8話 外交の敗北

 経済制裁の強化によって締め上げられつつあった北朝鮮は、世界が望む対話による外交ではなく、さらなる大陸間弾道ミサイル発射を強行した。発射されたミサイルは日本列島を飛び越えて太平洋上に着弾。日本の世論は再び北朝鮮脅威論に沸騰した。

 さらにこの大陸間弾道ミサイルは過去に北朝鮮が発射した火星15型であり、北朝鮮の宣言通り「国家核戦力完成」を裏付けるものとなり、米国の世論も北朝鮮を警戒し、各地でデモも起こった。

 米国はこれに対し、直ちに追加の経済制裁措置として、第七艦隊の空母打撃群を黄海と日本海に展開し、海上封鎖を実施。日本もこれに追従する形で海上自衛隊の護衛艦を日本海及び東シナ海に展開し、韓国軍も厳戒態勢に移行した。

 北朝鮮はこの動きに対し、戦争も辞さないと声高に叫び、更なる弾道ミサイル発射や核実験の強行、国境付近に展開する軍の南侵を示唆するが、結果は遂に、かつての最大の友好国であった中国のさらなる経済制裁の発動を促すこととなった。

 この中国の経済制裁と海上封鎖が、もはや朝鮮半島有事を避けられないものとした。

 海上封鎖及び中国の経済制裁から一週間後、北朝鮮の無線が突如として沈黙した。無線封止が始まったのだ。さらに南北非武装地帯DMZの前線に北朝鮮が配備した、一万門もの野戦火砲部隊にも動きがあることを、韓国国防省ビル地下の北朝鮮警報室は、青瓦台チョンワデに緊急通報した。

 配備されている170mm砲はソウルを射程に収め、240mm砲はそのソウルを越え、韓国軍と在韓米軍基地も脅かす射程を持っている。一分当たりの発射砲弾数は二千発にも及び、事が始まれば最初の一分間で八万発以上の砲弾がソウルに撃ち込まれ、地上軍が越境すれば、瞬く間にソウルへと押し寄せる。一度、火蓋がきられれば、ソウルが火の海となる惨状は青瓦台の誰もが予想できた。

 さらに中朝国境には中国軍が部隊の配備を開始。難民等への警戒と見られた。

 韓国大統領府は、国家安全保障会議を招集、民間人の夜間外出禁止とともに移動禁止の命令を発令する準備を開始した。


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