮮明に映し出される。焦点を合わせると今一度、襲撃位置を確認した。


「あと約五分だ」


 爆破薬を点火する点火手の坂田が点火具を脚線に接続した。


「来た……」


 薄暗いライトが見えた。戦時下にあるために灯火管制をしているようだ。エンジン音が近づいてくる。


『スタンバイ、スタンバイ』


 剣崎の声が無線に聞こえる。

 車列が那智の位置からも見えた。先頭はBTR-60PB装甲兵員輸送車だった。八輪で、KPVT 14.5mm重機関銃とPKT 7.62mm機関銃を備えた砲塔が装備されている。旧式だが、軽装備の偵察分遣隊には充分な脅威だった。

 その後ろにUAZ-3151小型トラック、ウラル4320大型トラック、GAZ-63中型トラック二輛、14.5mm重機関銃を装備したUAZ-3151が続く。各車の間隔は十メートルほど。兵士達に油断は見られない。


『点火用意』


 剣崎の声が無線に響く。那智は思わず生唾を飲み込んだ。心拍数が緊張により上がっている。呼吸を意識し、体に力を込めてふっと抜く。


『点火』


 応答の代わりに、地面に仕掛けられたC4爆破薬が起爆した。10キロものC4爆破薬の8000m/sの爆速がBTR-60PBを襲う。十トン以上の車体が一瞬浮き上がり、車体底部から爆煙が吹き上がった。それが伏撃の合図となった。

 次の瞬間、周囲から銃声が鳴り響く。偵察分遣隊の隊員達が突然の爆発に動揺する北朝鮮兵達に対応する暇を与えずに制圧射撃を開始した。三輛目の大型トラック以外に向けて配置についた隊員達が射撃する。那智もまた膝立ちになると小銃を構える。

 暗視装置の青白い視界に不可視レーザーの光の筋が見える。いくつもの光の筋が交差し、車輛に伸びていた。このレーザー光によって誰が何を撃っているのかがはっきりと分かる。単発で引き金を素早く絞り、5.56mmM855A1弾を車の運転席と助手席に浴びせた。レーザーが交わる部分に被弾の光がわずかに爆ぜ、ガラスが砕け、乗員の血が飛び散った。

 最後尾のジープに向かって84mm無反動砲M3がHE弾を発射する爆発的な発射音が聞こえる。HE弾の直撃を受けたジープの上にあった物は乗員も機関銃も吹き飛ばされ、車体は潰れた。さらに中型トラックにグレネードランチャーによって擲弾が撃ち込まれる。荷台に40mm高性能炸薬弾が直撃し、キャンバスの幌が千切れ飛ぶ。

 まるで花火大会だ。視界は銃火が瞬くたびに白く濁り、聴覚は破裂音に支配されている。飛び出していく薬莢から漂う硝煙の匂いよりもC4爆薬の爆発で立ち込めた煙の臭いが勝っている。

 三十秒に渡る制圧射撃が続く。トラックから降りて展開しようとする兵士は道路の両側から行われる制圧射撃に射抜かれて次々に地面に斃れていく。無慈悲で冷徹な射撃を偵察隊員達は続け、敵に反撃の暇を与えなかった。三十秒近い時間が過ぎた時、ぴたりと射撃が止んだ。


「弾倉交換」


 那智は坂田にカバーしてもらい、弾倉を交換して小銃を構えた。全員が沈黙し、気配に耳を澄ませる。敵の兆候が無いことを確認すると剣崎が立ち上がった。


「サーチよし。動きなし」


「検索するぞ。続け」


 剣崎に続いて、那智、坂田、大城、久野、山城、宮澤が進み出る。展開していた斜面を降りて破壊されたBTR-60PBの正面に横隊で展開し、那智、坂田、大城が道路の左を、山城、宮澤、久野が道路の右を担当して分かれ、確認しながら進む。


「車体底部クリア!」


「左側ハッチ、照準ロック中!」


 大城が那智に声をかける。各人、自分が今どこを照準して警戒しているのか伝え合って無駄なく死角なく警戒して進む。大城の小銃が左側面のハッチに照準されていることはIRレーザー光線の筋で明らかだった。それぞれの銃口から伸びるIRレーザー光線は四周に向けられ、隙は無い。


「開けるぞ!」


「開けろ!」


 坂田がBTR-60PBのハッチを開こうとするが、ハッチは爆発の衝撃で歪んだのか開かなかった。


「開かない、次!」


「後部に回るぞ!」


 足を止めず進み続ける。反対側を山城と久野、宮澤が検索して回り、全般を剣崎が確認していた。


「二輛目運転席、ロック中!」


「BTR後部を検索する!」


 BTR-60はエンジンが車体後部にあるため、ハッチは車体上面と側面上方に存在する。車体上面のハッチは爆発で上に開いていた。


「時間がない、手榴弾を使え」


「了解。手榴弾」


 剣崎に指示され、那智は声を掛けながらポーチからMk2攻撃手榴弾の安全ピンを引き抜いて、投げ込んだ。隊員達はBTRの車体に隠れる。Mk2は破片をまき散らす破片手榴弾ではなく、爆風による殺傷効果を目的とした手榴弾だ。手榴弾が爆発すると焼夷筒を剣崎が投げ込んだ。焼夷筒は米軍のサーメートに相当するテルミット焼夷弾だ。燃焼速度は四千度から五千度で装備品や障害を破壊するために使う。

