第4話 ~再生の力~
「調子乗んなよ雑魚がぁ!」
細身の男は初汰を舐め切っているのか、透明にならず攻撃を仕掛けてくる。懐から短刀を取り出し、男は初汰に切りかかる。初汰はその攻撃を鉄の剣で受け止める。しかし先ほど食らったパンチのダメージが残っており、初汰は徐々に力負けし、片膝をつく形になってしまう。
「く……そ……」
「やっぱり雑魚だなぁ! このまま潰してやるよぉ!」
男は振りかざした短刀に力をどんどん込めていく。それに従って初汰はどんどん地面に沈んでいく。
ついに両膝を着いた時、腹部の痛みが引き始める。初汰はそのチャンスを逃さず、腹を抑えていた左手も剣の柄を握らせ、相手の短刀をどんどん押し返していく。
「ぐっ、雑魚のくせによぉ!」
「俺はまだ死ねないんだ!」
初汰はその叫びとともに男を吹き飛ばし、男は飛んで尻もちをつく。初汰はゆっくり立ち上がり、男に近づき喉元に剣を構える。
「はぁはぁ、だから言ったよな。また今度にしようって」
「や、やめてくれぇ! 今回のことは誰にも言わねぇ! だから助けてくれぇ!」
「二度とあの村を襲わないなら逃がしてやる」
「襲いません襲いません! だから助けてくださいぃ!」
初汰は構えていた剣を引く。すると男はすぐに透明になり、姿を消してしまった。
「コホッコホッ、初汰……大丈夫ですか?」
リーアは絞められていた首に手を当てながら、初汰のもとに寄ってくる。
「あ、あぁ。大丈夫だ……」
初汰は戦闘の疲れから、右手に握っていた剣を手放した。すると剣は拾う前の枝に戻り、地面に転がった。
「初汰、さっきのは一体……」
「俺にもさっぱりだ……」
「話だけ聞いたことがあるわ。その場の物で、その場に無いものを作り上げる。『再生』の力の噂を」
「再生……か」
初汰はそう呟き、グラッと横に大きくよろける。
「大丈夫!?」
「あ、あぁ。少し疲れたみたいだ……。今日は帰って休ませてくれ」
「え、えぇ。言われなくても帰るわよ。手を貸すわ」
リーアはそう言って初汰に肩を貸す。
「大丈夫だよ。一人でも歩ける。リーアも疲れてるだろ」
初汰はそう言ってリーアの手を振りほどくが、その反動で倒れそうになる。
「あっ、……まったく、助けてもらったんですから、肩くらい貸しますよ」
リーアは倒れそうになった初汰の手を引き、再び肩を貸す。そしてそのまま強引に村に歩き出す。初汰はそれに反抗しようともしたが、そんな力は残っていなかった。
…………。
二人は黙って森を歩き、少しして村に戻った。
「すみません。戻りました!」
「おう、おかえり。ってどうしたんだその坊主!」
門番はぐったりする初汰を見て、驚きの声をあげる。そして、
「おい! 獅子民さんを呼んできてくれ!」
と、ほかの村人に声を掛け、橋を下ろす。リーアは下りてきた橋を渡り、村の入り口で座り込む。リーアも限界が来たようであった。それから少しするとすぐ、獅子民が二人を迎えに門までやってくる。
「どうしたんだ!?」
獅子民は二人の姿に驚き、夜にも関わらず大きな声をあげる。
「しーっ、屋敷に戻ったら話します」
リーアは口の前に人差し指を立て、小声で獅子民にそう告げる。
「わ、分かりました。とりあえず私の背中に乗ってください」
獅子民はリーアと初汰を背中に乗せ、のしのしと屋敷に帰っていく。
「何があったんだ……?」
「また襲撃が来るのかしら?」
「早く手を打たないとな……」
村人たちもその光景を見て、不安を露にしていた。
間もなく獅子民は屋敷に到着し、リーアを部屋まで運んだ。
「着きました。しかし今日はゆっくり休んで下さい。話はまた明日伺います」
「良いのですか?」
「あぁ、リーアも相当疲れているだろう?」
「そうですね……。それでは、今回はお言葉に甘えて」
リーアはそう言って部屋のドアを閉め、ベッドに向かった。そして帰り際にこっそり拾った、初汰が戦闘に利用していた木の枝を、ベッドの横に備えてあるテーブルに置き、眠りについた。
一方獅子民は、リーアが部屋に戻ったことを確認すると初汰を部屋まで運んだ。意識は戻ったり無くなったりと朦朧としたものだったので、何も言わずベッドに寝かせ、獅子民は静かにドアを閉めた。
翌日、初汰が目覚めたのは現世で言う丁度昼頃であった。空腹もあって初汰はすぐに体を起こした。
