第2話 タイムリープ
青白く光るスマホの画面には、確かに白羽根あかりからのメールが届いていた。
【ごめん! 初詣、明日でもいいかな?】
俺は必死に去年の出来事を思い出した。こんなメール、元旦に届いたかな?
しばらくの間、俺は脳内のありとあらゆる引き出しを開け、記憶を掘り返した。しかしこんな記憶は出てこなかった。単純に忘れている可能性もあるが、根本的に本当にタイムリープが成功しているかさえも確認できていない。そこで俺は卓人にメールをすることにした。こんなことに親友を使うのは気が進まなかったが、あいつなら許してくれるはずだ。
俺はすぐさま卓人宛てのメールを作成した。
【おはよ。朝早くにごめんな。今日ってもう二〇十六年だよな?】
不自然に思われないように、試行錯誤して生まれたメールはこうなった。去年の大晦日をどうやって過ごしていたかも思い出せないので、こう聞くのが正解のような気がした。
俺はベッドの上で胡坐をかき、腕を組んでスマホと睨めっこをしていた。
「卓人から返信が来ない!」
早朝ということもあるが、誰がどう見てもこのメールは怪しい。もしかしたら卓人は深読みをしている可能性がある。いや、卓人に限ってそれは無いか……?
そうして数分スマホと睨めっこを続けた。外で寝ていたせいか、少しの頭痛と眠気が襲ってきた。
「卓人……。頼む、返信を……」
独り言で眠気を誤魔化しながら返信を待った。うつらうつらしていると、画面が光った。返信が来たようだ。
【本当にごめんね。怒ってる?】
あかりからの追い打ちであった。流石にアドレスが間違っていることに気が付いてもおかしくないはずだが、あかりのことなので、絶対にそうとも言い切れないところが怖い。
あかりからのメールで少し目が覚めたところに、卓人からの返信が届いた。
【何言ってんだか、二〇十六年になってるだろ。スマホの画面見ろよ。そんなことより、なんで昨日返信してくれなかったんだよ?】
タイムリープしたことはほぼ確実になってきたが、ここで一つ問題が生じた。去年のことをまるで覚えていないということだ。特に一月から三月はほとんど覚えていない。二年に進級してからは、卓人、あかり、黒澄。大体この三人と一緒にいたが、無駄話をしている記憶しかない。これは、詰んだか?
とりあえず、先に卓人に返信をしようとスマホを拾った。
【ありがと。えと、昨日なんかあったっけ?】
どんなに記憶の糸を辿っても、まったく思い出せなかったので、卓人には雑なとぼけを送っておいた。
すると、すぐさま画面が明らんだ。またもやあかりからのメールであった。
【えーと、その。大神君。本当にごめんなさい! 送る相手を間違えてました!】
予想通りだったことに、空いた口が塞がらなかった。そしてこのメールを見て去年の元旦を少し思い出した。そう。確かにこのメールは去年も届いていた。なぜ前の二件を覚えていないかと言うと、去年の俺は起きていなかったからだ。そして、このメールも無視している! このメールだけを確認し、ただの間違いメールだと認識し、再び寝てしまったような気がする。記憶は曖昧だが、きっとそうだ。進級し、クラスで初めて彼女と顔を合わせたときに、少し気まずそうにしていたことも納得がいく。
俺は返信をしようとメールを開いた。しかし、ここで俺の指は止まった。この返信一つで未来が変わってしまう可能性にだ。スマホを持つ右手は微かに震えていた。
数分迷った挙句、俺は返信をせずに眠ってしまっていた。やばい。と勢いよく起き上がり、スマホの電源を点けた。卓人からの返信が来ていた。当然あかりからのメールはあるわけがなかった。まず、卓人からのメールを確認する前に時間を確認した。時刻は九時半過ぎであった。帰宅した時刻は、おそらく六時前後だったので、三時間ほど眠ってしまったようだ。時間を確認し終えたので、卓人からのメールを開いた。
【何って、初詣行くから時間決めようって言ったのそっちだろ?】
おっと、そうだった。確かに去年、卓人と初詣に行っていた。財布にはその時のおみくじが入っているはずだ。
【あぁ、そうだったな。すまん。じゃあ、明日とかどうだ?】
去年とは経緯が違うが、二日には初詣に行ったはずだ。去年は確か、俺が寝坊したから二日になったんだよな……。
【ったく。しっかりしてくれよ。それじゃ、明日の朝お前ん家行くから】
【了解】
トントン拍子にメールは終わり、再びあかりへ返信するかで悩み始めた。三十分近く悩んだ末、返信はしないことにした。返信をしたことで、複雑な未来に変わってしまったら対処できるか自信がなかったのだ。元いた世界の通りにことが進んだところで、あかりが救えるかも分からないというのに、無駄な手出しをして、もっと悲惨な結末を迎えたくなかったのだ。
