第4話 こってりなさいあく

 こってりな最悪



「ねえおじいちゃん、これ見て!!」


「お前は本当に絵が上手いなあ」



 俺は小さい頃から絵を描くのが好きだった。おじいちゃんはよく描けたなといつも褒めてくれた。そのうちおじいちゃんはボケた。時々俺を思い出してくれることもあるが、また忘れてしまう。おじいちゃんは俺にいろんな話をしてくれた。何度も何度も同じ話をするから、次にどう話が転ぶのか分かるようになってしまった。


 おじいちゃんは苦しかったことを話す。

 おじいちゃんは楽しかったことを話す。

 最高の瞬間も、最悪の瞬間も話す。


 おじいちゃんが、



「あれは〇〇年頃の話だ、あの年は最悪だ。あんな思いはもうこりごりだ」



 と言えば、それは俺が勝手にこりごりな最悪と名付けている大震災の年の話を始める。



「俺が若い頃はなお前たちみたいに」



とくれば、



「物がなかった」


「よく分かってるじゃないか」


「だっておじいちゃん何回もその話するからら」



 〇〇〇〇〇〇



「ねえおじいちゃん?」


「どうした?」


「あの話してよ、こってりな最悪の話」


「こってり?違うよ」


「じゃあ何?」


「なんだっけ?」


「忘れちゃったの?もう」


「忘れたいことだったのかな」


「そうかもしれない。でも思い出す、そうやって繰り返す。仕方ないけどそれが大切。酷いけどそれが優しい。かわいそうだけどそれが大切。大事なことだって忘れる。最高でも最低でも最善でも最悪でも忘れられる。思い出せな」


「そういうの、もうこりごりなんだよ」

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