「いっつつつつ。体が痛い」
昨晩の戦闘で、初汰の体は疲労やら筋肉痛やらでガチガチになっていた。
「あぁ~、でも腹減ったから下行かねぇと」
初汰は一つ一つの動作に悲鳴をあげながら、会議室に向かった。
ガチャ。
扉を開けると、すでに獅子民とリーアが座って待っていた。
「おはようございます、初汰」
「おぉ、起きたか。座れ」
「あ、あぁ。おはよ」
初汰はこの妙な空気に少し緊張しながら席に着く。
「早速だが、初汰、この木の枝は何だ?」
獅子民はそう言って昨晩戦闘で使用した木の枝をテーブルに置く。
「それ……俺が昨日拾ったやつ、だよな」
「これでアヴォクラウズのキメラと戦ったのか?」
「いや、なんて言うか……、変化させて?」
「そうなんです。初汰がこれに触れると、光を放って鉄の剣に変化したのです」
「むーん。話だけでは全く信じられんな……」
獅子民はそう言いながら、テーブルに置いた木の枝を肉球で転がす。
「んじゃあ持ってみますか?」
「そうだな。お前が良いのなら」
「そんくらいお安い御用だよ」
初汰はテーブルに置かれた木の枝を持つ。すると昨晩と同じように木の枝が光り、鉄の剣に変化する。
「ほほう。これが二人の言っていた……」
「はい。昔これに似たような力を、再生の力。と聞いたことがあります」
「それ昨日も言ってたな?」
「ほう、再生の力。か」
「はい、自らの生命を、生命無き物に分け与え自らの一部にする。と言った内容でした」
「なんだそれ。さっぱり理解できないな」
「私もこの程度の情報しか……」
リーアと獅子民は話すことが無くなったのか、黙り込んでしまう。
「あのよ、他の物で試してみたら、俺がその力を持ってるか持ってないかが分かるんじゃないか?」
「ふむ、そうだな。私は席を外せんから、リーアと行ってこい。どうだリーア?」
「はい、私でよければお供します」
「よし、じゃあ早速外に行くか」
こうして初汰とリーアは村の外に出た。そして折れた木の枝や石ころを拾い、村から少し離れたところで立ち止まった。
「こんなもので大丈夫でしょうか?」
「そうだな、とりあえず手当たり次第触ってみるか」
初汰は二人で集めた枝や石に触れてみる。しかし、何の変化もなくただ両手に枝と石を持つ不思議な絵面となった。
「あれ? なんも起きないな?」
「なぜでしょうか……。これはどうですか?」
リーアは昨晩初汰が戦闘で使用した木の枝を渡す。初汰がそれを受け取ると、枝は光って鉄の剣となった。
「これは変わるんだな……」
「なにかスイッチがあるんですかね……」
初汰は渡された木の枝をリーアに返し、他の枝や石をとにかく触ってみる。
「ダメだなぁ。これもそれも……」
「武器に変化するには何かが足りないのではないのですか?」
「何かって?」
「そ、それは分かりません……。ただ、本には想像が大事だと書かれていました」
「想像ねぇ……」
初汰はそう呟きながら、足元にある小石を拾った。するとその小石は光り、小型の爆弾に変わった。
「おぉ! 爆弾になった!」
「爆弾ですか?」
「あぁ、これが爆弾になったら面白いだろうなって思ったら、この通り」
「つまりは、同じ大きさでこうなったらいいな。と言う想像をすれば、それに変化する。ってことになりますかね?」
「よく分かんねーけど、今はそれが一番有力だな」
初汰は右手に持った爆弾を少し遠くに放った。数秒後それは小さな爆発を起こす。するとそれと同時に、初汰の小指が尋常ではない音を立てた。
「いって!」
「だ、大丈夫ですか!?」
リーアは慌てて初汰のもとに近づき、右手を見る。
「これは……。骨折してますね」
「はぁ!? なんでだよ!? いてて」
「先ほど屋敷で話した。『生命を分け与える』と言うことに関係していると私は思います」
「分け与える……」
「はい、つまり先ほど投げた小石。いえ、爆弾は、あなたの意志で、小石から爆弾に変えた。そして爆弾の状態のままこの世から無くなった。と言うことは、爆弾になっている間はあなたの生命に害が及ぶのではないでしょうか?」
「ちょ、ちょっと待って。意味が分からない。もっと簡単に」
「そうですね……。今これは木の枝ですね。この状態ではまだあなたの一部ではありません。ところがこれをあなたが持つと鉄の剣に変わる。その瞬間にあなたの体の一部になるってことです」