スマホを置き、リビングに向かった。
母はすでに起床しており、リビングのドアガラス越しに、動く影が見えた。
「おはよ」
ドアを開けながら挨拶をした。しかしそこにいたのは妹であった。
「お兄、おはよ」
「あれ? 母さんは?」
「はい? 何言ってんの?」
去年、確かに母は家にいたはずだ。すでにこの世界では……。
「今お父とお母は海外出張に行ってるでしょ?」 彩照は当然のように口にした。そしてフライパンを上手に返し、香ばしい目玉焼きを皿に乗せた。湯気を上げる目玉焼きは、テーブルに二つ並べられた。白米を盛った茶碗も二つ。みそ汁の入ったお椀も二つ。この家には俺と彩照以外は本当にいないようだ。
「いただきまーす」
彩照は先にテーブルに着き、食事を始めた。呆けている俺を見て、顎で椅子に座るように指示してきた。
俺は渋々椅子に座り、目の前の美味しそうな料理を見た。一つ言えることは、妹はこんなに料理が上手ではない。いや、正確に言えば、見たことがない、味わったことがないので正解はない。しかしこんなに上手なわけがない。なぜなら母の手伝いをしているところですら見たことがないからだ。
「いただきます」
俺は味を決め付けた料理に手を付けた。しかし最初の一口で、予想だにしていなかった味が口内を占領した。
「これ、お前が作ったんだよな?」
彩照は箸を置いた。何かを言うのかと身構えたが、なぜか黙っている。
「おい、彩照?」
「なによ。美味しくないなら食べないで」
「いや、その逆だよ」
「ほんとに!? 良かったぁ」
怒っていたのは確かだが、料理に関しては特に何も言う気配はない。それどころか、彩照は調理法について話し始めた。
「今日は目玉焼きの焼き加減を少し弱めて、長く焼いたの。それで、味噌汁は味を薄めたの。お兄がいつも味が濃いってうるさいから」
彩照の話はしばらく続いた。俺は話を聞きつつも、手を止めることが出来ずいつの間にか完食していた。
「あ、もう食べ終わってるじゃん」
「あ、すまん。ご馳走様。美味かったよ」
「ふふ。ありがと」
彩照は照れ隠しの笑みを浮かべながら、素直に俺の言葉を受け取った。
特にやることもないので、自室に戻り今までのことをまとめることにした。
「おそらくタイムリープは成功しているはず、でも母さんが父さんの海外出張に付いて行っている。この点が不思議だ。そのほかは、あかりからのメールも卓人からのメールにも、不可解な点はなかった」
勉強のためには全く使用されていない勉強机に、ノートを広げた。ノートには一文字も文字が書き込まれてはおらず、すべてのページが白紙であった。これは逆に好都合であった。タイムリープについてまとめるには、いいメモ帳代わりになってくれるだろう。
ここまでのことを簡単にメモし、部屋の中を見回した。視線は机の横に放られていた、鞄に向いた。それは僕が以前使っていた鞄に戻っていたからである。
「おかしいな。エナメルバッグは片方の肩ばかり凝るからやめたのにな」
首をかしげながらバッグを拾い、ベッドに腰かけた。そして中身を一つ一つ出していった。筆箱、ファイル、財布、ポケットティッシュ、自宅の鍵。入っているものはこれだけであった。学校に教科書は置いてきてしまっているので、鞄の中身はいつもこのくらいだ。
筆箱の中を見る。シャープペン、消しゴム、ボールペン、シャープペンの芯。必要最低限の物のみが入れられていた。次にファイルの中を見た。時間割表や、必要単位表など、入学して間もなく配られた書類が数枚ファイリングされていた。
「この二つは特に変わりないな」
鍵とティッシュも、見ただけで変わりがないことがわかる。
「最後はこれか」
俺は呟きながら財布を手に取った。チャックを開け、中身を確認した。自分の物にも関わらず、なぜか少しの罪悪感を覚えた。中にお守りはなく、金額も、並みの高校生の財布とは思えないほど多く入っていた。
「なんでこんなに入ってるんだ」
思わず本音が漏れていた。
ドンドンドン。
突然ドアをノックされ、少し腰が抜けた。それも紙幣の枚数を確認しているときだったので、そのせいもあり無駄に驚いてしまった。
「お兄。私買い物に行ってくるね」
「お、おう。わかった」
財布を背中に隠しながら、大きな声で返事をした。階段を下る音がし、それは次第に遠のいていった。それにしても、階段を上る音にも気が付かないとは、もっとほかのことにも注意を払わなければ……。
彩照が買い物に行ったようで、玄関が閉まる音が部屋まで届いた。
その後、ノートにこれまでのことをまとめ、そこから、気になる点や、怪しい点をリストアップしておき、ノートを閉じた。ベッドの奥に備わっている窓からは、夕焼けの空が覗かれた。
「もうこんな時間か……」
