謎解き
「どうでしたか?」
……あれ?みんなきょとんとしている。どこがふしぎだったんだと言いたげな表情だ。
「先輩、友達少なかったんですね。かわいそうです」国見がいらない同情をしてくる。
「だれがっていうのはわかりませんけど、その人は扉の隙間からまつぼっくりを投げ入れたんやないんですか」
一年の
「落ちてたのはかさをひらいててんで?扉の隙間からは絶対入らへん」
「いやそうじゃなくて」国見が話し始めた。「部屋の空気は乾いてたんですよね。だから、犯人はかさを閉じた状態のまつぼっくりを投げ入れて、部屋の中でかさをひらかせたんだと思います」犯人に格上げされてる。
田原も同じ考えのようだ。こくこくと頷いている。
うんそうか……そう考えたか。僕も一度はそう考えた。だが。
「閉じたまつぼっくりのかさは乾いた空気の所で丸一日置いとかんとひらかへんねん。せやからそれでは絶対に時間が足らへん」
二人とも、僕の説明を聞いて黙ってしまった。ほら、ふしぎだろう?
「永原さん、わかります?」と国見が、話し終わってから一言も喋っていない永原さんにたずねた。
「わかるよ」さすがだ。
永原さんはおかしなことが起こると、推理力というのだろうか、そういうものが働いてすぐに真相を見抜く。
さっき少し書いたが、僕がこの集まりに参加したのはこの謎を永原さんに解明してほしかったのもある。
僕は興奮気味に、何が起こったのかをたずねた。
「うん。じゃあまず、
「ほんなら話は簡単。犯人は部屋の中にいて、まつぼっくりをまいたあと抜け出したっちゅうことになる」
「は?」おっと、声が漏れているぞ、国見。彼女が気になっているところを僕が代わって口にする。
「出入り口は前以外鍵がかかってたんですよ。前の扉も出入りできひんし」
「やから、犯人は鍵を持っていて準備室を通って部屋に入ったんや。後ろの扉は前の扉と同じように変な音出すやろうから」
そうだったのか。じゃあ、「部屋に閉じ込められたのはどう説明するんですか」
「んー、それはなぁ。ただ単に疋田くんに力が足りひんただけやで」
……え?
「考えてもみぃや。入るときは開いたのに出るとき開かへんような扉があるか? おおかた入るときに手助けもらうか出るとき押さえられてるかのどちらかやろ。ほんで、開けようとした時にちょうど押さえるっていうことはできひんから、入るときに誰かと開けて、出ようとするときうんうんうなってたっちゅうわけ」別にうんうん言ってない。
「だれかっていうのは?」田原が訊く。
「廊下ではそんなやつ見ぃひんたから、中におったやつ――犯人やろう」僕が答えた。
でも、まだ腑に落ちない。永原さんにもう一つ質問をする。
「出るときにタイミングを計るのが難しいっていいますけど、それは入るときもおんなじですよね」
「いや、違う。入るときは誰やっけ、ともゆきくんがおったやろ。その子が合図でも送ったんや」
そうか……ともゆきはグルだったのか……。
「まつぼっくりと閉じ込めはわかりました。犯人は誰なんですか」僕は永原さんに先をうながした。
しかし永原さんはなぜわからないのだとふしぎそうに首をかしげて、言った。
「岡先生に決まってるやん」
なぜ決まっているのか? 準備室の鍵なら職員室で誰でも借りられる。そう訊くと、
「理由その一。岡先生は疋田くんが被服室に行くのを知ってた。そうじゃないとまつぼっくりさんになられへん。理由その二。岡先生は疋田くんが泣いた時、すぐにかけつけた。雨の音にかき消されずに泣き声が聞こえるぐらい近くにおったはずや。理由その三。これが一番決定的。疋田くんは一度も、階段を上ってくる足音を聞いてへん。つまり四階には疋田くんと犯人しかおらへんた」
すごい。よくここまで推理できるもんだ。でも、どうして。いや。
「次は田原やな。よろしく」国見が主役を田原に引き渡す。
なぜ岡先生とともゆきはそんなことを?と訊くのはやめた。
永原さんは絶対に答えてくれない。自分で考えろと言われるだけだ。
それに、あのころの記憶をほじくりかえしていると、これかと思うものがあった。
「俺も疋田先輩と同じ、梅雨に起こったことを話します」
あの事件の後、僕は友達が増えた。
元が少なかったのもあるが、やっぱりまつぼっくりさんに巻き込まれたことを喋っていたことが大きいだろう。
「梅雨の晴れ間に国道を歩いてた時――」
二人は僕を心配してくれていた。
世の中、みんな誰かに気を使っている。
「前を歩いてた人が細い道に入っていって、そのまま――」
田原の話すこのふしぎな事件も、誰かの好意で起きていたらいいな――そう思いながら耳を傾けた。
……いや永原さんに頼っちゃだめだ。自分で考えないと。
まつぼっくりさん 水上 佐紀 @mystere
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