20話緊張
到着した場所はちょうどデパートの前だった。
道路をはさんで向こう側では選挙候補者の遊説が行われていた。
僕たちに募金箱とかけ声が書かれたプリントが配られた。
他の学校からも生徒が数人来ていた。
そこには男子が二人くらいいた。
それで、それぞれ二手に分かれて募金活動をするわけだが、
その他校の男子二人はあいにく僕が指定された班とは別だった。
それで結局は8人の班で男は僕一人。
男一人ということは必然的に募金箱を持つ係りに任命された。
さらにいうと、
その後、誰からいくかみたいな空気になり、自然と僕に視線が集まる。
そしてアイコンタクトが注がれる。
あーなるほど。そういうことか。
男はこういう時に辛いのだ。
僕なんかまだ入部して1ヶ月もたっていないバリバリの新入部員なのに。
だがここはおとなしく無言の圧力に従うことにした。
女性はこういうことでしくじると後にこじれると長引くし、悪い噂も広まりやすいから、
敵に回さない方が身のためなのだ。
ということで生まれてはじめて人がご
ったがえしているスクランブル交差点前に向けてファーストコールを行うことになった。
「みなさんのご支援ご協力よろしくお願いします。」
緊張のため声がふるえた。
喉もしばらく休んでいたせいか、
声も思いのほか大きい声がでなかった。
そりゃそうだ。
発生練習もしていないのにいきなりそんな大きな声出せるはずがない。
ほとんど向かいの選挙の候補者の声にかき消されるし。
しかも僕がいった直後にその候補者も
「よろしくお願いします」
というものだから、
まるで反芻されているようでとても恥ずかしかった。
そんな期待はずれの状況の僕だから、
女子たちは顔を見合わせて、
「え?今なにかいったの」
とでも言いたげな表情を浮かべた。
まったく、
こういう時ってどうしたらいいかよくわからないものだ。
もはや僕にとっては生き地獄以外の何者でもない。
来て早々ではあるが、早く帰りたかった。
人多いし恥ずかしいし。
募金活動を甘くみすぎていた。
そしてこの地獄はほんの入り口にすぎなかった。
その場でずっと立ちっぱなしで、
声を張り上げて募金活動をすることがっこんなにも大変なことだとは思わなかった。
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