前かがみになっていた体を起こし、椅子の背もたれに体を預け、背伸びをした。
すると、ちょうど自宅の玄関が開く音がした。彩照が帰ってきたようだ。母もいないとなると、彩照だけに負担がかかってしまう。俺も何か手伝えればいいが……。
「おかえり」
リビングでは、すでに買い物袋から様々なものを冷蔵庫や、戸棚にしまっている妹がいた。
「うん。ただいま」
妹は少々投げやりに返答してきた。俺も何か手伝おうと、テーブルに広げられている物品に触れようとしたが、あっけなく妹に、「座ってテレビでも見てて」と言われてしまった。なにかこだわりがあるのかもしれない。と俺はその言葉に従うしかなった。
しばらく彩照は忙しなく行動していたが、一旦落ち着いたのか、俺の横に座り、足先から手先まで、全身脱力してソファにもたれた。
「えっと、お疲れ」
「どういたしまして~」
「いつもお前がこんなに買い物を?」
「え? 今日のお兄なんか変だね。こんなのいつものことじゃん」
「そうだったな。えーっと、今度は一緒に買い物行くよ。物くらい持てるからさ」
「おぉ。マジか! じゃあその時は声かけるね」
妹は満面の笑みを浮かべていた。なぜだか前いた世界よりも妹がかわいらしく見えた。
「それじゃ、夕飯の支度でもしようかな」
手伝おうか。と言おうと口を開けたのだが、キッチンに向かうその背中を見たとき、その言葉が、音になって出てくることはなかった。
テレビの音が部屋中に充満し、耳も目もテレビに奪われているように思えたが、妹が野菜を切る音や、フライパンで調理している音が、俺を心配の一色に染め上げていた。紛らわそうと、必死にテレビを見入ったのは久しぶりのことであった。
「お兄~。できたよ~」
キッチンのほうから、彩照の声が聞こえてきた。俺は少し食い気味に返事を返した。
「おう。わかった」
テーブルに着き、料理を待っていたが、気持ちはどこか落ち着いていなかった。置いてある箸をいじったり、無意識に少し貧乏ゆすりをしていたり、いつも見ているリビングを見回してみたり。とにかく、今朝は妹の調理を見ていたわけではなかったので、いろいろと彩照に関しても、疑問が募っているのだ。
「なーにそわそわしてんの。へい。餃子お待たせ。なんてね」
彩照が持ってきたのは、湯気とともにほんのりにんにくの香りがする。餃子であった。
「お前。これお前が作ったのか?」
思わず二度呼んでしまった。
「そうだよ?」
「すごいな餃子なんて。母さんでも作らないぞ?」
「まぁ、そりゃあね。これ冷凍食品だし」
「冷凍食品かよ!」
俺はその場で椅子ごとひっくり返る勢いで、キレのある突っ込みを入れた。
「当たり前でしょ。こんなの一人で作れるわけないじゃん」
むしろ開き直られていた。確かにこんな大層なものをこいつ一人で作れるはずがない。やはり妹は妹のままであった。
「朝のもか?」
俺は今の一連の流れで、少し警戒心が弱まったのか、疑問に思ったことがすぐ口から出てしまった。
「朝の? アレ位は作れるよ。お母が直々に教えてくれたからね」
妹が言うには、朝ご飯くらいは教える。と母さんに言われ、俺も彩照も教わっていることになっている。らしい。
「じゃあ、明日はお兄が当番だからね」
「え、朝は交代制なの?」
「当たり前でしょ。夕飯は作ってあげてるんだから。冷食のほうが多いけど」
これはひそかにまずいことになったぞ。俺は料理なんてできん。それどころかキッチンに立ったことすらないぞ。そう考えるとさっき、手伝おうか。と言わなかったのは、単に俺がビビッて言えなかっただけなんじゃ……。このことを考えるのはやめよう。明日の朝どうしよ……。
「お兄。箸止まってるよ」
「お、おう。食べるよ」
明日の朝食のことで頭がいっぱいで、最初は美味しかった夕食も、味わう間もなく食べ終わっていた。
「ご馳走様」
「ごち~」
皿洗いくらいはやっておこうと、妹にはテレビを見ているように言い、皿を洗った。母さんの見様見真似で皿を洗い終え、妹に確認すると、いろいろと細かい点を指摘されたが、ギリギリ合格点に達していたようで、彩照が洗いなおすことはしなかった。
風呂を済ませ、歯磨きも済み、お互い自室に戻った。
「おやすみ」
「ふぁあ。おやすみ~」
俺は部屋に戻ると、日記をつけるように今日の出来事をまとめてノートに書きこんだ。今のところ母が自宅にいないことが一番の変化だと思われる。その他にも、自室、私物は去年の一月の状態に戻っているなど。タイムリープはできていると思って間違いないようだ。
「明日は早いし、今日はこの辺で寝るか」
ノートをパタリと閉じ、ベッドにもぐりこんだ。
…………。
朝は夜以上に冷え込んでいた。
「うぅー。さみ」
