回想

 小学二年生の梅雨の時期。

 僕の通っていた学校には「まつぼっくりさん」という、いわゆる学校の怪談というやつがあった。

 校舎は二棟あったが、職員室の無い方、北館の四階の端にある被服室にそれはでると言われていた。そして、放課後にその部屋の中で寝ていると床一面にまつぼっくりが播かれていて教室に閉じ込められているという。

 そのころ僕はこの「まつぼっくりさん」をクラスで唯一信じておらず、学級で少し浮いていた。

 ある日、そのことが原因でけんかをしてしまった。教育実習に来ていたおか先生が収めてくれたが、し僕は挑発に乗って、きょう確かめてやると言ってしまっていた。

 そんなことで引くに引かれず、放課後僕は友人のともゆき(ちゃんと被服室にいったか確認するためについてきた)と共に被服室の前に立っていた。

 被服室はたいてい鍵が開いているので教師達にはなにも許可はとっていない。そんなことでどきどきしながら、僕は引き戸をひらいた。

 ギギッキキキィーーー。ひどい音がする。

 部屋の中は廊下より空気が乾いていて、蒸発する汗でうでがひんやりとした。

 外は曇り空で、今にも雨が降り出しそうだ。

 椅子に座って寝ようとすると、自分の役目を終えたともゆきの「扉閉めるで」と言う声とさきほどと同じ怪獣の鳴き声のような扉の音が一緒に聞こえた。

 足音が教室から離れていく。

 階段を降りる上靴の音を聞きながら、僕の意識は沈んでいった。


 なにか変な気配を感じて、目を覚ました。時刻は四時半過ぎ。雨の降る音だけが耳に届く。やはりというか予想に反してというか――床にはびっしりと、かさを開いたまつぼっくりが転がっていた。

 誰かのいたずらだろう。そう思った僕は、部屋の中に人がいないか探し始めた。が、見つからない。部屋から出たのかとも思ったが、窓はもちろん教室の後ろの扉も準備室へのドアも鍵がかかっている。

残るは前の扉だが、あんな大きな音がするんだから誰かが扉を開けたら寝ている僕でも気づくだろう。

 雨が強くなってきた。

 いや、まだまつぼっくりがあるだけで、出られないというわけではない。前の扉は三センチほど開いていた。僕は扉を開けようと、その隙間に手をかけた。……びくともしない。

うわさ通りにまつぼっくりがまかれ、僕は閉じ込められてしまった。

やはりまつぼっくりさんはいるのか?

 一度疑問を持ってしまうと、この状況が急に怖くなってきてしまった。

 閉じ込められたまま、僕はどうなるんだ?誰がこんなところへ助けに来るだろうか。僕は家へ帰れるのか?

 気が付くと、僕は恐怖で、座りこみ、泣いていた。

 すると、そのとき。


 ギギッキキキィーーー。


 廊下からの湿った空気。目の前の扉をひらき、現れたのは、岡先生だった。

「先生!」

 僕は先生に飛びついた。先生は何も言わず、僕の背中をさすり続けた。

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