30話かわいい字

彼女の柔らかくて丸っこい字をみるとやっぱり女子なんだなあと思ったりもする。


「いいよ。教えてあげても。ただし一つだけ条件がある」


「今日ちょっと放課後つきあって」


「え?何するの」



「ひ・み・つ」


そういってイタズラな笑顔を浮かべた。


また放課後つきあうのかよ。


というめんどくささもありながら、


そんなふりまわされているのを楽しんでいる自分もいた。


そうか。まったくもって僕はドMなんだろうか。


いや、ドMに違いないのだ。



彼女が小声でささやく。


「絶対来てね」


ハイ。女王様と僕は心の中で唱えた。


放課後。


僕はあの時と同じように図書館で彼女を待っていた。


幾分あの時と比べて待つことに慣れてきていた。


文学というものにこれっぽっちも興味がなかった筈なのだが、


珍しく古典文学を読んでいた。


芥川龍之介の「蜘蛛の糸」


「トロッコ」


「蜜柑」


宮沢賢治の「注文の多い料理店」を読んだ。


短編小説なら、


文字が苦手で飽き性の僕でも事にこの歳で気が付いた。


文学というのも悪くないものだ。

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