俺は起きているにも関わらず、毛布から出られずにいた。スマホを確認すると卓人からのメールが届いてた。今さっき家を出た。とのことだ。もうそろそろ着替えなくてはいけないが、それでも毛布を剥げなかった。しばらくするとスマホがバイブした。また卓人からメールが届いたようだ。
【もう着くぞ?】
このメールを見て、俺はようやく行動を開始した。のそのそとベッドから降り、とろとろと服を着替え、たらたらとリビングに向かった。
「あ、お兄おはよ。朝ごはん、まだですかね?」
げ、忘れていた。そういえば朝食の当番だと言われていたんだった。
「あ、えーっと。俺、もう出かけるんだよね……」
「まぁ、そんなことだろうと思ったよ。どうせ朝も寒くて布団から出られなかったんでしょ?」
「ぐっ、その通りです、面目ない……」
彩照はため息をつき、手の甲をひらつかせ、さっさと出て行けと訴えてきた。
「ほんと、ごめん!」
俺はそう言うと、逃げるようにリビングを後にした。
玄関先では卓人が待っていた。こちらも少しお冠のようであった。
「お前。どうせギリギリまで寝てただろ」
「いやぁ。バレました?」
「当たり前だろ。返信来ねーんだから」
卓人は少し速足で歩き始めた。
「あ、ちょ。悪かったって!」
俺は少し駆け足で卓人の後を追いかけた。
卓人もふざけて怒ったフリをしていたようで、すぐにいつもの調子で会話が弾んでいた。ゲームのことや芸能人のこと。しかしどれも一年前の情報ばかりで俺はすべて知っている話であった。
しばらく歩き、住宅街を抜けたところにあるバス停でバスを待った。間もなくバスが来て、目的の神社最寄りまでバスで移動した。
「
目的の場所のアナウンスがかかったので、俺は近くのボタンを押した。電光掲示板には、次降ります。という文字が表示されたのを確認し、到着を待った。
あまり大きな神社ではないのだが、毎年この時期は、多くの人が参拝に訪れている。かく言う俺も毎年ここに参拝している。
バスの車内が暖房で温められていたせいか、外は余計に寒く感じた。腕を組み、少しでも体を温めようと縮こまった。
「今年はいつもより寒く感じるな~」
卓人は参拝に来ているカップルたちを横目にぼやいていた。実際その通りではあったのだが……。
「ナンパでもするか?」
卓人は血迷ったことを言い始めた。
「そんなことやる勇気があったら、今俺の横には彼女がいるよ」
「確かにな」
自爆としか言いようが無かったが、二人ともへこんだ。その証拠に、どちらも会話を切り出すことが出来ず数分経過していた。
無言のまま賽銭を終え、公衆トイレがある場所まで下りて行った。
「トイレ行ってくるわ」
卓人は石段に下ろしていた腰を上げ、スタスタと歩いて行った。
卓人が立った後間もなく、俺の背中をつんつん。と何かが触れた。最初は何かが落ちてきたのかと、気にも留めていなかったが、何度もそれは俺の背中をつついたので、さすがに振り向いた。
「えーっと。その。久しぶり。です」
背後からのぞき込んできた顔は、近すぎてはじめは誰だか分らなかったが、間違いなくあかりの顔であった。唇に届く寸前の距離に、俺は少したじろいでしまった。
「え、えと、その。ごめんなさい。人違いでしたか?」
俺があまりに返事をしないので、涙目でこちらを見ていた。
「あ、えとえと。ごめん。そうです。君の求めていた人です!」
「あ……。大神くん、だよね……?」
「はい……。そうです……」
早とちりしてしまい、とんでもない言葉を口走ってしまった。互いの間に気まずい雰囲気が漂った。どうしよう。卓人が帰ってくるまでもう時間がない……。
「昨日は、その、間違いメールしちゃってごめんね?」
「いや、全然。大丈夫だよ」
なんの進展性もない会話が繰り広げられる。トイレのほうをちらっと見ると、結構並んでいるようで、時間がかかりそうであった。
「その、改めて久しぶり」
「うん。小学生振りかな?」
「うん。その位だね」
「今はどの高校に通ってるの?」
「京蘭高校だよ」
「嘘! 一緒だよ!」
どんな反応をすればいいか迷った。俺は半年彼女と同じ教室で過ごしていたので、何とも言い返せなかった。
「どうしたの? 嬉しくなかった?」
またもやウルウルと涙を含ませて、こちらを見てきた。
「いや、そんなわけないよ。むしろ嬉しいよ」
「っ! うぅ」
彼女は照れ臭そうにうつむいてしまった。俺は彼女の反応を見て、また同じ過ちを繰り返したことに気が付いた。そして俺も彼女の顔を見ていられず、うつむいた。
そこで会話は途切れてしまった。一段上に座っていた彼女は立ち上がり、「それじゃ、またね」と、トイレから出てきた友達のもとに小走りで行ってしまった。
あれほどまでに並んでいたトイレ周辺も落ち着き、卓人もその群れから飛び出てきた。青いジャンパーのポケットに両手を突っ込み、人混みから早く抜けようと速足で帰ってきた。