 焼夷筒が延焼を始めると車内から煙が出てきた。再び隊員達は進む。銃撃に晒されたジープタイプのUAZ-3151小型トラックだ。


「二輛目、四名確認。動きなし」


 ジープの車上にいる四名の兵士はぐったりとしていて、まったく動かなかった。


「撃つぞ」


「撃て」


 坂田が小型トラックの運転席と助手席で動かない北朝鮮兵士に二発ずつ発砲してとどめを刺した。さらに後部で倒れている二名の兵士にも撃ち込む。死体撃ちは遺体を必要以上に損壊する残酷な行為だが、不意を打たれないために確実に無力化して安全化し、また兵士に余計な苦痛を与えないための必要悪の処置だ。


「クリア」


「次だ」


 三輛目が目標だ。ウラル4320大型トラックはMk17を持つ隊員が運転席と助手席、さらにエンジンを撃ち抜いただけで、ほとんど無傷だ。兵士達が降りてきたのも確認している。


「フロント、ロック中。運転席、助手席に一名ずつ、動きなし」


「撃て」


「撃つぞ」


 大城が二発ずつ発砲し、血塗れになっている兵士達を確実に無力化した。


「後ろに回れ」


「久野、宮澤、後方を警戒」


「了解」


 久野と宮澤は後方に小銃を向けて警戒する。大城と山城が後ろからトラックの荷台に銃を向けた。


「ロック中」


「開けるぞ」


 トラックの降板は開いていたが、幌が降りていた。


「出て来い!」


 朝鮮語で大城が怒鳴るが、中は静かだ。那智は小銃を構えて前に立つと幌を繋いでいるロープに向かって射撃した。二発目でロープの繋がるフレームが千切れ、さらにロープを撃って幌を落とす。幌が落ちて荷台が露わになった瞬間、発砲音が聞こえ、那智は不可視の力で吹き飛ばされた。

 何かが右胸で炸裂し、肺の空気がすべて叩き出される。その凄まじい衝撃で、一瞬呼吸が停止し、肉体から骨格が抜かれたように那智は脱力した。

 被弾するまで那智は、戦闘の中での緊張感を保持していた。マインドセットは赤だった。撃たれたことによって心拍数が急激に上昇し、過度に分泌されたアドレナリンによって、周囲の景色がまるで無音のスローモーション映像のように感じられた。

 自衛官という職に身を置いても自身が撃たれるという経験をする者は、戦後七十年以上経った今もほとんど居ない。その驚愕は覚悟をしていても相当なものだった。

 銃で撃たれた者は二つの心理状態に陥る。

 撃たれた、もう駄目だ!という潔くすらある諦観。

 畜生!ぶっ殺してやる!という憤怒に塗れた奮起。

 厳しい訓練を受けて来た兵士である那智が選択したのは後者だった。

 よくもやったな!――冷静な思考の奥底では、生まれて初めて抱く、純粋な殺意が失いかけていた身体の制御を取り戻す切っ掛けとなった。

 朝鮮語が聞こえるが、那智を援護していた大城と山城は発砲しない。剣崎が二人の正面に立って朝鮮語で何かを怒鳴り返している。那智は転がって倒れながらも気力を取り戻し、地面に打ち付けられながら小銃を構えた。那智が撃たれても久野と宮澤は振り返ることなく自分の警戒方向を照準している。

 荷台には捕虜を盾にした北朝鮮軍の士官がいた。それと剣崎が交渉するような素振りを見せたが、剣崎は一瞬の隙をついて小銃を構えて北朝鮮軍士官の頭を撃ち抜いた。途端に坂田と剣崎が荷台に駆け上り、捕虜の両脇を抱えて連れ出す。

 三人が降りると大城が頭を撃ち抜かれて倒れた士官の胴体に二発きっちり撃ち込んだ。


「大丈夫か?」


 捕虜を坂田に任せた剣崎が那智に声をかけた。そこでようやく自分の受傷部位すら確かめていないことを思い出した。


「あ……」


 自分の体をまさぐって異状を探る。左胸に痛みがあったが戦闘用グローブに血は触れなかった。近接戦に備えて位置を変えてリーコンベストの左胸に取り付けていたチタン製のナイフが被弾し、ものの見事に鞘ごと砕け散っていた。拳銃弾をチタン製のナイフが受け止めたお陰で身体は無事だったらしい。


「大丈夫です。ナイフ一本駄目にしましたが」


「ナイフで済んで何よりだ」


 一方で坂田は連れ出した捕虜の本人確認を行っていた。フライトスーツの男の顔は腫れ上がっていて、目じりが切れ、血が流れている。全身を激しく殴打されたらしい。


「所属と官姓名を」


 坂田が英語で尋ねた。


「第242海兵全天候戦闘攻撃中隊所属、カール・ニックス少尉です……あなたたちは一体?」


「我々は陸上自衛隊だ。バローズ大尉も救出した。立てるな?ここを脱出するぞ」


「分かりました」


 坂田が肩を貸し、ニックスを立たせる。


「離脱するぞ。爆薬を仕掛けろ」


 大型トラックの荷台にC4爆薬を仕掛ける。導火線で時限にすると剣崎の合図で大城が点火した。


「離脱!」


 目標の達成を確認し、偵察分遣隊は伏撃位置のカーブから離脱を開始した。派手な戦闘を行い、北朝鮮軍の目を惹いたのは間違いない。ここから迅速に離脱しなければ、偵察分遣隊は簡単に退路を遮断され、数の暴力に圧倒される。

 捕虜は米海兵隊のF/A-18Dのパイロット、カール・ニックス少尉であることが確認され、両中尉を脱出させるために偵察分遣隊は集結地点を目指した。

 トラックに仕掛けられたC4爆薬の爆発が背後で聞こえた。トラックが完全に破壊されたことを確信した那智は、一刻も早く偵察分遣隊を脱出地点へ導くために胸の鈍痛を忘れ、前方警戒任務に集中した。


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