24話豆鉄砲

まるでマラソン走り終えたようなものだ。


42.195km走ったことはないけれどもきっと同じ達成感であるにちがいない。


脚がかなりくたびれた。


辺りは昼に比べれば日差しが柔らかいが、


それでもまだ明るく、うだるような暑さである。


夏の風物詩であるセミたちもジンジン大合唱である。


ほぼ一日桜井とは別の班であったため、人見知りの僕にはかなりの労力を要した。


合流し彼女と再会したときには正直安堵した。


なんていうか、


ちょうど迷い子がやっとお母さんと再会できたような安堵感だ。


まあ、こういう風にいうと僕をマザコンのように思う人がでてくると思うが、



僕は決してマザコンではないのだ。多分。


「どうした。坂野君。寂しかった?」


再会してすぐに桜井はそういった。


「何言ってるんだよ。バカ」


そういってごまかしたが第一声がズバリ図星だったせいか鳩が豆鉄砲を食らったような、


そんな心境であった。



しかも突然のことだったから。


ただでさえ嘘を付くのが苦手な僕だ。



ひょっとしたら彼女に感づかれたかもしれない。


「坂野君、嘘つくの下手ね。顔に書いてるよ」


彼女は笑った。


やっぱりバレてたか。


軽くテンパった僕は反射的に顔を触った。


それをみて彼女はさらに笑った。



「ハハハ。坂野君って面白いね。顔に本当にマジックで書いていると思ったの」


「いや、、、、」


めちゃくちゃ恥ずかしかった。


一応彼女も彼女なりに気を使ってくれたらしく、


人前なので坂野君という名称で統一してくれた。


そのことには敬意を示す。


間違っても敬くんといった爆弾発言は慎んでいただけなければならない。



そのうち敬くんじゃ飽き足らず、


敬たんとかになるんじゃないかという不安もあるのだが。

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