「くっそー、めちゃ混みだったよ」
「漏らさなかったか?」
「この年で漏らすか!」
先ほどまで、あかりと気まずい会話を繰り広げていたので、卓人と話すのがどれだけ楽なのかを思い知った。
「ところでさ」
卓人が俺に問いかけてきた。
「さっき一緒にいた子、誰?」
俺が返事をするよりもまえに、卓人は続けて問うてきた。それもだいぶ核心をついてきた。
「あ、あぁ。あの子は近所の子だよ」
間違ってはいないが、百パー正解でもない。曖昧な答えを返した。
「ふーん。そっか。てっきりナンパしたのかと思ったぜ」
「誰がするか!」
「あ、そういえば。また話変わるけど、俺らおみくじ引いてなくね?」
卓人は帰る間際にその存在を思い出した。
「あ、確かに」
彼女のことで頭がいっぱいになっていた俺には、その選択肢はなかったので、安っぽい同意をしてしまった。
「今年初めての運試しに行くとしますか?」
断ろうかとも思ったが、卓人は結構乗り気のようだった。それにもしかしたら、おみくじに俺の助けになるなにか。助言のようなものがあるかもしれない。と俺は少し神頼みも兼ねて、おみくじを引くことにした。
再び石段を上り、小さな社務所で売っているおみくじを引いた。卓人が買うのを待って、二人で一斉におみくじを開いた。結果は、俺が吉で卓人が中吉であった。
「おっしゃ! 俺のほうが上だな」
卓人は嬉しそうに俺の目の前におみくじを広げて見せた。
「何言ってんだ。俺のほうが上だろ?」
二人して微妙な結果を引いてしまったが故に、醜い争いが始まってしまった。
「俺は中だぞ? 大の次は中だろ?」
「場所によって違うんだよ。吉が上のところだってあるんだよ」
「へぇ~、そうか」
卓人は不敵な笑みを浮かべながら、社務所の横隅を見た。そこにはこの神社の運勢の順が記されていた。
大吉、中吉、吉、小吉、末吉、凶、大凶。
「参りました……」
俺は素直に卓人に頭を下げた。
「分かればよろしい」
と言い、勝ち誇った笑いをあげた。
「まぁ、大事なのは内容だよ」
と、俺はおみくじの項目を静かに読み始めた。卓人も、確かに。という顔をして、おみくじを再び自分の眼前にもっていった。
「おぉ、今年恋愛運いいぞ!」
卓人は嬉しそうな声を上げ、俺の肩を叩いた。と思ったら。
「うわぁ、学問はかなりキツめの指摘だ……」
「んなこと言ったって、学問なんてどうせ勉強しないんだから変わりないだろ」
「ハハハっ、確かに」
俺のほうには、特に目を引くものはなかった。そして最後の項目に目を向けると、そこには、「今年は勝負の一年になるでしょう」と、書かれていた。あながち間違っていないかもな……。俺は白い息を吐きながら、雲に覆われた空を仰いだ。
「そもそも、おみくじなんてただの気休めだからな」
卓人はそう言うと、荒々しくポケットにおみくじを突っ込み、階段を下りて行った。卓人の言う通りだが、蔑ろには出来ないな。と、俺は丁寧におり直し、財布にしまって卓人を追った。
帰りのバスが来るまで少し時間がかかった。卓人と立ち話をしていたので、それほど長くも感じなかったが、およそ三十分ほど待っていたようだ。少し空も暗くなってきており、黒い雲が空を覆い始めていた。
待つ利用客は多く、ほとんど無人で走ってきたバスは、蘭美神社前で乗ってきた客で埋め尽くされた。俺たちは座席に座ることは出来ず、再び立ったまま数十分バスに揺られた。
十数分後、バスは十字路のバス停に止まった。
「今日はありがとな、卓人。それじゃ、また学校で」
「おう。またな」
以前となんら変わらない卓人の笑顔が俺を見送った。
バスを降りると、タイミングを見計らっていたかのように雨が降ってきた。
「マジかよ」
俺が走り出そうとしたとき、ピンク色の傘が頭上に被さった。
「傘……?」
「あの、良ければ……」
後ろを振り向くと、そこにはあかりがいた。俺に傘の大半を被せているせいか、あかりは少し濡れていた。
「は、早くこっちに」
俺は傘の取っ手を握る彼女の手に、自らの手を重ね、彼女を自分に引き寄せた。
「あっ……」
勢いのまま、彼女は俺の胸にぶつかった。傘は俺がしっかり握っており、二人が濡れることは無かったが、彼女にこの高鳴る鼓動が聞かれているのかと思うと、さらに鼓動は早まっていった。数秒。それこそ、一秒、二秒の間ではあったが、まるで別次元に囚われてしまったかのように、長く短い時が過ぎた。
「あ、ごめんなさい!」
あかりは慌てて体を離した。傘から出ない程度に。
「その、こちらこそ、ごめん。いきなり手を引っ張ったりして……」
またもや無の時間が訪れた。しかし神社で味わった気まずい雰囲気ではなく、なにか温かい空気が二人を包んでいた。