「つまり、爆弾や剣に変化している状態で、それが壊されると、俺にダメージが来る?」
「そうです。おそらく。そしてダメージは物の大きさによって変わってくる。今は小石だったので、小指一本で済んだのだと思います」
「じゃあ剣が壊された……」
「はい、腕一本くらいは持っていかれてしまうかもしれません」
「恐ろしい力だな……。まるで諸刃の剣だ」
「しかし破壊される寸前で、あなたが手を放してしまえばいい話です」
「確かにそうだけどさ。攻撃受けてるときには放せないだろ?」
「それは場合によるのではないですか? 違う武器を調達し、今持っているのを捨てる。など、自由に立ち回れますよ?」
「あぁ、確かに。でも常に頭をフル回転してないときつそうだな」
「そこが初汰の力の見せどころです」
リーアは謎が解けた解放感と、初汰への期待で上機嫌になり、スキップして村に戻っていく。
「ほら、早く帰りましょ?」
リーアはぴょんぴょんと軽く跳ね、先に戻っていく。
「あ、ちょっと! ったく、とりあえず何本か枝持っていくか」
初汰は数本木の枝を拾い、村に向かって走り出す。
そして村の前まで来ると、リーアは突然立ち止まり、初汰の方を振り返った。
「すみません。つい気分が良くなってしまい、はしゃぎ過ぎました」
リーアはそう言って初汰の右手を両手で優しく包み込む。
「いつっ。ちょっとそっち骨折してるから!」
「しーっ。静かに」
リーアの温かい両手に包まれ、初汰は少し顔を赤らめていく。
「はい、終わりましたよ」
「お、おう! てか何したんだよ?」
「軽い回復魔法です。このくらいの骨折なら治せます」
そう言ってリーアは手を放す。初汰は半信半疑で右手を強く振ってみる。すると痛みを全く感じないほどまで指は回復していた。
「おぉ! 痛くない!」
「ふふ、良かった。さぁ、屋敷に帰って獅子民さんに報告しましょうか」
「おう、そうだな!」
リーアと初汰は門番に声を掛け、橋を下ろしてもらう。その橋を渡り、二人は屋敷に帰っていく。
「獅子民さん!」
「オッサン! いるんだろ!」
二人は玄関で叫んだが、獅子民の返事は無い。二人は顔を見合わせ首をかしげると、真っすぐ会議室に入っていく。すると中では獅子民が昼寝をしているところであった。
「オッサン、戻ったぞ」
初汰はライオンの毛をわしゃわしゃとかき乱す。流石に獅子民も起きると思ったが、なかなか目を覚まさない。
「なかなか起きないな……」
「相当疲れていたのですね。休ませてあげましょうか」
「そうだな。俺も全身が筋肉痛……だったはずなんだけど、なんか体が軽いぞ?」
「ふふ、そこもちゃんと私がヒーリングしておきましたよ」
「お、マジかよ。サンキュ!」
「元はと言えば私のせいで戦闘に巻き込まれたわけですからね」
「良いってことよ。俺がリーアを守れるって分かったしな!」
「ふふ、頼もしい」
二人が和気藹々と会話をしていると、外が何やら騒がしくなり始める
「敵襲、敵襲!」
「また敵が襲ってきたぞぉ!」
村人たちは慌てふためいて村中を駆け回る。前回同様の急襲により、女子供を先に逃がし、少しでも戦える男たちは前に出て戦闘態勢をとる。
「私たちも行きましょう!」
「オッサン寝てるぜ!?」
「だからこそ私たちが村を守るのよ!」
「た、確かに……。よし、お、俺が前に出る。リーアは使用人たちに指示してくれ!」
そうは言ったものの、初汰の足は生きてきた中で一番震えていた。生きてきた中で一番早い鼓動を打っていた。しかし初汰は止まらなかった。背中に守るべきものを見つけたから。
初汰は勢いよく屋敷のドアを開け、先陣を切って村へ行く。
「みんな! 敵を倒す以前に、自分の命を大事にしてね! 無理はしないで、絶対に死なないで!」
「「「おーーう!」」」
使用人たちはリーアの号令で士気を高め、先陣を切った初汰に続いて村に流れていく。
「ケッケッケッケッ。昨日はよくもやってくれたなぁ! 絶対に俺が殺してやるぜぇ! 行くぞお前らぁ!」
昨夜初汰と戦ったカメレオン男を先頭に、敵陣の侵攻が始まる。
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