「その、寒くなる前に帰ろっか?」
あかりは俺の横に並び、俺が歩き始めるのを待った。
「そ、そうだね」
俺とあかりは歩き始めた。彼女寄りに傘をさして。道路側に出ている左肩には、白い結晶がついた。降ってきたのは雨ではなかった。そう、これは、雪だ……。
二人で、花火大会に行くことを約束した日のように、十字路を渡った。
住宅街を歩きながら、まずはあかりの自宅を目指した。
「なんでバス停にいたの?」
突然のことで、咄嗟に彼女が濡れないように傘の中に入れたが、そもそもあかりがなぜあの場にいたかを疑問に思ったのだ。
「同じバスだったんだよ。一番後ろに座っていたの」
「あぁ、なるほどね。傘持ってるなんて、用意周到だね」
「そ、そんなことないよ! 今朝ニュースで雨が降るかも。って言ってたからで……」
彼女は頬を赤く染めながら、もじもじと話を続けていた。
「ハハハ。そっか。なんにしても、ありがと。家まで送るよ」
「そんないいよ! でも、やっぱり甘えちゃおうかな?」
潤んだ瞳は、元からキラキラと輝いているあかりの瞳をさらに煌かせた。この言葉は水に溶ける砂糖のように、甘く、切なく、愛おしく、脳に沈んでいった。
その後も会話を疎らに続けたが、先ほどのあかりが頭から離れず、あかりに止められるまで、あかりの自宅に到着していることに気が付かなかった。
「本当に送ってくれてありがとね。傘、持っていっていいよ。雪まだ降ってるし」
「いや、走ればすぐだし――」
「いいの! 今度返してくれれば……」
あかりは、俺の言葉を聞く前に言葉を被せた。
「それじゃあ、ね?」
あかりは細い手を振りながら、俺を見送ってくれた。相当冷え込んできていたので、俺はいつもより早めに曲がった。あかりのことなので、俺の姿が見えなくなるまで玄関で見送ってくれると踏んでの行動であった。
あかりから預かった傘は、ピンク主体の水玉模様で、男の俺が持っているのは相当浮いていた。恥ずかしさもあったが、それ以上に俺は嬉しかった。この傘があれば、あかりと繋がっていられるような気がして……。
あかりにも言ったように、あかり宅から自宅まではそれほど距離もなく、数分で自宅に到着した。雪はしんみりと降り続いており、明日の朝まで降れば、道が隠れるくらいには積りそうな勢いであった。
「ただいま」
俺は玄関を開け、傘立てに傘を入れた。靴は予想以上に濡れており、それは中にまで浸透していた。
「彩照! 悪いんだけど、タオル持ってきてもらっても良いかな?」
俺の声が廊下を通り、リビングの扉まで届いた。と思う。しかし返事はなく、廊下は静まり返った。
「すみませーん。まだお怒りでいらっしゃいますか?」
俺は再びリビングに向かって叫んだ。するとリビングの扉を、向こう側からトン。と彩照叩いた。はい。という意味なのだろうか。
「悪かったって。足が濡れてるから家に入れないんだよ!」
返事はなかった。どうやら疑問文で問わなと返事が来ないらしい。
「濡れた足で上がっていいんですか?」
トントン。これはおそらく、いいえ。なのだろう。
「明日の朝食を作ればいいですかね?」
トントン。これではないらしい。
「んー。じゃあ、明日一緒に買い物に行ってほしい。とかか?」
トントン。なんなんだよ。話せよ。
「はぁ、もう上がるぞ?」
トントントントン。いや、どちらかというと、ドンドンドンドン。だな。
リビングの扉はゆっくりと開いた。少しの隙間から、彩照の顔がひょこりと出てきた。
「今日、どこ行ってたの?」
「そんなことでいいのか?」
「たっぷり聞かせてもらうからね。その傘のこととか」
ギクッ。見えていたか。見えないように傘で隠したつまりだったが、色が鮮やか過ぎたか……。
「分かった。降参だ。全部話すよ!」
投降すると、彩照はスキップをしながら風呂場に行き、タオルを持ってきた。
濡れた足を拭き、ようやくリビングの椅子に腰かけた。向かい側に座る彩照は、頭を左右に振り、ニコニコしながら俺を見ていた。
「なんだよ」
「なにってなによ。早く話してよ。彼女のこと」
「お前も知ってる子だよ。てか、彼女じゃないからな!」
「ふーん。で、誰よ?」
彩照は明らかに楽しんでいた。
「幼馴染の、白羽根あかりだよ」
「おぉ! あの子ね。まったく、お兄も隅におけないね。あんなかわいい子を手中に収めるなんて」
彩照は、このこの。と言わんばかりに俺に指をさしてきた。
「だーかーら。彼女じゃないからな。たまたま同じバスで、たまたま降ってきた雪に、たまたま彼女が傘を持ってただけだよ」
「ほうほう。そんなに偶然が重なりますかね?」
「なんだよ。疑ってんのか?」
「ううん。嬉しいなって思ってね」
彩照は、俺に彼女ができたことが嬉しかったらしい。いや、まだ彼女じゃないけどね!
細かい詳細を彩照に説明し、俺は風呂に向かった。体も冷え切っていたので、温まりたくて仕方なかった。
「ふぅー。生き返る~」
彩照が気を利かせて、すでに風呂を沸かしておいてくれたようで、すぐに風呂に入れた。浸かっていると、風呂から上がる湯気のように、彼女の顔が、手が、声が、フワフワと思い出された。風呂に入っているせいもあったが、ますます体温は上昇していた。
すっかりのぼせてしまい、冬なのに風を浴びたい位であった。しかし湯冷めが怖く、そんなことはできなかった。
タオルを肩にかけ、リビングに戻ると、彩照が夕飯の準備をしていた。母が頼んでいたおせちが届いたようで、今日はそれが夕飯になった。彩照はお雑煮の準備をしていたようで、俺は先におせちをつまみ始めた。
「あ、お兄。お雑煮待っててよ~」
「いや~すまん。腹が減ってしまって。朝からなんも食ってないからさ」
「まぁそれなら仕方ないけどさ……」
いい匂いが食欲をそそり、おせちをパクパクと食べていた。
「お兄、お待たせ~」
彩照がお雑煮の入ったお椀を持ってきた。
「お、これもいい匂いだな~。早速いただきます」
「うん。どうぞ~」
アッという間にお雑煮を完食してしまった。匂いだけでなく、味も確かであった。
「ご馳走様。残ったのはまた明日にでも食べよう」
「ご馳走様~。そだね~」
二人で協力して片づけを済ませ、残ったおせちを違う皿に移し、冷蔵庫にしまった。その後、一度見たことのある正月特番を見、歯磨きをし、自室に戻った。
「今日はいろんなことがあったから、しっかりメモしておかないとな……」
俺は今日の出来事を、ノートに記していった。おみくじのこと、卓人のこと、そしてあかりのこと。おみくじの結果は去年と全く同じであり、あかりと神社であったことは、去年とは違う点。この世界はすでに変わり始めている。俺の手で、変わり始めている。確実に。そしてこの日は、あかりとの出来事を思い出し、深く感じながら眠りについた。
それから学校が始まるまでは、特に変わったことはなかった。一つ気がかりなのは、傘を返していないことであった。返そうにも、メールをする勇気もなく、再び偶然会うこともなかった。
…………。
そして冬休み最終日を迎えた。
「確か去年、俺は……」
毎日こんな調子で一日が始まる。当然覚えていないのが落ちである。したがって、俺は新しい一日を創り出すしかなかった。彼女が死なない未来を創るために。
一月にしてはそこまで寒くなく、珍しくスムーズにベッドを出ていた。しかしそれでも部屋は寒いので、リビングに向かった。彩照はすでに起きており、リビングは暖房で温かくなっていた。
「うぉ~、あったけ~」
「あ、起きてきてたの?」
「おう。おはよ」
「珍しく朝早いのね?」
「今日はそんなに寒くないからな」
「あっそ」
「今日の朝食は俺だったか?」
「いいよもう。今度からも私が作るから。それより、私出かけるから今日はこれで我慢して?」
そう言って、一枚のトーストをテーブルに置いた。
「これだけ?」
「いいでしょ、あるだけ。ジャムでも塗って食べて。それじゃ」
バタン。と大きな音を立て、彩照は出かけてしまった。俺は焼き立てのトーストに、冷蔵庫から出したいちごジャムを塗り、味わって食した。
食事を終え、特にすることも無かったが、日も出てきたので、彼女の家に傘を返しに行こうと家を出た。本当にいい天気で、ここ最近では一番日が出ているかもしれない。
こんな晴れた日に、ピンク色の傘を片手に歩いている俺は、あの雪の日よりも非常に見えただろう。
この角を曲がれば、彼女の家はもう目前だ。そして俺は角を曲がった。そこでは真昼間にも関わらず、若者たちが輪になって屯していた。俺は思わずため息をついてしまった。
「おいガキ。こっち見てため息ついただろ?」
見られていたのか、俺のほうを向いてガンを飛ばしてきた。俺は見て見ぬふりをして通り過ぎようとした。
「ちょいちょいちょい待ちなって」
「んだよそんな奴構わなくていいよ」
「そーだよ。今はこの子と遊んでんだからさ」
呼び止められたが、何やら向こうの話し合いの結果、俺は見逃してもらえそうだ。ちらりと集団のほうを見ると、その中心には一人の女性が立っていた。気の毒だなと思いつつ、俺が横を通り過ぎようとしたとき、タイミング悪く、あかりが家から出てきた。
「お、なにあの子。可愛くね?」
「あっちの子も連れて行こうぜ」
コソコソ話は俺に駄々洩れであった。俺は再びため息をつき、傘を強く握った。あかりには申し訳なかったが、あかりの傘を振るい、不良じみた奴らを追い払おうとした。
初手はこちらが当て、激昂したほかの三人が、俺に殴りかかってきた。一方的に何発かパンチが入り、俺は一度傘を振り回し、相手との距離を離した。そして的確に、一人、また一人と急所を傘で叩いた。
「いってー!」
「くっそー!」
「覚えてろよ!」
「……。俺のセリフないじゃん!」
こうして俺は四人組を撃退した。騒ぎは周辺の人が気づくか気づかないかの、小規模なケンカだったが、見ていたあかりがこちらに駆け寄ってきた。
「大神君!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよこれくらい……」
「良かった~。あ、あなたも大丈夫ですか!?」
あかりは、先ほどまで囲まれていた女性のもとに走っていった。
「大丈夫です。ですからそちらの方の手当てを」
と、俺のほうを指さしていた。
「は、はい!」
あかりは急いで自宅に戻っていった。
「だ、大丈夫でしたか?」
俺は道の真ん中で大の字になりながら、女性に向かって話しかけた。
「えぇ、大丈夫です。貴方のおかげで」
靴音がこちらに近づいてくる。女性は俺の顔を覗き込んできたが、日の光がまぶしく顔を確認することが出来なかった。
「派手に殴られましたね? それではあかりちゃんは救えませんよ?」
「!?」
俺が止めようとしたのも束の間、女性はそれをひらりと避けて、立ち去って行った。靴音がどんどんと遠のいていく。何かを知っている人物が目の前にいたというのに……! 俺はこんな自分が不甲斐なくて、悔しくて、涙が止まらなかった。そこにあかりがやってきた。
「大丈夫!? 痛みが出てきた!?」
「うぅぅ。だ、大丈夫……だよ」
俺は誤魔化しようのない涙を隠しながら、あかりに答えた。
あかりの肩を借り、なんとかあかりの家にたどり着いた。家が近かったとはいえ、俺は足首を捻挫をしており、その俺を支えてくれたのはあかりただ一人だけであったから、時間がかかってしまった。
「とりあえず、応急処置は終わったよ?」
「あ、ありがと」
「ううん。無事でよかった」
あかりは俺の手を握った。瞳からはわずかに涙がこぼれていた。
「傘、壊しちゃってごめんね」
「いいよそんなの。また買えばいいもの」
「じゃあこれは、俺が処分して――!?」
手元にあるはずの傘がない。そうだ。今思えばここに来るときすでに、傘は持っていなかった。可能性は一つしかない。あの女が持って行ったんだ。意図はわからないが、それしかない。
「そうなの。私が戻ってきたときにはもう傘が無くて……」
…………。
途中で口ごもった俺を察し、あかりが続けてくれた。
「そっか、じゃあ今度一緒に買いに行こうか」
「え、あ、うん!」
痛みも引いてきて、彩照が傘を持って迎えに来た。松葉杖代わりにになるだろう。と俺がメールをして持ってきてもらったのだ。
「今日は迷惑かけちゃってごめん。埋め合わせはするよ」
「ううん。気にしないで! 元気になってからで良いから……」
何かを言おうとして、あかりの口は止まった。彩照がいたからであろうか。
「お兄が迷惑をかけました。こんなお兄ですが、これからも末永くよろしくお願いします」
「ちょ、彩照! やめろって!」
「フフフ。仲が良いのね」
あかりは笑顔になっていた。これはこれでいいか。と俺はあかりに別れを告げ、帰宅した。その途中、彩照には相当いじられたが……。
「いっつつつつ」
夕飯、風呂、その他諸々を済ませ、自室のベッドに横たわった。足はまだ痛む。それにしても、あの女。いったい何者だ……? 謎は深まるばかりであった。しかしこれで、俺の警戒心も強まった。やはりあかりは狙われている。さらにその犯人も、俺と同じようにタイムリープをしてきている……! 誰なんだ……。いったい誰が……?
トントントン。ドアをノックされた。
「お兄。明日から学校だからね? 早く起きてよ、起こすの面倒だから」
「そうだったな。ありがと!」
彩照は部屋に戻っていった。明日から学校か……。学校の奴も疑うべきだよな……。おそらく犯人は、またあかりを殺すはずだからな、この街にいるのは間違いないはずだ。俺は思考を巡らせているうちに、眠りについていた。
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